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第50話 女子会~三者三葉の想い~

◇アンジェラ視点◇

 

 その日はあたしを含めた女子3人組が留守番だった。

 ナナシさんとぐーたら女の連れてきたペットがクエストに出ているからだ。

 だけどナナシさんは結構向こう見ずなところがあるから今頃妙なクエストに手を出してやいないか正直心配だ。


 リゼットも同意見らしいがたまにはひとりでクエストに行ってもらうのもいいだろうと言うことでこの構成になったわけ。あっ、犬が一緒だった。


 ということで家事をひと通り終え、あたし達はひと休憩という名の女子会を開いている。

 テーブルの真ん中には貝殻型の焼き菓子シャルールが置かれ、それぞれの前にホットのミントティーが湯気を立てている。


 だらけつつも夕食の仕込みを終えたぐーたら女、メイシーはと言うとシャルールに熱い視線を注いでいる。

 どうも今まであの城で自給自足の生活をしていた為か食への関心は非常に高いみたい。

 シャルールも見たことが無かったようでリゼットの説明に感心していた。


 ちなみにシャルールというのはかつて貴族の召使であったシャルールという女性が主人の為に焼いた焼き菓子が由来だそうだ。


 その後、彼女は貴族の妻になったのだが早世してしまい。悲しんだ夫が妻の名を冠する焼き菓子を広めたとかなんとか。

 焼き菓子をつまみながらとりとめもない話に花を咲かしていく中、あたしには考えていることがあった。


「あのさ、こんな時に御免なんだけど。みんなにはっきり言っておきたいことがあるの。」


「何ですか一体。また私の働きがどうとか文句ですか?」


「それについては違うかな。」


 最も、このことを考えるようになったのはメイシーが来てからだ。


「あたしはね、ナナシさんが好きなんだ。」


 その宣言にリゼットが息をのみメイシーは「ほぅ」と小さくつぶやく。


「ナナシさんのおかげでお母さんは助かったし、あたしだって命を救ってもらった。もちろんリゼットにも感謝してるよ。でも、そういう事もあってここで一緒に暮らすようになって……考えた結果、やっぱりあたしは彼が好きなんだなって思った。」


 心臓がバクバク鳴っているのが感じられる。

 一歩間違えばこの共同生活をぶち壊しかねない行為だと思う。

 だけど正直、焦っていた。

 あたしはナナシさんが好き。

 でもナナシさんの気持ちがあたしに向いているかと言えば恐らくは違うだろう。

 もし順位をつけるなら……悔しいけどリゼットの方が一歩先だと思う。

 そしてリゼット自身は気づいていないかもしれないけど彼女もナナシさんへ思いはあるはず。

 そこへ来てメイシーの登場。しかも彼女専用の特別なアイテムが現れ更には同居人になった。

 正直不安だ。もしかしたらナナシさんの中であたしとメイシーは同ランクなのかもしれない、と。

 否、可能性は高い。

 自分から動きたかった。メイシーにもリゼットにも負けたくない。

 だから、宣言した。


「ボクは……アンジェラの気持ちはよくわかってたよ。そうだよね。お兄さんの事、好きになって当然だと思う。アンジェラの運命を変えたのはお兄さんなんだから。」


「そんな運命だなんて大げさな。」

 

 そう、リゼットはいい娘だ。

 きっとこう言ってくれると思っていた。

 彼女の性格を逆手にとって少しでも優位に近づこうとしているのもわかってる。


「アンジェラとお兄さんの事は応援する。お兄さんは危なっかしい人だからアンジェラみたいな人が傍に居てくれたら安心だよ。」


 これであたしはほんの僅か、リゼットより先に行けるかもしれない。

 そう安堵した途端、「でも……」と続いた言葉にあたしの鼓動が一層激しくなった。


「でもごめん。そうだとしてもボクはお兄さんと離れるわけにはいかないんだ。たとえお兄さんがアンジェラの良い人になったとしても、そこは譲れない。」


 え、何?

 何が起きてるの?

 まさかの愛人宣言!?

 この娘そんな大胆だったっけ?


「お、おふぅ………」


 思わず変な声が漏れた。

 いや、確かにこの国では一夫多妻は認められているけどまさかこういう展開は考えなかったなぁ……

◇リゼット視点◇


「あたしはね、ナナシさんが好きなんだ。」


 唐突な、だがわかりきっていた告白だった。

 アンジェラにとってお兄さんは命の恩人。

 

