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第77話 人は驚きすぎると逆に冷静になる件

――ベリアーノ市・第4区裏路地――

◇リゼット視点◇


 お兄さん達を巻いてボクは裏路地をトボトボと歩いていた。

 ボクに居場所は無い。

 ボクに、みんなといる資格なんてない


「お嬢ちゃん、下を向いて歩いていたら危ないよ?どうしたのかな?」


 不意に声をかけられて横を見ると家の壁に寄りかかって腕組みをしている少女が居た。

 栗毛色の髪を三つ編みにしているかわいらしい子だった。


「べ、別に何でも無いよ……ていうかお嬢ちゃんって言われてもさ……」


 この子、間違いなボクより年下だと思う。

 一応成人していますからね。お酒だって飲めますからね。


「うーん、やっぱりイマイチ決まらないなぁ。ボクにはリリ姉みたいにクールに決めるとか無理なのかなぁ……」


「えっと……」


「あのさ、泣きながら歩くなんてダメだよ。あなたらしくない」


「いや、君がボクの何を知っているのさ」


「うぇっ!?」


 女の子はどこかで聞いたような驚きの声を上げ目を見開いた。


「いや、知ってるつもりだったけど……でもよく考えたらボクの知ってる姿が全てじゃあないよね。何かグサッっときた一言だなぁ」


 どうやらこの子はボクの事を知っているらしい。

 困ったな。ボクの記憶にはいないぞ?

 知り合いは少ない方だからすぐに思い出せるはずだけど……もしかしてメイシーと旅してる時にどこかで?


「ご、ごめんね。今ちょっと頭が混乱していて君の事がすぐに出てこないんだ。えっと、君の名前は……」


「ボク?ボクの名前はアリス。レム・アリス。よろしくね、お母さ……………」


 アリスがハッ!はっと気づいて言葉を止める。


「…………………………」


「…………………………」


 沈黙が流れる。


「ハジメマシテ、ボクの名前は通りすがりのアリスです」


「今ボクの事『お母さん』って言おうとしたよね。しかもレムって苗字まで……」


「い、いや……何のことかな」


 視線が激しく左右に泳いでいる。

 誤魔化すのが下手すぎる。


「君さ。もしかしたら未来から来たボクの娘とかだったりする?」


「うえぇぇっ!?な、何の事かなぁ」


 あ、図星。

 何て素直でわかりやすい子なんだ。


「いや、口癖とかそっくりじゃん。しかもよく見たら君の顔、ボクとよく似ているよね」


 突拍子もない出来事だけどそもそもボクには未来視の能力があるしなぁ。

 何というかそういうこともあると納得している自分が居る。

 さて、どう誤魔化そうとするか。

 

「だぁぁぁ、そこは気づかないのがセオリーでしょ!?それで最後お別れするときとかに『あっ、もしかしてあの子……』とかが定番じゃん。感動のエンディングじゃん!なんでそんなに勘がいいんだよぉぉ!ていうかもっと驚いてよ!!反応がちょっと薄いよ!!未来から娘が来ましたよ!?」


 あっさりと白状した。

 いや、十分驚いているのだけれどね。

 まあ、これもちょっと成長した証って言うか……違うな。多分驚きすぎて逆に冷静になっているんだと思う。

 つまりこの子はあれだ。未来視でボクが抱いていた赤ん坊が成長した姿というわけだ。

 アンジェラの籍に入ってレムの姓を名乗るボクの娘。


「パニックになった時とかもそっくりだね、アリス……だっけ?君にはボクの悪いところが遺伝しちゃったのかな?」


「うう、やっぱりボクは姉さん達みたいに上手くできないんだ……いっつもそうやって足を引っ張ってばかりだぁ」


 落ち込みだした。何だろう、かわいいなこの子。

 お兄さんと結婚したらこんな子が産まれるのか……

 もしここでボクが逃げたらこの子という未来はそこで無くなってしまう。


「ありがとう、ちょっと心が楽になったよ」


「あれ?ボク未だ何もしてないけど……」


「いや、十分だよ。原理はよくわからないけど会いに来てくれてありがとう」


 そうだ。ボクは強くならなければ。

 この子を未来で腕に抱く為にも……


「あっ、そうだ。漫才してる場合じゃないよ。実は危機が迫っていて……」


「リゼットさん!!!」


 アリスの言葉を遮り鬼の形相をしたメイシーが路地裏に現れた。


「メ、メイシー!?」


「メイママ!?」


 メイシーはボクに駆け寄ると胸倉を掴む。


「あなたって人は何を考えているのですか!?どれだけ心配したと思っているんですか!!」


「ちょ、メイシー!!」


「どうせまた『自分には資格が無い』とか思って身を引こうとしてるのでしょう?いいですか?一連のこの流れ、起点はあなたですよ!?あなたが私達を引き合わせてくれた。そして苦難を乗り越えて家族になろうとしているというのに!!」


「お、落ち着いてメイシー!!」


 ぶんぶん振り回されながら何とか落ち着くように言うが聞いてくれない。

 そうだ、アリスだ!

