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第40話 失踪したウェイトレスを探せ

 時計が朝の9時を指すころ、俺はリゼットとふたりでギルドの受付を訪れていた。


「よぉ、聞いているぜ。相変わらず半端ねぇ活躍だなナナシよぉ。惚れそうだぜオイ」


「相変わらず濃いキャラだよねー、エルマーさんって……」


「うーん、俺はこの空気に慣れてしまったようだよ」


「マジかよ。お前の適応能力半端ねぇな。マジで惚れるわー。ところで今日はリゼットちゃんとふたりかい?新しいお仲間が増えてただろ?それにアンジェラちゃんはどうしたよ?」


「メイシーは今日の料理担当だ。出かける時は楽しそうに料理の本を読んでいたぞ」


「アンジェラは買出しに行ってもらってるよ」


 メイシーは基本的にサボリ魔なのだが料理の腕は中々のものだ。長年引きこもっていた成果というやつだろうか。

 これまで料理担当として厨房を仕切っていたリゼットも納得して任せることが出来るらしい。

 問題はアンジェラだ。彼女は二人とは対照的に壊滅的に料理が下手だったりする。

 一緒に暮らし始めた時、厨房に一度だけに立ったのだがその時は鍋を爆発させるという快挙を成し遂げた為、厨房は出禁となっている。

 

「というわけで今日のクエスト担当は俺たちふたりだ」


「なるほどなぁ、役割分担で来てるってわけか。そう言えば犬飼い始めたよな?あいつはどうした?頼まれたから冒険者登録しておいたけどクエストを受けに来た事無いぞ?」


 犬、とは即ちアカツキのことだ。リゼットが深いため息をつく。


「何か今日も雌犬を追いかけてどっか行っちゃったよ……」


 元は人間という事らしいが最近本格的にただの喋る犬なのではないかという疑念が湧いてきた。

 雌犬を追いかける、道端でマーキングをする、自分の尻尾を追いかける。犬そのものだ。

 働かざる者食うべからず。とりあえずあいつ今日は飯抜きになる気がする。


「まあ、そんなわけで今日は俺たちふたりだ。近場でおすすめの依頼は来てないか?日帰りでな」


「半端ねぇなぁ。それじゃあ看板"娘"エルマーのおすすめクエストを発表するぜぇっ!」


 ちなみに看板"娘"と名乗っているがこいつは「男」だ。もしかしたら見た目がアレなだけで中身は本当に女性なのかもしれないと思った時期があったがこの前偶然にも男子トイレで出会った。普通に小便器を使っていた。


「ダララララ~~ダンッ!悪ぃ、今日は半端なくねぇわ。行商隊の護衛とかある程度日数かかる系はあるんだけどなぁ。日帰りのおすすめっていうのはちょと無い」


「そうか。まあ、そういう日もあるよな」


 ならば今日はキノコ狩りとかそういった常時あるような初級クエストでも受けてみるか。


「まあ、ひとつあるにはあるんだがな。報酬もいまいちだし、俺的には全然おすすめじゃねぇな」


「一応聞かせてくれ。ネコ探しとかか?困っている人がいるなら力になりたいが……」

 

 たまには平和的なクエストを受けてみるのもいいだろう。


「えっとなー、『行方不明になったお姉ちゃんを探してください』ってやつだな」


「いやいや、大事件じゃないかそれっ!!!」


 思わずリゼットが突っ込みを入れた。


「いや、そうなんだけどな。居なくなったのはネージュっていう娘で食堂のウェイトレスをしているんだがこれが最近結婚する予定でな」


「それじゃあ、その婚約者が依頼を出したのか?」


「んーや、そういうわけじゃねぇ。依頼を出したのは8歳の弟だ。俺が思うには結婚を前にしてちょっとナーヴァスになったんじゃねぇかって思うんだ」


 マリッジブルーってやつか。

 それなら無理に探さない方がいいのか。

 いや、でも弟が心配してるってのも気になるな。


「違うよ!姉ちゃんは家出なんかじゃない!!攫われたんだ!!」


 背後で少年の声がする。

 振り向くと幼い少年の姿があった。

 察するにこの子が依頼主だろう。


「あんなぁ、ジョゼ。確かにお前とネージュは親を亡くしてからふたりっきりで生きてきたんだ。でもあいつだって色々とな悩むことはあると思うんだよ。だからよぉ、そっとしておいてやろうぜ。その内帰って来ると俺は考えてるんだがな」


