第56話 謎の階段
俺は椅子に座っていた。見覚えのある空間。
かつてこの世界に来て初めて見た謎の夢と同じ場所だ。
俺はガラス製のグラスを手に取り水道へ向かう。
そこでグラスを軽く洗うと近くにあったウイスキーの瓶を手に取り中身をそこへ注いだ。
そしてグラスに注がれたウイスキーを一気に胃へと流し込んだのだ。
胃を焼くような感覚が体に走り同時に言いようのない悲しみがこみ上げて来た。
これは俺の記憶という事だろうか?そんな事を考えていると再びウイスキーをグラスに注ぐ。
おいおい、俺ってまさかアル中だったのか?
入り口が開く音がと共に声が聞こえた。男の声だ。
「△×さん……またお酒なんか飲んで……」
うまく聞き取れないが俺を呼んでいるのだろう。
だがこの声、何だかで聞き覚えがある。
「俺が何を飲もうが勝手な話だ。お前は俺の保護者じゃあないだろう」
「あんた、もう何か月も誰とも話をしていないぞ!」
「それがどうした?もうどうだっていいんだ。放っておいてくれ」
「放っておけるわけがない!あの時、あんたが居なければ俺は……」
ちっと俺は舌打ちをして男の方を向く。
視界に飛び込んできたのは若い男の姿。どういう事だ。俺はこいつを知っている。今朝だってこいつの姿を見た。
何処で?
そう、鏡の前でこいつの姿を見ているのだ。
目の目に立ちこちらを睨んでいたのは……『俺』だった。
「ナナシさん、どうしたんですか?」
声で俺は目を覚ました。心配そうに俺を見下ろすアンジェラの顔が見えた。
そこは小さな山小屋の中だった。ポープを退けた後、俺達は街を探して彷徨っていたのだが雨が降り始めたため急遽たまたま見つけたこの山小屋に身を寄せたのだ。
山小屋は打ち棄てられたもので無人だったが雨避けには十分だった。俺は疲れがたまっていた様でいつしか眠りこけていたのだ。
「アン……ジェラ?」
「はい。アンジェラです。ナナシさん、うなされていましたよ。汗びっしょりですよ。嫌な夢とか見たんですか?」
嫌な夢。
確かにそうかもしれない。
あの夢は何だったのだろう?
これまでも断片的に過去の記憶を夢で見ることがあり俺の人となりを知るいい機会であった。
いずれも俺視点のものでありまあ、それは当然の事である。
だが今回だけは違った。
何せ俺の視界の中に『俺』、即ちナナシと名乗る男の姿があったのだ。
これはどういう事だろうか?
それに今回の夢は今までとは何か違う種類のように感じられた。
まるで今まで見た夢とは『別人』の夢みたいな感じだ。
だがよくよく考えればあの部屋の夢は2度目。
ということは1度目の夢で訪ねてきた青年はもしかしたらこのナナシである俺であるとするとあの夢の視点はつまり……
「やべー、意味わからなくなってきた……」
思わず頭を抱えてしまう。思考がこんがらがってきた。
「あの……ナナシさん?」
「……すまない。訳のわからない夢を見てしまって混乱していた」
息を整え周囲を見るとリゼットとメイシーはすやすやと寝息を立てて休んでいた。
「俺がうなされているせいで起こしてしまったみたいだな。ごめん」
「そ、そんな。別にいいですよ。あたしも気になる事があって起きていたので」
「そうなのか。すまないな、こんな何処かわからない遠いところまで付き合わせてしまった」
「構いませんって。いつかこうやって旅に出るって思ってました。まあ、突然でしたけど結構楽しんでます。何かこうやって旅をしてたらその内、アルカンシエルも見つけられるんじゃないかなって思うし。」
「アルカンシエル……確かおとぎ話に出てくるっていう虹の都だっけ?」
「はい。昔読んだお話です。すっごく憧れてちゃって。でもおとぎ話だしそんなもの無いかもっていう気持ちもちょっとあったり」
アンジェラが肩をすくめ舌をペロッと出した。
「俺が知っている人……ものすごく昔の、俺たちが生きている時代よりもずっと昔の人なんだがな。その人は本で読んだ存在しないだろうと言われていた古代都市を探し続け、本当に見つけてしまったんだ。偉大な発見だった。アルカンシエルだってきっと見つかるんじゃないかな?」
「ナナシさん……」
「ところでアンジェラ。気になる事があると言っていたが」
「ああ……それですが」
アンジェラが視線をある方向へやる。
見ると山小屋の隅っこに木箱が詰まれている場所があった。
「木箱がどうした?」
「いや、あの……木箱の向こう側ですけど……変な階段があるみたいで……」
「変な階段だって?」
俺は立ち上がると木箱をどかしながら寄っていくと確かにあった。
下へ続く階段が……
「本当だ。ここ地下室みたいなのがあるぞ」
しかも階段の先には扉があるようだ。
「倉庫とかだろうか?」
「……そう、かもしれないですね。でもなんでわざわざ木箱を置いて隠しているのかなっていう疑問が……」
確かにそうだ。
ちなみにこういった隠し扉の先にはアイテムが眠っていると相場が決まっている。
俺は興味にかられ階段を降りてみることにした。
「あっ、ナナシさん待ってくださいよ……」
11段ほどの階段を降りて扉の前に立つ。目に飛び込んできたのは赤い扉一面に刻まれた謎の言語。
何が書いてあるかはわからないが一瞬にして『まずい』と空気が張り詰めた。
後ろから来たアンジェラもそれに気づき「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。
「そ、それ……魔除けの呪文です。」
「とすると何かモンスターが封印されているとかそういうことか?」
「まあ、そんな大層なものじゃなくて何というか幽霊を退ける系のやつです」
ああ、お札みたいなものか。
「あの、ナナシさん。何をしているんですか?幽霊とか信じていない系ですか?」
「いや、俺は意外とそういう話好きでな。幽霊は居ると思うぞ。そもそもゴースト系っていうモンスターもいるくらいだし。触れない方がいいものだってあるだろ」
「それじゃあ、何で『ドアノブに手をかけている』んですか!?」
アンジェラに悲鳴に近い声で気づく。
俺はいつの間にかドアノブに手をかけ扉をあけ放ってしまっていた。
「ど、どういうこと……だ?」
「ナナシさん、ダメですよ。何で先へ進むんですか!?」
俺の身体は自然と引き寄せられるように前へ前へと進んでいっていた。
「これは……これは何だかまずいぞ。非常にまずい気がする!!」