 こんな時こそ助け船を……とアリスの方を見ると口をあんぐり開けてぶるぶる震えている。ちょっと!今まさに危機に瀕しているよ!?君のお母さんが危機に瀕しているんだよ!?


「うわぁ、メイママ……怖いよぉ」


 駄目だったー!!

 この子ボクに似ているせいもあって基本がビビりだーー!!


「私にまた家族が居なくなる痛みを味合わせるつもりですか!?そんなの絶対、絶対許しませんよ!何が何でも皆で一緒に暮らしますからね!!」


「わかった!わかったから!ごめん、本当にごめん!!大丈夫、もう大丈夫だから!!」

 

 そうか、メイシーは家族が居なくなるのが人一倍怖いんだ。

 だからこうやって本気で怒っている。

 それだけボク達の事を……


「それでも許されない。お前はただの偽善者なんだよ」


 声がした。役所で聞いたあの女性の声。

 路地裏を少し進んだところに、あの女性が立っていた。


「あなた……まさかその声はシラベさん?」


「えぇ!?」


――ベリアーノ市郊外――

◇アンジェラ視点◇


 あたしは赤髪の少女と魔法の絨毯に乗って移動していた。

 正確には魔法の絨毯セカンド。生地に大きく『2』と刺繍が施されている。

 あたしが使っていた初代はオーガスでの事件で失われてしまっている。

 これは、赤髪の少女の持ち物だ。


「あのね、確認させてね。あなた、あたしの娘でしょう?」


「!!」


 やはり、そういうことか。


「理屈はわからないけれどあなたを見て、直感したのよね。よく見れば目元とかナナシさんにそっくりだしね」


 あたしの言葉に少女は顔を赤らめる。


「名前、聞かせてもらっていいよね?」


「えっと……あたしはケイトって言います。その……お母……さん」


「ん。そっか。いい名前だね。それに美人ね。それでケイト、あなたは何故あたしに会いに来たの?恐らく、未来から来たとかそういうことよね」


「うん……突拍子もない話だけどあたしは実は20年後の未来から来たの。『破界の使徒』がリズママを狙って転移してしまって。それを妹達と阻止するためにこの時代へ来たわ」


 リズママ。つまりはリゼットの事ね。

 未来からの使者。確かに突拍子も無い話だけれど……疑う必要も無いでしょう。


「破界の使徒って?随分と物騒な名前だけど……」


「世界の理を破壊し滅亡させようとする輩よ。人の心の闇につけ入って操る卑怯な連中。『魔王軍』とか呼ばれているわ」


「魔王軍……驚いたわね。そんなもの、旧い時代のおとぎ話の存在だとばかり思っていた」


 世界を滅ぼそうとし魔物たちを率いる悪の魔王。

 それに立ち向かう勇者パーティ。昔から読まれている人気のジャンルだ。

 実際今でも『魔王』や『勇者』という概念は存在している。

 ただし、おとぎ話に出てくるような正義と悪といったものではなく功績に対する称号の様なものだ。


「本物の『破界の魔王』はその昔、勇者に敗れた後に身を潜めたの。心に闇を持つ者たちを使徒にして操りながら。そして、遂に本格的な『破界』をもたらす存在とタイミングが訪れたの」


 次々と情報が流れ込んでくるがどことなくある『答え』が浮かんできた。


「…………そうか、ナナシさん、つまりあなたのお父さんの事ね」


「……もしかしてお母さんって超能力者?ご察しの通り、連中の狙いはお父さんよ。ただし連中の筋書ではナナシという人物は魂の混じり合ったお父さんでは無く北條丈一郎そのものだった。彼は元居た世界で妻子を失い絶望しその末にこの世界へ転生する。だけど想定外の事態が起きた。それがお父さん、七枝良哉の存在。彼ともうひとりの魂が混ざるというアクシデントが発生し、記憶を失った状態でこの世界に転生されることになった」


