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第75話 書類はきっちり確認してから出しましょう

――サートス村・ナナシとアンジェラの家――


「え?リゼット達とベリアーノに行ってこいと?」


 いや、ちょっと昨日の酒が残っているんだが……

 結局、朝になるまでアンジェラが迎えに来てくれなかったので結構飲んだ。


「前にベリアーノに移ろうって言っていたでしょう?それでね、ちょっと家探しの下見に行って欲しいなって思うの。あたしは教会のお仕事に行かないといけないから」


 確かに。子どもを作ろうという話と並行してベリアーノに引っ越そうという事も話していたな。


「それなら……二人で行ける時の方がいいのでは?」


 二人で住む家なのだからやはり二人で探した方がいいと思う。


「アンジェラさんは私とリゼットさんがしばらくベリアーノに滞在していたことを見込んで案内して欲しいと言ってきまして。善は急げと言いますからね」


 何だ。メイシーは通なのか?

 そうか、そういう事なら一理あるかもしれないな。

 アンジェラによるとこの国には『子育て同盟』なるものがありそれを昨日結んだと聞いている。これもその一環というわけか。

 

「あれ?滞在していたのってまだ3日ほど……痛っ!!」


 リゼットが何か言いかけたらアンジェラが素早く背後に回って何かをしていた。

 何だろう?

 というかベリアーノは何度か行っているしそんな案内が必要とも思えないが。

ああ、あれかな。4年前とかもクエスト受けに行くのは必ず誰かがついてきていたからそういう感じなのだろう。


「まあ、そう言うわけであれば……それじゃあ二人ともよろしく頼むよ」


「お任せを」


「が、頑張るね……」


 リゼットの表情が妙に硬いな。

 何か違和感があるのだが……まあ、気のせいか



――ベリアーノ市・第2区――

◇リゼット視点◇


 来てしまった……アンジェラとメイシーに押し切られてボクは来てしまった。

 今回の任務はお兄さんに多重婚姻許可資格を取らせるというもの。

 それもお兄さんに気づかれない様に。そんなの無茶ぶりだよ……

 ていうか、またしてもお兄さんに内緒で密かに動くことになるし……


「なぁ、リゼット。不動産紹介所に行くんじゃあなかったのか?確かああいうのは4区のギルド本部にあった気がするが……」


「えっと……まあ、そうなんだけどね。その前に申請を出しておかないといけないんだよ。ほら、引っ越しすることになるしこう色々とね」


 冷汗が背中を伝う。

 これは無理があるかもしれない。だって役所に来ているんだもの。


「なるほど。申請は別の場所でする必要があるのか。どうせならギルドにその機能を集約してくれたら楽なのにな。まあ、お役所仕事ってのはどの世界でも変わらないか」


 いや、意外と誤魔化せている。

 安心すると共に胸がチクチク痛む。


「あはは、そうだよね……」


 ボクがお兄さんの気をそらしている間にメイシーが素早く書類を書き上げていく。見事な役割分担だと思う。

 

 ちなみに多重婚姻許可資格だが取得の審査には幾つか方法がある。

 それは女性達に不自由な暮らしをさせない財産をどれくらい持っているかという証明であったり、社会的地位がどれくらいあるか、冒険者としての実績などでそう言った中から選択することが出来るらしい。

 

 他にも『面接』というものがあり、これは他の条件で申請することが難しい人が選べる方法。     

 ただし、基本的に『面接』はかなり難しいらしく今回の選択肢にはない。

 お兄さんの場合は冒険者としての実績で申請する事になるだろう。難しい依頼を積極的に受けるスタイルをしていたので将来性があるとかそういったアピールが出来ると思う。先日のクアドラトロン討伐も加点要素になるだろう。


「だけど確かにメイシーが居てくれて助かったな。俺、何だかんだ言ってこういった手続きやったことなかったもんな」


「あはは、そうだね。冒険者登録もボク手伝ったしね」


 お兄さんが手続きになれている人でなくて良かった。


「ああ、そうだ。後でギルドに行ってパーティの再登録とかしておかないといけないよな」


「う、うんそうだね……」


 お願いメイシー。早く書き終えて!! 

 いや、待てよ……もしここで失敗しても結局はお兄さんとアンジェラが二人で生活を送るという今まで通りの展開がやってくるだけであってそれはそれで問題ない気がする。


「でも……」


 昨日『未来視』で視た光景が蘇ってくる。

 仲睦まじそうな家庭。悪くない気がするしそれにボクが抱いていた赤ん坊。

 あれってつまり……ボクとお兄さんの……

 そう言えばアンジェラが言っていたな。お兄さんって寝室では『すっごいスケベ』だって。

 そうか、『すっごい』かぁ…………ってボクは何をいけない事考えているのかな?

