第51話 襲撃
◇イシダ・シラベ視点◇
街道を走る馬車を高台から見下ろす。私が外へ出てきた理由がそこにある。馬車の中にはベルグ、実験の出来損ないが居て護送中だ。組織には何の義理立てもないが今、こいつに色々喋られてギルド連中が横やりを入れてくるようになる事態は避けたい。このままギルドセイバーズの拠点に着いてからでは少し面倒だ。
だから街道で始末をつけることにした。「奪還」ではなく「始末」だ。ディクレスは騎士団の恥さらしだから始末するように言ってきたが私としてはデータは十分にとってことだし利用価値もとくには見いだせない。だからまあ、「始末」でいいだろう。
「シラベ様、あの馬車ですね。」
ローブを纏った3名の部下のひとりが言葉を発する。私はただ頷くことを返答とし、馬車を指さし静かに告げた。
「それじゃあ、やりなさい。」
瞬間、ひとりが火球を吐き出す。火球は馬車の手前で炸裂し警戒した馬が脚を止めた。
同時にひとりがローブを脱ぎ捨て躍り出た。
巨大なコブラに似た白亜の魔物、アルビノメドーサー。男にはその力が与えられていた。確か名前はテルガだったか。身体の大半はアルビノメドーサーのもので本人の部位は腹部に出現した人間の顔のみ。
想定されていた30%程度の出力しか出ない『失敗作』にあたるがそれでも並の冒険者よりは遥かに強い。
テルガは馬に巻き付くと瞬く間に締め上げついでに鋭い刃物となっている舌を突き出し御者の身体を刺し貫いた。
火球を放った男、シューマも参戦する。彼に与えられたのは高い防御力を誇り火球を吐き出す能力も持つアーマーライオン。彼もまた『失敗作』でライオンの背中から上半身が生えた状態である。失敗作ではあるけれど見た目は中々面白い。
その傍らには全身が鋭い刃となっている虫型モンスター、スラッシュホッパーと融合した男が立っていた。名前は……忘れた。バッタでいいだろう。
彼は他の2人と違い人型ではあるがバッタ男と呼ぶに相応しい容姿となっている。他の二人よりは力を引き出せているがそれでも理性をモンスター側に持っていかれることが多くやはり失敗と言える。
「やれやれ、こういった輩が彼を取り返しに来るとは思ってはいたがね。いや、口封じかな。それにしても随分と珍妙な集団だね。」
馬車の中から剣と盾を装備した中年の騎士が姿を見せた。頭には何とも形容しがたいとぐろを巻いた形の帽子が載っていた。ふざけた格好だ。
ベースになったモンスターの本能がなせる業だろうか。レギオンである部下たちが距離を取り警戒していた。つまりはそこそこの使い手という事か。
「まだ、隠れている者がいるね?わかっているから姿を見せると良い。」
「気づかれたなら仕方ない、ですね。」
剣を携え、高台から降りていき姿を晒した。。
「君達は何者かな?まあ、大道芸人だとかそういう類では無さそうなのは確かだがね。」
「答える必要性が見いだせないですね。大道芸人の集団ならさぞ愉快だったでしょうが残念です。私は研究者なので戦いはその子たちに任せたいと思いますのでどうぞ、はい。」
なるほど、と小さくつぶやき男は剣を構えた。
「ならばこのマロージャ。ギルドセイバーズの支部長として君達を敵と認識し相対しよう。。」
瞬間、部下たちが動きを見せた。アーマーライオンのシューマが先陣を切り鋭い爪で攻撃をする。マロ―ジャが盾でそれを防ぐが動きが止まった彼の身体をテルガが取り囲みシューマの離脱と同時に締め上げた。
「ギギギ、よくやった。後は俺がズタズタに切り裂いてやる!!」
バッタが飛び上がり強襲をかける。
「いいコンビネーションだ。だがまだ……甘いなッ!!」
瞬間、巻き付いたテルガが力任せにバラバラに引きちぎられる。そして強襲をかけるべく飛び込んでいったバッタを一閃。バッタは縦に真っ二つとなり地面に転がる。
「ひっ!何だこいつ、強い!?」
一瞬にして仲間ふたりが倒された事実に狼狽えたシューマの腹にマロージャが投げた剣が刺さる。
「うぎゃぁぁぁぁ、ま、待て!降参だ。話し合おう!!」
「悪いが君と交渉する気はない。」
追撃の為にシューマへ接近していくマロージャ。瞬間、彼の鎧と盾に巨大なひびが入り一部がはじけ飛ぶ。
血を吐き、倒れる騎士。一瞬何が起きたか理解が追い付いていない様だった。
「な、何だと!?」
私の方へと視線を向ける。
「ああ、そう言えば私は戦わないみたいな感じの事を言っていた気がしますね。すいません、すっかり忘れていました………ていうかそれ、嘘ですけど。」
私は剣に差し込んだプレートを取り出す。レギオン技術の応用でこのプレートにはモンスターの力が込められている。今起動させたのは破壊音波を操るシェイキングスタッグというクワガタ型モンスターの力だ。装甲が硬いかなと思ったし新しく開発したおもちゃは試してみたくなるもの。
「ぐっ……しれっと嘘を。卑劣な!!」
「いや、あれを信じたっていうのも驚きだけど……まあ、おかげで楽でした。」
「君達はこの力を使って何を企んでいる?」
「え?何でしょう?正直あまり興味はないかな。大体そんなの何でイチイチ説明しなくちゃいけないのですか。」
面倒くさい。よく漫画とかだとここでベラベラ話す悪役がいるが別になぁ。
私は懐から別のプレートを取り出すとシェイキングスタッグプレートと入れ替えで剣に装填する。
フレイムクラーケン。海に潜む炎を吐くモンスターの力だ。力を起動すると刃が紅蓮の炎を纏う。私はそれをただ無造作に振るう。苛烈な炎の奔流がマロージュを、その背後の馬車を、そして近くに居たシューマを飲み込み唸る。
「シ、シラベ様、何故ですかぁぁぁ!?」
正直なところシューマが居ることを忘れてうっかり巻き込んでしまった。
「まあ、いいか。新しく作ればいいだけだし……」
炎に嘗められ瞬く間に周囲に無数の焼死体を作り出した。
「これでは誰が誰か判別が出来ない、か……」
こういう場合、いつの間にかターゲットが逃げているというのが定番だがその辺はきちんと対策をしている。
空中にはこれまた開発した新しい監視用のおもちゃ、一言で言えばドローンみたいなものだがそれが周囲の状況を探っていた。宙に印を描くとモニターの様なものが現れる。ファンタジー世界と科学の融合すばらしい。
ともかくそれでここ数分の映像を確認。間違いなく馬車から逃げたものはいない。即ち目的は達成したということ。
さっきから嫌な予感が胸の中に渦巻いていたがベルグの始末はついた。嫌な予感とはオムロ山の訓練施設のことだ。何せアーテル団長が見事なフラグ立てをしていた。
とは言えここ異世界。私が居た世界のジンクスが当てはまらない可能性もある。まあ、仮に訓練施設が壊滅したところで私が進む道に大した影響は無い。駒が少し減る程度に過ぎない。そう、たったそれだけのこと。さあ、帰ろうか。
訓練施設が謎の冒険者に壊滅させられたという情報を聞いたのは帰還して直ぐの事だった。
やはりこっちでもフラグというものは存在すると痛感した。