「ボクは……アンジェラの気持ちはよくわかってたよ。そうだよね。お兄さんの事、好きになって当然だと思う。アンジェラの運命を変えたのはお兄さんなんだから。」


 そう、本来ならここにアンジェラは存在しないはずだった。

 お兄さんがアンジェラが死ぬ運命を打ち砕いたから、ボクの『ヴァッサゴーの瞳』が視たのと違う未来がここにある。

 アンジェラはお兄さんへの好意をほぼほぼ隠していなかった。

 まあ、お兄さんはそれに気づいていないくらいの朴念仁でそれはそれで困ったものだなと思っていた。

 元々、アンジェラが今収まっている位置に居たのはサーシャさんだった。

 一緒に冒険をする中、サーシャさんはお兄さんと結ばれる、それが本来の未来だった。

 人は変わっているがボクにとって大切な『筋書』は外れていない。

 それに『筋書』を抜きにしてもやっぱり親友だから、アンジェラの恋は応援してあげたい。

 

 「アンジェラとお兄さんの事は応援する。お兄さんは危なっかしい人だからアンジェラみたいな人が傍に居てくれたら安心だよ。」


 そう伝えた上で……


「でもごめん。そうだとしてもボクはお兄さんと離れるわけにはいかないんだ。たとえお兄さんがアンジェラの良い人になったとしても、そこは譲れない。」


 お兄さんとは一緒に居続けなくてはいけない。

 ボクの悲願、故郷を、シュラム王国を救済するために。

 だから離れるわけにはいかない。そしてお兄さんにはもっと強くなってもらわないと。

 正直、自分の汚さに反吐が出る。

 ボクはお兄さんを自分の為に利用しているだけだ。いつかこの生活も終わりを迎える。

 それでも後には引けない。

 だからごめん、アンジェラ、お兄さん……

 

◇メイシー視点◇


 やれやれ、折角の楽しいお茶会なのにアンジェラさんがややこしいことを言い出したようです。

「あのさ、こんな時に御免なんだけど。みんなにはっきり言っておきたいことがあるの。」


「何ですか一体。また私の働きがどうとか文句ですか?」

 

 自覚はある。

 だけどこっちだって引きこもり続けた身だ。

 急にせかせか動けとか無理なわけで全くこの人は……


「あたしはね、ナナシさんが好きなんだ。」


 ほぅ。これはまた予想外でした。

 なるほど、何となくわかりました。

 どうもアンジェラさんはいきなり現れた私という存在に危機感を抱いているのでしょう。

 やたらと私に突っかかって来るのはどうも私が彼からパワーアップアイテムを貰えたからということでしょう。

 アンジェラさんとリゼットさんのやり取りを見ながら考える。

 ナナシさんはどちらを選ぶでしょう?

 普段の様子を見ているとリゼットさんに分があるように見えますが同時に彼は何かを恐れて一定以上踏み込むのをためらっている様にも感じられました。

 彼から聞かされた親の話。罪人の子という呪縛に囚われ自分を責めている様子。

 それが彼の脆さでしょう。

 

「そうだとしてもボクはお兄さんと離れるわけにはいかないんだ。たとえお兄さんがアンジェラの良い人になったとしても、そこは譲れない。」


 あら、これもまた意外。

 この状況、リゼットさんの性格からすると引くものと考えましたが応援しつつ食らいつきにかかりましたか。

 それだけナナシさんは魅力的な男性というわけですか。

 これまでの人生、傍に居た男の人は父のみ。まあ、アカツキもいたけどあれはオスということでノーカウントです。

 確かに行動力もあるしなかなか強い男性ですね。なるほど……


「ちょっぴりナナシさんに興味が沸いてきましたね。」


 呟いた言葉にアンジェラさんが目をむく。

 あっ、やばい、ちょっとおもしろい。

 まあ、興味が沸くと言っても胸が高鳴るとかそういうことは無いんじゃないでしょうか。

 どっちかというと私は美味しいご飯に胸が高鳴る派ですし……

 とそんな事を考えていると。


「ただいま、メイシーはいるか!?」


 乱暴にドアを開けナナシさんが戻ってきた。

 やだ、そんなワイルドな一面が!?

 しかも私をご指名?いったいどういうことでしょうか?

 ナナシさんは私に飛び掛かってくると両肩を掴みました。


「ナナシさん!?」


「お兄さん何を!?」


 驚くふたり、というか私も相当驚いているのですがそんなことはお構いなしに彼は

 

「ストローンの街へ案内してくれ!イシダ・シラベに会う必要があるんだ。彼女も俺の記憶の鍵だったんだ!!」


 えええ!?

 最初にシラベさんの話をした時は知らない感じだったじゃないですか。

 

「遠出はちょっと……私としてはすっごく引きこもりたいんですが……」


「いや、外へ行こう!君ならできる!!」 

 

 そんなに真剣な表情で至近距離から見つめられても困ります。


「お兄さん、落ち着いてよ。ボク達にもわかるように説明して。」


「ていうかメイシー、あんたナナシさんから離れなさいよ。あんたにだけは負けないからね!!」


 ああもう、騒がしい!!

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