第52話 ストローンへ行きたい
「残念だけどストローン行きの馬車便は運航中止になってるさぁ。」
あごひげをさすりながら乗り場のおじさんは言った。地図で見たところストローンはそれなりの距離がある。魔法の絨毯で飛んでいくにしてもアンジェラにかなりの負担がかかるだろう。
ストローンに行きたいのは完全に俺のわがままだ。彼女にそんな負担をかけさせるわけにはいかない。ということで俺達は長距離馬車乗り場へと来たわけだが……まさかの欠航という答えだ。
「おじさん、運航中止ってどういうこと?」
リゼットの質問におじさんは肩をすくめる。
「いやぁ、それがな、ストローンへ通じる街道があるだろ?そこを丁度、ガイアワームが横切っているんだよ。」
「ガイアワームだって!?それってかなりの上位モンスターだよね!?確か紫色の体色をした超巨大ミミズ!!」
紫色のミミズか。聞いただけで気持ち悪そうな見た目だ。
「なあ、リゼット。そのガイアワーム、超巨大っていうけどどれくらいの大きさなんだ?」
超巨大とは言えミミズだ。場合によってはそいつを討伐するなどしてもいいだろう。
「そうだね、大体全長250mくらいかな。」
「にひゃっ!?」
前言撤回だ。いくらミミズでも250mの、しかも紫色のミミズというのは……すごく嫌だ。想像しただけで寒気がする。
「まあ、危害さえ加えなければ大人しい生き物らしいけど何せ移動にすごく時間がかかるんですよね……」
アンジェラがため息をつく。250mの超巨大ミミズがゆっくり貼っている光景……やはり寒気しかない。改めてここが異世界と認識させられた。
「10年に1回くらいはこういうのがあるんだよね。大量の土を食べるからそのせいで山が消えてしまったり結構な災害なんだけどね。でも結局250mのミミズに暴れられた方が甚大な被害が起きるから街へ向かったりしない限りはギルドも静観してるんだよね。」
確かに250mのミミズが暴れる光景というのは大惨事以外の何物でもない。まあ、街などに害を及ばさないなら共存していくというのもひとつの在り方なのかもしれない。
「しかしタイミングが悪いな……」
俺としてはすぐにでもストローンへ行きたいのだ。だがこの様子であると目的地に行くのはかなり難しいということになる。
「ナナシさん、これはですね、帰って寝ちゃいましょうということなんですよ……というわけで……むにゃむにゃ。」
俺の背中でメイシーが呟く。彼女は寝袋にくるまった状態でぐるぐる巻きにされ背中に縛り付けられていた。
「メイシーってばもう寝てる………。」
「本当にこのぐーたら貴族は。」
リゼットとアンジェラがそれぞれ呆れた表情で寝息を立てているメイシーを見ていた。
「むぅ……困ったな」
この世界に来た時失った俺の記憶を思い出すにあたって石田調の存在は重要なピースなのだ。
「あの、ナナシさん。イシダ・シラベって人ですけど……その人ってもしかしてナナシさんの……」
アンジェラが口ごもる。言いたいことはわかる。石田調は俺と親しい人間だった可能性がある。
「家族の仇で、ナナシさんはその敵を討つためにダルガルマの民が住むというタンパール山脈から出てきたって可能性無いですか?」
「…………えっと。」
そうだ。俺は古の戦闘民族ダルガルマと誤解されたままだった。それにしても何だその想像の斜め上展開は。
「ナナシさん、記憶を取り戻した時に何が待ち受けているか怖くないですか?」
「それは……」
正直怖い。ダルガルマ云々の話は別としてアンジェラが心配していることはわかった。取り戻した記憶が必ずしも幸せであるとは限らないのだ。それこそ、ミアガラッハの城で思い出した暗い記憶。あんなものが蘇ってくる可能性も十分考えられる。
「それでも、俺は立ち止まっていてはいけないと思うんだ。心配させてすまない。だけど俺は……」
アンジェラはそれを聞くと小さくうなずき。
「わかりました。それなら私に考えがあります。」
「考え?」
「転移魔法を使うんです。」
「!!?」
転移魔法。所謂ワープ系の魔法だ。一度行った事がある町まで一瞬で移動できるというRPGではド定番の魔法である。とは言え転移魔法については存在しないものと思っていた。
「転移魔法だって!確かに理論的には転移魔法を使えば遠くまでひとっ飛びだよ。でも、もし使える人がいたとしても国のお抱え賢者とかそういうレベルの人じゃないか!!」
リゼットが慌てて指摘する。そういう事なのだ。転移魔法が簡単に使えるなら馬車便など成立しない。それにホイホイあちこちへ飛んでいく魔法が簡単に使えたらそれこそ犯罪に使われてしまう恐れがあると思う。
「実はそういう人に心当たりあります。ただ……まあ、何というか……」
まるで梅干を頬張った時のような表情で顔をしかめている。
「自分で言っておいてあれなんですけどちょっと心配な点もありまして……」
嫌な予感がするが折角アンジェラが考えてくれた案だ。
「いや、構わない……アンジェラ、頼む。その人を紹介してくれ。」
「わ、わかりました。ではちょっと待ってくださいね」
そして半時間後……俺達はギルドの隣に立つ老人院。所謂老人ホームみたいな場所に来ていた。
「ナタリアーナさん、夕飯はまだかの?」
「ベルヘルトさん、あたしはナターリアさんじゃないですからね。後、今は朝ですからね?」
アンジェラが見た目だけは歴戦の戦士である老人、元絵本作家のベルヘルトさん、御年94歳に優しく話しかけていた。確かこの人って以前、ギルドの入り口で出会ったじいさんだよな。
「ってあんたかよ!!!」




