表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/112

第5話 事故物件に年上のお兄さんを招待した件

◇リゼット視点◇


 うわぁぁぁ、何言っちゃってるのボク!?

 何が「ウチにおいでよ。」だよ!

 年上で、数時間前に出会ったばかりで、無茶苦茶強くて、その上記憶喪失な男の人に。

 何という所業か。いや、ある意味偉業なのかなしれない。

 頑張った。ボクよく頑張った!!


「……なぁ、リゼットよ。それは流石にまずくないか」


 お兄さんが困惑した表情を浮かべている。

 だよねぇ。そりゃそうだよ。


「でもお兄さん記憶も無くしてるし、知らないこと多いみたいだし、野宿させるのはなんか危ない気がするよ……」


 はい、正論ぶち込んでるけど無理があるよね。

 いや、まあ、確かにこのお兄さん放っておいたら何をしちゃうかわかったものじゃあない。


「……もしかして男の人が女の子の家にあがって間違いがあったらとか考えた?ボク、こんなだからそんな魅力ないし……」


 わははは、自虐いったぁーっ!

 まあ、確かにボクには女の子としての魅力は無いと思うよ。

 花屋のキャスとか同い年だけど男の人に人気あるしこう、女の子らしい……ヤバイ、何か一人で落ち込んできた。


「それに、お兄さんがそういうこと考える人ならもう森で襲われてるはずだしね。」


 自分で言って気づくけど考えようによっては恐ろしい状況だったよね。

 成り行きで街まで案内したけれど……いや、『実は』違うのだけれど……


 まあ、お兄さんは悪い人には見えなかったし何か信用出来るという感じが漂っていた。

 実際、この人が居なければ下手をすれば今頃コープスウルフの胃の中だったかもしれない。


「そ、そうか……」


「あはは、お兄さん慌てちゃってるね。何か可愛いな」


「え、あ、え……」


 ちょっと待って。

 今日はボク、本当にどうしちゃったんだろう。

 何で初めて出会った年上の男の人からかってるのかな。

 しかも楽しんでいる節があるよね。

 そんな小悪魔的な新しい一面を発見ですよ……そしてお兄さん可愛い。

 というかさっきから自分らしくない台詞を連発してて顔から火が出そうなんだけど……


「まあ、お兄さんもお腹すいたろうしとりあえず休んで行ってよ。」


 あれ、これはボク、お兄さんに料理を振舞おうとしてるよね……いやいやいや。

 人に料理を振舞ったことないんですけど!?

 何ちょっと「ボクって料理できるだ」みたいな感じで言ってるのかな!?

 出来る女の子感を出してるよね!?

 えーと、ボクの料理スキルどれくらいだったかな!?


「ではお言葉に甘えるとしようかな」


 やべ、お兄さん了承しちゃったよ。

 何を作ろう……まあ、食材はあるから適当に作れるけど二人分かぁ。

 量が分からないな。男の人だし食べる量多いよね?

 好みの食べ物は何かな。やっぱりお肉とか?

 でも野菜もしっかりとらないと体に悪いよね。


「それじゃあ、決まりだね。ついてきて!」


 ちょっと待って。家片付けてたかな。

 変なもの置いてないかな。

 人を上げて恥ずかしくないかな。

 人を招待したことも無いのに!

 いやいや、大丈夫。為せば成る!!


 それからボクはお兄さんを家まで案内するけど頭の中は大パニックに陥っていた。

 落ち着け自分、落ち着け自分、落ち着いてぇぇぇっ!!

 そうこうしていると借りている我が家に到着した。

 うん、改めてみるとボロいなぁ。

 まあ初級冒険者だし収入も安定してるわけじゃないから格安物件には助かってるんだけどね。


「前の持ち主が森で毒を受けたんだけど解毒剤をケチったせいで家に帰ってから死んじゃったんだって。」


 呟きながら思い出す。

 そうだよ、ここ「出る」んだ。

 その亡くなっちゃった前の持ち主が。

 解毒剤をケチるってどういう神経なのさ。

 死んじゃったら元も子も無いのに……

 

「夜になると時々うめき声が聞こえるんだ。『ど、毒消しを~』ってね。」


 時々じゃない。実は毎日なんだよね。

 入った当初はガクブルで眠れない日々が続いたけど最近は少し慣れたのか2日に1回は眠れるようになったんだよね。

 ……それでも怖いものは怖い。

 

「……怖くないのか?」


 ハハハ、超絶怖いです。

 背に腹は代えられないんで住んでます。


「……え?まあ、声が聞こえるだけだからね。一応、毒消しはお供えしてあげてるよ。」


 声が聞こえる『だけ』で良いわけじゃあないよ。

 声が聞こえる『だけ』でアウトなんだよ。


「あれ、お兄さんもしかして怖い?」


 いや、怖いのはボクの方なんだけどね。

 値段の割に部屋が沢山あるけど件の一部屋は封印してる。

 だってさ、どう考えてもあの部屋で死んでるんだもん。

 毎晩あの部屋から声が聞こえるんだよ……

 


「いや、そういうわけではない。ただ、幽霊というものは存在は知っていたが会ったことがないのでね。こんな簡単に出会えるものなのだと驚いている」


 会わなくてもいいと思います。一生!!

 まあ、でも考えようによってはアンデッド型やゴースト型モンスターとかの方が実害が大きいから怖いんだけどね。

 今日のコープスウルフなんて典型的なアンデッドだし……いや、半アンデッドか。

 今更だけど何だよ半アンデッドって……

 まあ、でも実体がある分こいつらはお兄さんなら何とかしてしまいそうな気がしなくもない。


「へぇ、お兄さんも驚くんだね」


 ていうかお兄さんちょっぴり楽しそうだよね……

 やっぱりちょっと変わった人だなぁ。

 でも悪くないな。男の人はそれくらいが頼もしいかもしれない。

 ……何を考えてるんだろボク。

 とりあえずどういうことか分析しよう。

 今日のボクはともかくおかしい。

 いつもならしないことを次々と、堂々としでかしている。

 何か、何か理由があるはず。

 考えろ、考えろ、考えるんだ。


 ……そ、そうか。幽霊に悩まされてるから自然と誰か一緒に居てくれる人を欲してたんだ。

 そこに頼もしいお兄さんが登場。

 そして声をかけ現在に至る、と。

 なるほど、それなら納得。完璧だ。

 よし、何か悶々としていた気持ちが晴れて楽になった。


「それでは……ようこそ、ボクの家に。」


 晴れやかな気持ちでボクはお兄さんに笑いかけた。

 と、その瞬間……


「あの、すいません……」


 暗く、地の底から響くような声が背後から聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