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第6話 漆黒のセドリック現る!

「あの、すいません……」


 それは暗く、地の底から響くようなおどろおどろしい声だった。


「うきゃひゃぁぁっ、で、出たぁっ!!」


 リゼットが大きく飛び上がり瞬時に俺の後ろに隠れた。ほう、中々の瞬発力だ。


「お助け~を!命だけは、命だけは勘弁してくださぁぁい!」


 何かに祈っている。やはり神様とかそういった類のものにだろうか。異世界であろうがやはり信仰というものはあるのと思う。


「……やれやれ、そんなに驚かなくてもよいでしょうに。私、少々傷ついてしまいますな。」


 声の主は生きた人間の男だった。まあ、幽霊などと間違えられたとしても仕方がない。昏く冷たい、洞穴の様な瞳がこちらを見つめている。正直、こんな奴に夜道で遭遇してしまったならば踵を返して逃げ出すくらいに怖い。ほとんど怪談だ。


「あ、え、あ……セドリックさん?」


「その通りでございます。ところでリゼットさん、依頼を終えたのならまずはギルドに報告へ来てもらいたいものですな。先ほど市場でお見掛けして、ギルドへ来られるのかと思えば逆方向へ行くものだから何事かと追いかけてきました。」


 セドリックと呼ばれた男はそう言うと今度は俺の方を向きうやうやしく頭を下げた。


「挨拶が遅れましたな。お初にお目にかかります。私、コランチェギルドのギルド員を務めております名をレクターリア・セドリック、またの名を『漆黒のセドリック』と申します。以後、お見知りおきを。」


 は、何だ?漆黒?漆黒のセドリック?

 今確かにそう言ったよな。凄くアレな通り名が聞こえてきた気がするぞ。これっていわゆる中二病とかいう奴なのではなかろうか?


「ああ、ありがとう。えっと俺は……」


 言いかけた言葉をセドリックは手で制す。口元には微笑を浮かべている。


「説明は構いません。ええ、リゼット殿も年頃の女性ですからな。そういう事もあるでしょう。わかっておりますよ。」


「ちょ、何か勘違いしてるよね!?違うよ、このお兄さんはえっと……森で……拾った?あれ?」


 リゼットよ、拾ったとは何事だ。もう少し言い様があるだろう。拾ったは流石にひどいぞ。ペットじゃないんだから。

 セドリックはリゼットの言葉を聞きほう、と感心した様子だ。


「なるほど行きずりでしたか……リゼット殿にそんな一面があったとは驚きました。無粋な真似をしました。クエスト報告は……後日で構いませんよ。ええ、ゆっくり、お楽しみください。」


「え、あ、ええっ!?違うの!違うんだよ!!」


 いえいえ、わかってますから。と言った表情でセドリックは手を振り立ち去っていく。どうやら盛大に勘違いをしているようだ。まあ、無理もない。それにしてもあの男……暗いが根はいいやつと見た。

 一方のリゼットは両手を地面につき落ち込んでいる。


「絶対誤解されてる。そして尾ヒレや背びれがたついた噂が流れる……」


 噂好きなのか、あの男。それは怖いな。どうやら行きずりの関係と勘違いされているらしい。いや、実際そうなのだろうけど何か嫌らしい響きだな。行きずりって……ってそうではなく確かに噂ってのは怖いな。背ひれ尾ひれがつくものだから。


「うう、明日ギルドに行くのがちょっと怖い……」


「な、何か俺のせいでごめん……」


「別にいいよぉ。そもそもお兄さんを招待したのはボクなんだし……」


 リゼットは深くため息をついた後。


「それじゃあ、お兄さん。改めまして、ようこそ我が家へ」

 

 俺は家の中へと招き入れられた。いや、本当に何かゴメンな。

リゼットの借家は外の状態同様、中もそれなりにボロかった。部屋は4部屋ありうち1つがリゼットの寝室、1つは倉庫。そして厳重に封をされ塞がっている部屋が一つ。ああ、「出る」のはここだな。

 

「狭い部屋で御免ね。」


「いやいや、雨風を凌げて6畳もあれば十分さ。おつりが大量に来る。」


 俺が案内されたのは6畳くらいの部屋で粗末なベッドが置いてあった。転生初日から中々の好待遇ではなかろうか。本気で野宿を覚悟していたからな。


「ロクジョウ?何それ?」


「そうだな。残っている記憶の一部なのだが俺の国で広さを表す言葉だ。」


「へぇ、そうなんだね。お兄さんがどこの国の人かはわからないけどこれは手掛かりになるかもね。」


「ちなみにちょっとした興味だがこの国では広さはどういう単位で表すのかな?」


「平方メートル?」


 メートル法なのかよ!


「メートルってのはものさしを意味する「メトロン」が語源らしいよ。」


 微妙に俺のいた世界と同じ設定もあるんだな。まあ、その方が助かる。新しく覚えることが多すぎても困ってしまう。


「お布団は予備が倉庫にあったはずだから後で持ってくるね。とりあえず、ボクはお腹もすいたしご飯を作ってくるね。」


 言うとリゼットは台所へと向かっていった。残された俺は布団を敷いてはいない木のベッドにそっと腰を下ろす。

 これからどうなるのだろうか。偶然リゼットに助けられたからよかったが下手をすればまだ森の中だったかもしれない。

 目を閉じる。力がゆっくりと抜けていくと同時に意識も深く沈んでいく。



 俺は椅子に座っていた。ぼんやりとした意識の中首を動かすと見えるのは木製のタンス、テレビ、テーブルの上には湯気があがる湯呑が置いてあった。

 これは俺の記憶?俺はこの部屋に住んでいたのだろうか?見たところ8畳程のワンルームだ。俺はアパート暮らしをしていたのだろうか?

 扉がノックされ、男が入ってくる。靄が掛かっているように顔は見えない。だが若い男と何となく理解していた。そして俺は彼に対し親しみの念を抱いているという事も感じていた。

 果たしてこの男は誰だ?俺とどんな関係なのだろうか?そして何より、俺は一体……何者なんだ?

 そんな事を考えながら俺の意識はゆっくりと闇へ沈んでいった。



 

「おーい、お兄さん。起きて、起きてくださーい」


「ん……」


 かわいらしい声に目を覚ますとリゼットが部屋の入り口に立っていた。


「リゼット?」


「お兄さん随分と疲れていたんだね。さっさとお布団出してあげればよかったね。ごめん。」


 どうやら座ったまま眠っていたようだ。


「いや、大丈夫。軽く眠っていただけだから……」


 ぎこちなく体を伸ばす。さっきの夢は何だったのだろうか。そんな事を考えていると…


「そうなんだ。あっ、ご飯できたよ。一緒に食べようよ。」


 言ってリゼットはくるりと方向を変えてリビングへ歩いていく。ふむ、何だね。あの可愛い生物は。ご飯だと呼びに来てぴょこぴょこ歩いてるだけなのだがあの「一緒に食べようよ」は中々破壊力があるな。脳内でさっきのセリフを何回もリピートさせながら俺はゆっくりと立ち上がった。


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