第66話 とある元宮廷召喚士の独白
◇ディギモ視点◇
身分違いの片思いっていうのをしたことがあるかい?俺が正にそれさ。
俺はとある国の戦争で父親と母親、そして妹を喪った。
戦災孤児となった俺はその国の研究機関に収容されそこで表には公表できないような過酷な人体実験を施された。
昨日まで一緒にいた子供たちが次の日には消えている。
そんな希望もない毎日を耐え抜き俺は強大な魔力を得た。その後俺はその研究機関を脱走し『あの国』に流れ着いた。
そこで俺は身分を偽装し実績を積み、宮廷付きの召喚士となった。戸籍上はある領主の次男坊ってことになっている。まあ、この国は母系制だから次男坊なんてものは大した存在じゃあない。もぐりこむのも楽だったぜ。
そして俺はあの方の家庭教師に選ばれたわけだ。それが出会いだ。
まあ、身分差は天と地ほどあったよ。彼女は5番目な上、気も弱く大して注目はされていなかった。だから俺みたいなやつが家庭教師になったのだろうな。上の方の姉ならもっといいとこの奴がお付きになっていただろう。
いずれ大人になったら小さな領地を与えられる。そこで万が一の場合の予備として飼殺される。それが彼女の、リーゼロッテ様の運命だった。
そんな生い立ちだからだろう。彼女は自分の事をとても低く評価している様な子どもだった。
俺はそんな彼女を励ましながら様々な学問を教えていった。ある程度やって、その後はもっと上の連中に鞍替えするつもりだったのだけどなぁ……恥ずかしい事に傍に居る内にマジ惚れしてしまったわけだよ。
さてさて、そんな俺なわけだが。リーゼロッテ様は俺を信頼してくれ色々な事を打ち明けてくれた。『悪魔の呪い』で視た『国が亡ぶ未来』の事とかさ。
そしてその未来に対し、彼女はあらがう事を選択し俺に協力を依頼してくれた。もちろん二つ返事で承諾したさ。
彼女を連れ密かに国外へ脱出。彼女が言う『国を救う英雄』を見つけ出し後は覚醒させるだけになった。だというのにこの男、リーゼロッテ様と同じ屋根の下で暮らし続けているだけで一向に目覚めやしない。
羨ましすぎだろ!俺なんかずっと黒子役だぞ。
腹立たしいのさ。
それに焦りがある。事あるごとにリーゼロッテ様を口説くようなセリフを吐きやがって。全部知っているぞ。
異世界人だか何だか知らないがぬくぬくとした環境に居た男が俺を差しおいてリーゼロッテ様に気に居られるのは、我慢ならない!!
人様の世界へ勝手にやってきて好き勝手しているんじゃあないよ!!
今回の作戦。あいつを仲間から分断して徹底的に追い詰めることで覚醒を誘発させるってものだ。
リーゼロッテ様があいつにプレゼントした手甲。あれには俺が密かに回収した『バルバトスの憤怒』っていう呪いが埋め込まれている。強大な力を秘めた呪いらしい。
実はリーゼロッテ様には内緒にしている事がひとつある。実はあの手甲にはもうひとつ『秘密』がある。それは制御装置だ。呪いに目覚めた後は俺が開発した魔法で精神制御をして駒になって貰う予定だ。俺と彼女が『国を救う為』のな。
そして俺は彼女と……
「昂ってくるじゃないのさ!さぁ、行けよ!!」
俺は離れた場所から遠隔操作で戦う。
邪魔な女ふたりは飛行能力を持つ『ギャンセクト』が遠くへと運んだ。
リーゼロッテ様についても一応演出としてその場を離れてもらう。
「まだ召喚しちゃうんだよね!」
既に召喚している『ポジハンド』と『ネガハンド』に加え巨大なサソリ型モンスターである『デスシャウラ』を召喚する。
連携攻撃で追い詰めればたとえおかしなスペックを持つこいつにでも対抗できる。
いつも通りガード姿勢を取るが対策は出来ている。『ポジハンド』と『ネガハンド』に命令し、攻撃ではなくガードの隙間に指をねじ込ませる。そして左右に力を入れガードをこじ開けさせる。
「な、何だ。こいつら、こじ開けられる!!」
知っているぜ。そのガードっていうのは姿勢をきちんと取らないと効果が無いって。だからがら空きになって防御力が低下した胸に『デスシャウラ』が尻尾の太い針を叩き込む。
「ぐぁぁぁぁぁ!?」
思いもよらなかっただろう?魔物に連携攻撃されてしまうとはな。
「さっさと呪いの芽を出せよ。そうしたら操り人形にしてやるからさ!」
もうすぐだ。もうすぐ俺の努力が報われる。
俺の、長年の想いが実を結ぶのさ!!
◇アンジェラ視点◇
まずい。虫型の魔物の排除に手間取り大分遠くまで運ばれてしまった。
どうも妙な動きだった。共生関係にある魔物が共同で獲物を追い詰めることは時々あるがこれはどうも違う感じだ。明らかに統制の取れた動き。
「召喚士……召喚士が背後にいる。リゼットも何か関係が?」
謎の声がささやいた『リゼットに気をつけろ』という忠告。
だとしたら目的は何だろう?
「今は急いでナナシさんの支援に行かなくては!!」
魔法の絨毯ならかなりの高速で戦線復帰が出来る。
発動させようとした瞬間、頭の中に声が響く。
『μ―ジック。時よ止まりなさい』
同時に世界が凍り付いた。
空を舞っていた蝶は動きを止め、蹴とばした小石が宙に固定されていた。
「これは……」
まるで時が止まったような光景。
その中で自分の身体は何とか動くようだ。
「やれやれ、面倒なことになったわね。」
いつの間にか右隣に女性が立っていた。
腰まで伸びた長い茶色がかった髪。先っぽが少しカールしている。
「あなたは………」
「止められるのはあなたしかいない。だから真実を、伝えに来たの。あの人の正体を。」
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