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第67話 真実~3分の1~

◇アンジェラ視点◇


 山小屋の地下であたしに力を貸してくれた謎の女性。守護霊みたいな存在と思われた人が今度はあたしの前に姿を見せている。

 周囲の時間は止まっている。思った以上にハチャメチャな存在っぽい。

 あたしは疑問に思っていたことを口にした。


「あなたは……ナナシさんの大切な人、ですよね?」


「やっぱり気づいていたか。うん、そうだね。『3分の1』が正解」


 3分の1?

 肯定しつつも妙な含みを持つ回答にあたしは首を傾げる。


「とりあえず自己紹介をしておかないとね。あたしは北條玲奈」


「ホウジョウ・レイナ……」

 

 それがこの人の名前。ナナシさんにとって3分の1大切な人。

 うーん、やっぱり3分の1ってどうも引っかかる。


「あなたはナナシさんの……」


「彼はあたしの夫。『3分の1』ね」


 ああ、やっぱり……

 鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。

 何となく覚悟してはいたが彼には結婚していた相手が居た……ショックだな。


「あらあら、わかりやすく落ち込んでいるわね。ライラとよく似ているわね。流石は親子だわ」


「えっ……」


 唐突に出た母の名前。この人は母の知り合い?


「あたしがかつて名乗っていた名前はレム・レイナ。その名前、聞いた事が無い?」


「レム……ということはあたしの親戚だとかそういうの!?」


 レイナという名、確か聞き覚えがある。

 幼いころに生き別れたと母が語っていたお姉さんの名前。という事は……


「え、もしかしてあなたってあたしの伯母さん!?」


「誰がおばさんよ!いや、合っているか。確かに伯母という事になるわね」


「ごめんなさい。もう色々と理解が追い付かない。何がどうなっているというの!?」


「ふふっ、姪っ子ちゃんが慌てているわね。まあまあ、落ち着きなさい。ああっ!それにしても何か姪っ子ってかわいい響きね。そっかぁ、あたしの姪っ子かぁ」


 何だか自分の世界に入っている。

 この人があたしの伯母さんでナナシさんの奥さんだというの?


「あたしとライラは山奥の小さな村で生まれたの。でも幼い頃に人さらいにあってしまってね」


 母はかつて冒険者だった。冒険者になったのは生き別れになった姉を探すため、と話してくれたことがあった。


「その後ね、とある国の研究機関に売られちゃったの。人体実験の為にね」


「じ、人体実験って……」


「その実験は身体のあちこちをいじって『悪魔の呪い』に匹敵する能力を身に着けさせるというものだったの。運良く適合したあたしは能力に目覚めたわ」


 そう言うとレイナ伯母さんは腕の周りに魔力の渦を纏わせた。


「あたしが目覚めたのは『回転』を生む力。言っておくけど回転を舐めないでね。正確な回転っていうのは無限の力を生み出すことが出来るの。そしてそれは『螺旋』とも呼べる。あたしはその力を使い研究施設を脱出してそしてしばらくして『別次元』の世界へとたどり着いた」


「螺旋?別次元の世界?」


「異世界、ということよ。そこで出会ったのが夫となる男、北條丈一郎さんよ」


「ホウジョウ・ジョウイチロウ………それがナナシさんの本当の名前」


「3分の1、ね」


 また、その言葉が出て来た。


「あの、『3分の1』ってさっきからちょくちょく言っているけどどういう事なの?」


「教えてあげてもいいけど、覚悟はあるの?それを知って、あなたは変わらず彼の傍に居ることが出来る?彼に対するあなたの認識が大きく変わる事実よ」


「そんなの、答えがわかっているからあなたはあたしの前に出てきたのでしょう?」


「気に入ったわ。流石はあたしの姪っ子ね。ナナシという人はね、『3つの魂』が融合した存在なの。丈一郎さんはそのひとり」


「3つの魂……」


「3人でひとりなの。だから、3分の1。彼は丈一郎さんの『記憶』を持っている。同時に他の二人の『記憶』も混ざり合わさっている、記憶が無いわけじゃあない。最初から全ての記憶が『本人のものでありそうでない』」


「つまり彼は『ジョウイチロウさんであってジョウイチロウさんでない』という事?」


「そう。そして他の二人でもない。身体は『二人目』がベースになっているようだけど。彼が求める『失った記憶』というのは3人の『つぎはぎ』でしかない。」


 つぎはぎの存在。つまり彼が強く求めていた記憶というものは全てが彼のものであり、彼のものでない。


「そんな………そんな残酷な事って。でも何でそんな事が?」


「それについては長くなる。だから大事な事を先に伝えるわ。今も言った通り彼は特殊な存在。その身に宿る『心の力』はこの世界の運命を『破壊』したわ」


「あの……もうちょっとわかりやすく」


 ショッキングな情報が余りにも多く、あたしの頭の中はこんがらがっていた。


「一番わかりやすい例はあなたよ。アンジェラ。あなたは本来なら死んでいる『運命』だった」


 あたしが死んでいるはずだった運命?

 何故そんなことになるというの?


「この世界の人間はね、あらかじめ『運命』が決められているの。ライラの為にコンロン草を摂りに単身森に入っていくがそこで命を落としてしまう。それがあなたの運命『だった』」


 それはあたしがナナシさんと出会った時の出来事。

 あたしがナナシさんを好きになったきっかけでもある。


「あたしが……あの時死ぬはずだった!?」


「だけど『彼の力』によってあなたは『死の運命』から救われた。そこであなたは運命の筋書からはぐれたの。気づいているでしょ?自分が驚くような成長を遂げていることに。あれはあなたに嵌められていた『運命のキャップ』が外れたから。だから平民でありながら帰属を圧倒する程の成長を果たすことが出来た。そして今、こうやってあたしと話が出来ている」


「あの……ずっと気になっていたのだけど伯母さんは今」


「あたしの肉体は既に無くなっているの。悪い人に命を奪われてしまったの。死んだ後もあたしは魂となってあの人を見守ってきた。そうしたらまさかこの世界にやってきて姪っ子の命を助けて……それで惚れられちゃって。本当に人生何があるかわからないわね」


 レイナ伯母さんは肩をすくめ苦笑した。


「あたし達は魂の波長が似ている。だからこうやって干渉することが出来ているのね」


「あたしはどうしたら……」


「あなたにはきっとそれがわかっているはず。その為に、あなたに力をあげたの。『回転』を生む力。異世界で音楽を意味する『ミュージック』という言葉をもじって名前を付けたあたしの能力」


 そう告げるとレイナ伯母さんはあたしの額に人差し指を置いた。瞬間、頭の中に色々な風景、動植物の姿、そして数字の羅列・言葉が飛び込んできた。


「使い方は教えたわ。生かすも殺すもあなた次第。後は……頼んだわよ」


 言い終えるとともにレイナ伯母さんの姿をかき消え周囲の時間も動き出した。 


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[一言] 最後に渡されたイメージ……螺旋の力で進化するのか?
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