「そんなこと言ってエルマーは姉ちゃんが心配じゃないのかよ!!」


「そりゃ俺だって婚約者がいなくなったら半端なくショックだし心配だぜ?」  


 そうか、エルマーの婚約者か。

 さぞ心配だろう…………な!?


「…………って婚約者お前かよ!!」


 何だよその半端ない情報。理解が一瞬遅れたぞ。


「ていうか一応ちゃんと女性が恋愛対象だったんだね……ボクちょっと誤解してたよ……」


「でもなぁ、ネージュが居なくなった状況ってのが俺はいまいち納得いかねぇんだよ」


 エルマーが腕を組んで唸る。


「どういう状況なんだ?」


「姉ちゃんと植物園へ行ったんだ。街の東側にあるビーラック園。あそこにはきれいな花が沢山あるから姉ちゃんのお気に入りだったんだ。そしたら植物のモンスターが姉ちゃんを攫って行っちゃったんだ。早く助けないと姉ちゃんが食べられちゃうよ!!」


「いやな、エルマー。だから街中にそんな物騒なもんいねぇって。その植物ってのはウツボーンみたいなやつだったんだろ?」


「ウツボーン?」


 リゼットの方を見る。


「小型の食虫植物だね。甘い匂いで虫を誘って食べるんだ」


 ああ、ウツボカヅラみたいなもんか。


「ウツボーンは自立して動かないしましてや人間大ってのがなぁ。半端ねぇぞそれ」


「だから冒険者さんに調べてもらうんじゃないか。」


 エルマーは困った表情をしている。

 まあ、確かににわかには信じがたい話だよな。

 だが……


「なあ、坊やえっと……ジョゼだっけ?それじゃあ俺達がその依頼を受けようか。」


「本当!?」


「お、おいナナシ!!」 


「お兄さん!?」


「たった一人の家族だもんな。心配だよな。それにもし新種の怪物なら調査の必要がある。エルマーだって婚約者が心配だろ。」


「そ、そりゃそうだけど……」


 酔狂と言われるかもしれない。

 はっきり言って報酬も少ないし旨味は無い依頼だ。

 だが俺の中である直感が働いていた。

 何かがある、と。

 マーナガルム以降、記憶を取り戻す手がかりはない。 

 こういう変わった依頼を受けているうちに何か次のきっかけが生まれるかもしれないしな。


「はい、決定。それじゃあ、よろしく頼むぜ依頼主さん」


「う、うん!」


「お兄さんってば全く勝手なんだから……まあ、たまにはこういうのもいっか……」


 クエストを受注しギルドを後にしようとした時、エルマーが俺を呼び止めた。


「あ、あのよ。ナナシ。軽く塩対応しちまってるけど俺だってネージュの事、心配なんだ。俺も気になることはあるんだ。あいつにしつこく言い寄ってた男が居てな。でもギルド職員っていう立場もあるしよそんな疑ってかかるような真似ってのも……」


「そうか……言い寄ってたやつがいたのか。そいつも調べてみたいな。どんな奴だ?」


「それがよくは知らねぇんだ。どうやら時々この町に来る冒険者らしいんだが……」


 謎の冒険者……気になるな。

 

「わかった。情報ありがとう。とりあえずネージュが消えたっていうビーラック園から調べてみるよ」


任せておけ、と告げ俺達は現場であるビーラック園へと出かけるのだった。

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