第64話 告白計画~後でサラダを食べましょう~
時間は凶暴魔獣討伐の数時間前に遡る。
ナナシ達はオーガスの街にあるギルドで受ける依頼を探していた。
◇アンジェラ視点◇
ナナシさんとリゼットが受付で話をしている間、あたしとぐーたら貴族は喫茶コーナーで休んでいた。
事件はその時起きた。
「アンジェラさんってナナシさんが好きなのですよね?」
「うふぇっ!?うごぉほぉつ!!」
唐突に聞かれ、あたしは飲んでいた水が変なところに入ってむせ込んでてしまった。
「あなたって……何だかこの頃、リゼットさんと似たような芸当を身に着ける様になりましたね。」
「だ、誰のせいだと……」
「彼への好意はこの間、女子会で高々と宣言していたし今更隠すようなことでもないでしょう?」
それはそうだけれども……まさか彼女からそんな話題を振られるとは思いもしなかった。
「そ、そうよ。何か悪い?」
少しだけ、無意味に強がってみた。
「悪くないですよ。ただ、気になるのですが………なぜあなたは彼に告白しないのかな、と。」
「こ、告白って……」
その言葉で全身の血液が顔に上がっていくのを感じた。
「何かおかしいですか?そうしないと関係というものは進展するものじゃあないでしょう?まさか彼から告白されるのを待つなんて惰弱な考えをお持ちではないですよね?あなたの様子、はっきり言って傍で見ていてイライラするのですが。」
「う……」
世界には男性主導、あるいは男女平等で始まる恋もあるがこの国では少なくとも女性主導で恋愛が始まる。女神に対する信仰が基となっているらしい。
基本的にまず女性が男性を選び告白する。自分の想いを胸に秘めておくのでは無く遠慮なくぶつけることが出来るのが「いい女」の証。男性にとってもそういった思い切りのいい女性に魅力を感じ一緒に居たいと思う。指輪を贈るのも女性からだ。ともかく女性にとって『攻めの姿勢』は恋愛において大事なのだ。
「まあ、同じパーティというのもあるしその……」
言い訳がましくぽそぽそと呟く。我ながら格好悪い。
「………例えば仮に私がナナシさんを好きになったとします。恐らく好意を確信した数時間後には告白しています。」
言い切った彼女の凛々しい表情に思わず息を呑む。
「何それ、無茶苦茶かっこいいじゃあないの……」
数時間で告白とはその結果はともかく潔いにも程がある。
「私から見るとあなたの行動は不可解です。あれほど身を焦がす様な好意を確信していながら行動に移さず受身の姿勢。うじうじとしているように見えます。」
「い、言いたいことはわかるけどぉ……不安なのよ」
情けない声が漏れてしまう。彼女程思い切りが良ければどれ程良いだろう。その勇気を分けて欲しい。
「フラれるかもしれない?そんな考えの女が魅力的に見えると思っていますか?私が彼ならちょっと勘弁……ってなりますよ?」
確かに、今のあたしの態度は男性から見ると優柔不断な女性というイメージを持たれてしまうものだ。
「う、うん……でも、ナナシさんってこの国の人じゃあないじゃない?もしかしたら恋愛に関する価値観が違うかもしれないよ?そうやってガツガツいく女が嫌いな文化圏に居たらどうするの?もし関係が悪化したらどうするのよ。」
やはり、言い訳をぽそぽそと呟く。
彼の事は好きだ。もしリゼットやメイシーがライバルになったとしても負けないと思うくらいに想いは強い。
それ故、それ故にもし告白が失敗してしまった時の事も考えてしまう。自分は果たして失恋から立ち直る事が出来るのだろうか、と。
「あのですね、『たら』とか『れば』で話をしても仕方がないでしょう?それに、私が思うに彼は同じ文化圏の価値観だと思います。」
「そ、その根拠は?」
「考えてみてください。例えば男性主導の文化圏の人なら女性3人と生活していて、『何もないわけがない』でしょう?」
「た、確かに!!そうだよね、あれだけ近い距離だけど何も起きてないよね。」
「つまり彼は『男性から恋愛を始める』という事を好ましく思っていない、我々と同じ価値観の持ち主、もしくは……」
「も、もしくは……」
「男性が好き、なのかもしれません。」
な、何ですと!!?その発送は無かった。
思い起こせばコランチェでは受付のエルマーさんと結構仲良かったし雑貨店の男性店員ともたまに飲みに行っていたりした。もしかしたらそういう恋愛観の持ち主かもしれ……
「い、いや違う。それは、それだけはあって欲しくない!!」
恋愛対象ですらないなんて悲しい。
「まあ、男性好きという可能性は考えないでおきましょう。と、ここまでお話していてあなたがやるべき事はひとつ。わかりますよね?」
ごくり、と喉を鳴らし答える。
「えっと……今から告白してくる。」
「確かにその方がイケていますがこれから魔物の討伐に行くのです。ここは『討伐が終わったら告白する』というのはどうでしょう?」
「おおっ!!」
何だかメイシーがすごく頼もしい味方になってくれている。今までぐーたらとか言ってごめん。
「そうですね。どうせなら食事に誘いましょう。リゼットさんは私が引き離しておきましょう。サラダなどどうですか?」
「おおっ!サラダなんてデートのド定番じゃない。それじゃあパインサラダとかいいかもね。」
「パインサラダってそれは急ぎすぎです。あなたはそのままプロ―ポーズする気ですか?」
それもそうだ。パインサラダを一緒に食べようだなんて『結婚してください』と言っているも同義なのだ。流石に気が早い。
「そ、そうだね。よ、よし。それじゃあこの戦いが終わったらあたし、ナナシさんを食事に誘って告白する!!」
「そうです。その意気やよし!です。」
ふたりで乾杯をする。告白作戦同盟が爆誕した瞬間だ。
「どうしたんだふたりともえらく興奮してて。ていうか仲良くなったんだな。てかパインがどうした?」
「ぶはっっ!!」
戻ってきたナナシさんから急に話しかけられたあたしは口に含んでいた水を彼の顔に勢いよく吹き付けてしまった。
後に『アンジェラのブレス攻撃事件』とからかわれる想い出だった。
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