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第55話 異世界ボウリング

お待たせしました。連載再開です。

 俺はこの世界の常識について知らないことがまだまだ多い。ゴーストという種族についても初めて聞いたものだった。そもそも俺の中にある知識というのはRPGで学んだようなものが殆どである。


「ゴーストとアンデッドとの違いは肉体を動かしているものが何かという点です。アンデッドの場合はその肉体を動かしている魂は本体のもの。対してゴーストは本体とは違う悪霊などが乗り移って操っているということです。他にも霊体そのものが動き回っている場合はゴーストとして扱われますね。」


 アンジェラが簡単に両種族の違いについて説明をしてくれた。


「なるほど。その理論で行くとあのポープというモンスターは別のモンスターのボディに悪霊が乗り移っていると考えていいわけか。」


「見たところゴブリン系統のモンスターが元になっているのじゃあないかと思うよ。そうだ、ゴースト系統には『打撃軽減』っていうスキルがあるから気を付けて!!」


 打撃軽減。恐らくは名の通り打撃によるダメージを減少させる特殊能力という事だろう。即ち、タフということだ。


「ゴーストには魔法攻撃が有効だけどあたしの魔法は阻害されていて効果が薄い。これはハードな戦いになるわ。」


 どれ、と俺はこちらへ向かってくる1体のポープを見据えると地面を蹴りこみその顔面に素早くパンチを叩き込む。ぐぇっ!と悲鳴を上げるとポープは体をのけぞらし血反吐を吐きながら後方へ何回も回転し地面を転がり、動かなくなった。

 その光景に息を止め、皆が動きを止めた。


「えっと……俺、何かやってしまったかな?」


「そうだった。この人そういう人だったよ!」


 リゼットが顔面を覆う。


「でもこれはチャンスよ!ナナシさんの攻撃力がバカすぎてポープの打撃軽減スキルも意味を為してないのだから。」


 まあ、攻撃が効いたという事はそういう事なのだろう。本来なら打撃ダメージが軽減される分戦いが長引くものだがそもそもオーバーキルしてしまう攻撃力なら問題などない。ただ、『攻撃力がバカすぎて』は少し傷つく。

 一瞬で仲間が屠られたという現実にフリーズしていたポープ達だが戦意を取り戻したのか再度こちら目掛け突撃をしてくる。

 ならば迎撃するまでと構えを取り一体をせいけん突きで撃破。そこへ入れ替わるように別の一体が違う角度から低空タックルをしかけ組み付いてきた。


「囮を使ったか?知能はそれなりにあるようだが残念ながら……非力すぎるっ!!」


 俺は組み付いてきたポープを引きはがすとその頭部を鷲掴みにして大きく逆手に振りかぶると残りの集団目がけ投擲した。これぞ異世界ボウリングという奴だ。結果は見事ストライク。ポープ達は散り散りになって逃げだしていった。完全に戦意を喪失してしまったようだ。


「アンジェラさぁ。確かゴーストって冒険者がつまずいてしまう原因のひとつだよね?」


「うん。倒しにくい、見た目が気持ち悪い奴が多いからね……」


 気が抜けた様子でアンジェラは倒されたポープの身体から何かを拾っている。


「まあ、素材のゴーストコアは価値が高いけど好き好んで相手にはしたくないよね。」


「あのさ、お兄さんいたらボク達ゴーストハンター出来るんじゃないかな?」


「かもねー……」


 リゼットも先ほどの非現実的な異世界ボウリングで気が抜けたようだ。うむ、やってしまったようだな。

 そんな事を考えていると、気づく。

 視界の端に誰かが映っていた。

 視界を向ける。小さな女の子だった。

 年の頃は7,8歳といったところか。

「君、どうしたの?迷子になったのかな?」


 なるべく優しく声をかけた。

 何せ先ほどまでゴーストを掴んでボウリングをしていたような男だ。その光景を目にしていたとすればこんな小さな子には化け物として映っているだろう。


「お父さんは?お母さんは?」


 少女は答えず、怖がりもせず、ただにっこりと笑っている。

 その微笑みにこちらも自然と口元の筋肉が緩むのを感じた。


「君は……どこかで会ったことがあるかな?俺は君を知っているのかもしれない……」


「ねえ、お兄さん。さっきからひとりで何を話しているの?」


 少女から視線を外しリゼットの方を向くと彼女は首を傾げていた。


「いや、あそこにいる女の子が……」


 少女の方を向き直った時、その姿はどこにも無かった。


「女の子?ナナシさん、さっきから誰もいない空間に話しかけていましたよ?」


「お兄さん、もしかして着地の時に頭とか打ってない?」


 二人が心配した表情をこちらに向けている。


「いや、そんなことは無いのだけれど……そうか、オムロ山で変な連中と戦った後からぶっ続けでここまで来ているのだからな。疲れているのかもしれない。」


 『俺は君を知っているのかもしれない』確かに俺はさっきそう言った。何故そんな言葉が出てきたのだろうか?

 もしかしたら、あの女の子も俺の記憶の一部という事なのか?

 だとしたら是非とも思い出したい。そう考えるのだが同時に心の内側で小さな波が何度も立つのを感じていた。

 何か、違和感がある。だがそれが何であるのかが自分でもよくわからない。

 あの少女は一体……


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