第59話 アップデート
◇アンジェラ視点◇
『泣いていてはダメよ。ほら、顔を上げて……』
頭の中に響くように聞こえてくる女性の声。
はっと顔を上げると拳を振りあげるモンスターの姿が。
「ッ!時刻み!!」
『疾風の時刻み計』を発動。出た時間は6秒。こちらの動きが素早くなっているその6秒間にナナシさんを引っ張りながら敵から距離を取る。
『そうじゃない。逃げるのではなく、立ち向かう意思が必要よ。覚悟を決めなさい。』
視界の端に長い髪の女性が映る。慌ててそちらを向くが誰もいない。
直後、背後から声が聞こえ女性の気配。そして後ろから抱きしめられる。
『彼は大丈夫。『あの子』が出血を止めてくれている。あなたは為すべきことを。戦う意思を持ちなさい。』
直後、女性の気配が消えた。
どういうことだろうか。正直、訳の分からないことが多すぎる。
この女性は一体誰?『あの子』って?
とは言え、今戦えるのはあたしだけ。あたしが何とかしなければだめだ。ミアガラッハの城みたいにピンチになったらナナシさんが復帰してくれるなんて思ってはいけない。
「あたしがやるしかない!あたしがナナシさんの代わりにヤツを仕留める!!」
それは覚悟だ。あたしが何とかする。そう決意した瞬間、左腕に不思議な違和感をおぼえた。
「なっ………」
見れば左腕に奇妙なモノがしがみついていた。
不規則な水玉状の玉がいくつも連なった髪、黒目が無い黄色い目をした女性型の何か。妖精の類?
「ちょっとちょっと、何これ!?気持ち悪いけど……微妙に可愛いい!?」
あたしの問いに答えは無くただ「ミューン!!」と小さく鳴くと腕に同化、そのまま左前腕から手の甲にかけて渦巻き状の紋様が出現した。
「ええっ、ええっ!?えぇぇぇーーーっ!!?」
『あなたの能力は『アップデート』された。さあ、よく視て。何が必要なのか理解できるから。』
え、アップデート?何それ。聞いた事のない言葉なんですけど……というか『視る』ってどういう意味?
ふと、鑑定魔法の事が浮かんだ。もしかして鑑定のレベルが上がっているとかそういう事だろうか?要するにパワーアップ的な?
試しに鑑定魔法を唱えようとした瞬間、あたしの目に異変が起きた。あたしを中心に部屋全体に波紋の様なものが広がるのが視えた。
「これは……『視える』わ。こいつの正体が。『魂の形』が!情報が飛び込んで来る。これは鑑定とは違う。何か別次元の能力!」
魂に刻まれた名前は『カース・ミラー』。悪霊の乗り移った呪われた鏡が変異したモンスター。体の各部に散らばった鏡による物理・魔法の反射能力を持っている。鏡の部分には黒いオーラが纏わりついている様に見えた。ここに攻撃を当ててしまうと反射が起きる様だ。鏡が配置されている間隔は狭く攻撃の反射を誘発しやすい造りになっている……が。
「どこを攻撃すべきかが『理解』できる!鏡に覆われていない部分が広い箇所、そこが攻撃すべき場所。」
まず発見したのは右腕の関節部。ごく自然に、あたしは左の人差し指をそこへ向けた。すると腕から渦の様なエネルギーが出現し指の周囲を回る。
女性の声が聞こえた。
『どんなものにも名前はあるわ。彼を守るために目覚めた力。本来はここに存在しないはずだったあなたの想いの力。さあ、名前を呼んであげて。』
存在しないはずだった……そうだナナシさんが居なければ今のあたしは無い。これは彼を守るための力、その隣で戦うための、与えられたものでないあたし自身の力。
その名前が自然とあたしの口から出た。
「μ(ミュー)―ジック!!」
指から収束させた水を放った。水の牙は渦の力を纏って的確に、そして破壊的な威力で敵の関節部を射抜いた。水流弾がさらなる進化を遂げた様な感じであった。これは、魔法?
ゴトッと音を立て右腕のひじから先が床に落ちバキバキッと音を立てながら朽ちていく。
「ギュララララ!!?」
「名前の意味はわからないけど、これがナナシさんの隣に立つための、彼を守る想いの力よ!!」
左手の指から次々と発射された水の牙は敵の鏡に守られていない部位を的確に射抜いていく。そして敵がバランスを崩しのけぞった瞬間、喉元に最後の一発が撃ち込まれ貫通。呪われし鏡の怪物は絶叫を挙げながらバキバキと乾いた音を立て崩壊していった。