 さすがナナシさん。魔王にとっても想定外の事をやってのけるわけね。


「ただ、計画に支障は無いだろうとそのまま筋書が進んでいった。だけど更なる想定外の事態が起きたの。それがお母さんの存在だった」


「そうね。あたしは本来ならアスコーナ森林地帯で命を落としていたはず。でも彼のおかげでその運命を打ち破って今こうしている」


「本来の筋書では北條丈一郎はレム・アンジェリーナを救うことが出来なかった。しかも後に救えなかった少女が自分の妻の姪だったと知る」


 心の傷を徹底的にえぐりにかかる筋書ね。

 考えた奴は相当悪趣味だわ。


「そしてトドメはオーガスの事件。そこで彼は完全に壊れてしまい魔王の眷族になってしまう。この筋書きは幾つも想定外の事態が起きた中でも変更されることは無かった。どちらにせよオーガスで彼は闇に落ちる、そう思われていた」


 リゼットによる裏切り。

 溢れるギリギリのところでとどまっていた彼の闇がそこであふれ出してしまったというわけか


「でもあたしが生きていた事で暴走は止められ、ジョウイチロウさんの魂は救済されたわけね。そしてあたしはナナシさんと結婚した」


「その通り。今は完全に魔王が描いたシナリオから外れている状態」


「疑問いいかしら?あなたは何故その筋書きを知っているの?あなたが居た未来というのは現在の延長線上にあるのよね?」


「平行世界っていうものが存在するの。『もしも』の世界。あたしは未来の世界で奴らと戦う中、筋書き通りに進んでしまった平行世界に迷い込んだことがある。そこで筋書の存在を知ったわ」


『もしも』の世界。

 つまりはあたしが死んでおり彼が魔王の眷属となり世界の理を壊してる最悪の世界ということ。

 

「じゃあ……魔王は歴史を何とか元の筋書に戻すため時間をさかのぼってきたわけよね?でもそれならもっと過去へ行きあたしを始末すればいいのではないの?」


 あたしがもし魔王なら間違いなくそうする。

 いや、そうか……


「……それが出来なかった」


「その通り。過ぎ去った時間をさ逆遡るというのはたとえ魔王であっても無理だった。ただ、眷属の中にとある方法で時間を遡ろうとした輩が居た。魔王の筋書というのはリズママが『ヴァッサーゴの瞳』で見せられていた未来視なの。だからそいつはリズママの瞳を媒介にして過去へやってきたの。魔王とは関係なく自らが新たな筋書きを立てようとしている輩、その名は……イシダ・シラベ」


――ベリアーノ市・第4区裏路地――

◇リゼット視点◇


「え?」


 シラベ?それってイシダ・シラベ?

 メイシーの友人で、お兄さんと同じ異世界からの転生者。

 聞くところによるとメイシーとおなじとしか少し上くらいの歳のはず。

 だけど目の前に居るのはどう考えても……


「ああ、憎い。お前の様な偽善者が幸せを掴むなど、世の中は不条理に満ちている」


「シラベさん。あなた一体何を?いや、でもその年齢は……」


「残念だったねイシダ・シラベ。ボクを消すためにお母さんを狙ったのだろうけど。狙いが外れていた」


 さっきまでビビっていたアリスが真剣な表情で腰に下げていた刀を抜き構えた。


「そうではない。私の狙いはあなたよ、アリス。母親を絶望に落とした上で適当な男との間に子供を産ますことが出来ればいい。そうすればあなたを眷属としてこちら側に引き込める」


「えーとリゼットさん、状況がよくわからないのですが」


「えーと、この子は未来から来た僕の娘でね。多分だけどあっちの人も未来から来たのだと思うけど……」


「………………………………」


「まあ、驚くよね。ボクも最初びっくりしたし」


「つまり未来の世界ではリゼットさんの娘がシラベさんと敵対している。その娘を仲間に引き入れるためにリゼットさんを絶望に落とそうとしている、と」


「理解早っ!!」


「これが教養というものです。驚いてはいますが頭はしっかりクールです。そして……」


 老シラベが薄ら笑いを浮かべる中、凄まじいスピードで距離を詰めたメイシーの拳が彼女の顔面にめり込んだ。


「うえぇ!?メイママがキレた!?」


「何をするッ!?この時代のあなたはまだ私と友人だったはず。それなのに!」


「ふざけないでください。私の大事な家族を傷つけようとする人なんて!只今をもって絶交です!!」


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