 あーヤバイ、顔面が沸騰しそうになってきた。


「リゼット?調子悪いのか?顔が赤いぞ?」


「え!?いや、これはちょっとその、息を止める練習をしてたからかな?ほら、イリス人の日課的な?」


 苦し紛れに何を言っているのだろう。イリス人にそんな習慣は無い。


「そ、そうか。あんまり体によくないから程々にな?」


 うわ、すっごいひかれた。


「完了です。申請出して来ました!!」


 とかやっているとメイシーが戻ってきた。


「え?俺がチェックとかしなくて良かった?サインとかいらなかったの?」


「ご安心を。重要な項についてはあらかじめきちんとアンジェラさんに聞いてきましたから」


「そ、そうか……」


 よし、これで後は申請が通るのを待つだけ。

 問題はその後にボク達とお兄さんの結婚についてどう説明するかだけどその辺はアンジェラに任せよう。むしろその先を考えなくては……即ち、ボク達がそれぞれお兄さんに求婚するということ。

 いやいや、考えろ。今ならまだ断ることが出来る。

 メイシーは完全にその気だけどボクは断れ……るかなぁ。

 お兄さんの事はすっぱり諦めて旅に出るつもりだったのに『未来視』のせいでそういう未来もいいなぁって思ってしまっている自分が居る。

 まあ、その『未来視』もお兄さんが絡むと不安定になるのであの未来にしたって確定ではないわけだけど……


「悪くない未来だよなぁ……」


 イリス王国ではキョウダイが王座を巡り継承争いが起きていた。はっきり言って家族仲は良くない。ボクの下には弟と妹が居たが小さい頃に不審な死を遂げている。ボクにとって家族というのは恐怖の対象だった。

 でも昨日見た未来視だとみんな仲良くしていて……あんな風な家族だったら、王族じゃなければ良かったといつも思っていた。


「リゼット?何が悪くないんだ?」


 声に出ていたようだ。

 メイシーがその様子を見てほくそ笑んでいる。ちょっとムカついた。


「な、何でもないよ。独り言だから」


 というかもし上手くいったらボクはお兄さんの事を『お兄さん』って呼べなくなるね。

 そう、アンジェラ達みたいに『ナナシさん』になるわけかぁ……うわぁ、ヤバイ。今まで『お兄さん』って呼ぶことで少し距離を置いていたから名前で呼ぶと途端に……想像したら鼻血出そう。


「リゼット。本当に大丈夫なのか!?何か様子がおかしいのだが……」


 ちょっと大丈夫じゃないです。

 そして細かいところに気づいてくれるお兄さん……優しいな。うん、やっぱり好き……ってだからぁ!!


「ナナシさん、騎士の情けです。そっとしておいてあげてください」


「……そういうものか?」


 ちょっと悔しいけれどありがとうメイシー。


「お呼びいたします。レム・ナナシ様。『面接』がありますのでこちらの部屋にお越しください」


「えっ!?」


 今、『面接』ってあり得ない単語が聞こえたけど……どういう事。


「家探すのも大変だな。面接まであるのか……対策とかしておけばよかったよ。まあ、ちょっと行ってくるよ」


 頭を掻きながらお兄さんは係員の呼び出しに応じ別室に。

 メイシーを見ると表情が凍り付いていた。

 ボクは近くに置いてある未記入の用紙を手に取り中を検める。

 『申請方法』を選択する部分に注目すると『冒険者の実績』という項目の真下が『面接』になっている。


「あの、メイシー……君まさか……」


 メイシーが震えながら視線を泳がせていた。


「す、すいません。やってしまったようです。早く書かなければと思いその、間違った場所にチェックを入れたかも……しれません」


 うわ、究極の凡ミスだぁ……


「何てことを……」



 いや、お兄さんならこの困難すら乗り越えられるかもしれない。

 というかボクはどうしたいのだろう。やっぱりお兄さんと結婚したいってことなの?

 もう自分の気持ちを確認するだけで精一杯なのだけど……


「あなた達、多重婚姻許可申請を出しに来た人のお連れよね?運が無いわね。今日の面接担当はコレットよ」


 近くにいた職員の人が声をかけて来た。

 運が悪い?


「コレットは多重婚姻反対派だからねぇ。まず許可が出ないわ。あの子、元旦那に浮気されて離婚したクチだし」


 うわぁ……そりゃ確かに最悪だ。

 これってもしかしてお兄さんお得意の『運命ブレイカー』が悪い方向に働いている!?


「い、一生の不覚です。アンジェラさんに何て説明したら……」


 メイシーが座り込んで頭を抱えていた。

 ヤバイ。計画はいきなり暗礁に乗り上げた……


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[一言] そんな私怨入るような奴を面接担当にするなよ
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