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第4話 事故物件に招待された件

 リゼットに案内され、俺はコランチェの町に到着した。

 古びた石畳の道、西洋風の木造家屋。

 いわゆる中世「風」なファンタジーの街だった。

 恐らくRPGの世界などはこんな感じになるのだろう。


「着いたよ、ここがコランチェの街」


 門をくぐったすぐそこは市場になっており多くの露店が並んでいる。

 見たところ、それなりに賑やかな街のようだ。

 ありがとう、と礼を言うとリゼットは「えへへ」と頬を掻いて照れる。


「ところで……お兄さんはこれからどうするの?」


「そうだな……正直あまり考えてなかった。ただ、人がいるところに行かないといけないと思ってたんだ。当然、記憶が戻るわけではないけれどね。」


 状況を整理しよう。

 俺は元は令和時代の日本に生きていた日本人らしい。

 理由はわからないが異世界に転生し、記憶を失っているらしい。

 ただし、日常的な動作や知識については問題なく覚えている。忘れているのは自分の名前と来歴だ。

 恐らく俺はゲームなどを結構する人間だったのだろう。知識はそれなりに豊富だ。

 異世界転生を知っていると言うことはそういったジャンルの本は好きだったのかもしれない。

 どういうわけか俺は中級モンスターと対等かそれ以上に渡り合える実力を持っているらしい。

 異世界転生ものだとよくチート能力を神様とかにもらっているが神様に会った記憶はない。

 あと、筋肉は嫌いじゃない。

 

「どうしようか……ありきたりだがこの街を拠点にしながら記憶が戻るのを待つとか、かな。」


「でもお兄さん泊まるところとかどうするの?お金ないよね?」


 そう。それは重大な問題だ。

 例えば宿に泊まるとしても金が必要だろう。

 だが俺にはこの世界の金はない。

 モンスタードロップはない。と言うことは何かしら労働の対価としてお金を稼ぐ必要がある。


「野宿でもするか。」


「ちょっ、野宿って。」


「ふと考えたんだ。あの森でなら野宿とか出来るのではなかと思ってね。」


「あぅ……確かにお兄さんなら森の生態系に混じったとしても十分生きていけそう……ってそういう問題じゃないや。それじゃあさ……」


 リゼットは一息置き、言った。


「ウチに来たらいいよ。小さいけど家を借りてるから。余ってる部屋もあるしさ」


「何っ!?」


 何だその「今夜家に両親居ないんだ」的な雰囲気を醸し出してるお誘いは!?

 いかん、ここは冷静になるのだ。早まる鼓動を落ち着かせねば。


「……それは流石にまずくないだろうか?」


「え、何で?お兄さん記憶も無くしてるし、知らないこと多いみたいだし、野宿させるのはなんか危ない気がするよ。」


 一理ある。

 野宿して適当なキノコなどを採って食べればいいと考えていたが毒キノコの可能性もある。

 そもそも知らないものは口にしないことが野宿の鉄則だ。


「……もしかして男の人が女の子の家にあがって間違いがあったらとか考えた?ボク、こんなだからそんな魅力ないし……」


 リゼットよ、それは間違いというものだ。

 女性のどういうところに魅力を感じるかは人それぞれなのだから。

 例えば俺は君の尻に非常に魅力を感じている。

 と、口にするとなんか俺が間違いをおかしそうと言っているようなので黙っておく。


「それに、お兄さんがそういうこと考える人ならもう森で襲われてるはずだしね。」


「そ、そうか……」


 これは信頼されているということなのだろう。

 しかしながら新たに一つ分かったことがある。

 俺は意外に初心なようだ。

 

「あはは、お兄さん慌てちゃってるね。何か可愛いな。」


「え、あ、え……」


 年下の女の子にいいようにからかわれている。

 やれやれ、だ。


「まあ、お兄さんもお腹すいたろうしとりあえず休んで行ってよ。」


 言われてみればこの世界で気づいてから何も食べていない。

 そしてこの世界では彼女のことしか知らない。


「ではお言葉に甘えるとしようかな。」


「それじゃあ、決まりだね。ついてきて!」


 リゼットについて街中を歩く。

 大通りから10分ほど歩いた路地の一角に平屋建ての小さな家があった。

 随分と年季の入った建物だ。


「大通りから少し離れてるのと若干ボロっとしているから格安で借りれたんだ。」


 この世界の不動産事情は分からないがパッと見た感じ、事故物件か何かかと思った。

 そういう家だ。


「前の持ち主が森で毒を受けたんだけど解毒剤をケチったせいで家に帰ってから死んじゃったんだって。」


 事故物件じゃねーか。

 というか毒消しはケチっちゃダメな気がする。

 ゲームだと自然治癒するものもあるが、世の中そんなに甘くない。


「夜になると時々うめき声が聞こえるんだ。『ど、毒消しを~』ってね。」


 完璧に「出る」じぇねーか。

 大丈夫か、この家。


「……怖くないのか?」


「……え?まあ、声が聞こえるだけだからね。一応、毒消しはお供えしてあげてるよ。」


 意外と肝が据わっているな。


「あれ、お兄さんもしかして怖い?」


「いや、そういうわけではない。ただ、幽霊というものは存在は知っていたが会ったことがないのでね。こんな簡単に出会えるものなのだと驚いている。」


「へぇ、お兄さんも驚くんだね。」


「記憶がないと気づいてからは驚きの連続さ。」


 苦笑。

 その場のノリで何とかなっているので冷静に見えるが正直、理解が追い付いてないだけだが……


「それでは……ようこそ、ボクの家に。」


 リゼットがこちらを向きニカッと笑みを見せた。


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