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第39話 古の民の末裔と誤認されてしまった件

 あの後、ミアガラッハの動く城は力の核となる炎を奪われたことで崩壊した。

 俺達はマジゲネ達が乗ってきたドラゴンや魔法のじゅうたんなどを駆使して何とか脱出することが出来た。

 そして4日が経過した。


「だーかーらー、今日はあなたがお風呂掃除でしょう!!」


「そんなのアンジェラさんの水魔法でパパっとした方が早いじゃないですか。私はだるいです。」


「あんたはぁっ!!」


 テーブルに突っ伏しだらしなく伸びているジャージ姿のメイシーにアンジェラが吼えている。

 結果として家を失ったメイシーとアカツキはリゼットの家に転がり込むこととなった。

 マーナガルムについては転送機能のおかげで今や家の庭に安置されており実質メイシーの寝床である。

 それとは別にリゼットはメイシーに部屋を用意した。曰く「引きこもってばかりいてはいけない」ということだ。

 共同生活と言うことで家事は交代制なのだがまあ、こんな感じでメイシーがサボってアンジェラが吼えると言ったことが連日繰り返されている。


「おい、小僧。用意された我の部屋についてだが不満があるぞ!」


 アカツキが不満げな表情で俺に訴えかける。

 まあ、気持ちはわかる。

 彼に与えられた部屋というのは庭に建てられた犬小屋だ。

 ちなみに俺が見様見真似でDIYしてみたが結構出来は良いと思っている。


「まあ、あんたが言いたいことはわかる。もし良かったら……」


 少し狭くなるが俺と部屋をシェアしないかと提案しようとしたのだが……


「表札が抜けておる。きちんと『アカツキ』って看板を掲げぬか!」


 こいつ本当にサムライだったのか?

 自分をサムライと思い込んでいるだけの喋る珍しい犬って可能性はないのだろうか?


「何であんたはそう毎回サボるの!これだから貴族ってのは!!」


「元貴族ですぅ。今は貴族なんていないんですよぉ。大体なんですかその『今どきの若い者は』的な発言。年寄ですか」


「あーもう、人の揚げ足をとってぇ!!」



 見ての通りアンジェラとメイシーはあまり仲が良くない。

 マイペースなメイシーに対しアンジェラが怒るといったパターンだ。

 まあ、リゼットによるとパワーアップアイテムが自分だけなかったことが原因らしいのだが……


「小僧!『アカツキの部屋』って頼むぞ。ハートマークとかあるとプリチーな感じが出て尚良し!!」


 駄犬がなんか言っている。


「はいはい、みんな静かにして!」


 というわけでこの喧騒は家主であるリゼットの鶴の一声で収まった。

 

「今日はお兄さんから大事な話があるんだよね」


「ああ、そうだな。みんな落ち着いたし話しておこうと思う。俺が取り戻した記憶について、ね」


 そう、俺はこの世界の人間ではない。

 異世界の日本人。詳しい経緯はまだ思い出せないがこの世界に転生したのだ。


「薄々察してるかもしれないけど、俺はこの国の人間ではない」


 皆がうなづく。

 何せこの世界に関する常識を驚くほど知らないのだ。


「いや、それどころか実は……」


 言葉に詰まる。

 この数日、色々考えた。

 だがやはり異世界転生というのは突拍子もないことだ。

 頭がおかしいと思われるかもしれない。

 悩む俺にリゼットが静かにほほ笑んだ。


「わかってたよ、お兄さん。ボクは何となくわかってた……お兄さんの身の上がどういうものか」


「リゼット……そ、そうなのか?」


 そうか、リゼットにはお見通しだったのか。

 確かに出会いを思い返せば俺は変なところに居た。

 勘のいいリゼットなら異世界からの来訪者ってことくらい想像できるんだな。

 良かった。少し気が楽に……


「お兄さんは、ダルガルマの民なんだよね」


「はい?」


 なんか今変な単語が飛び出したぞ?

 ダルガルマ?

 


「ダルガルマですって!!」


 だらけていたメイシーが驚いて立ち上がる。


「知ってるの、だらだら貴族?」


 え、ダルガルマって何?

 ていうか仲がいいのか悪いのかわからんなこのふたり。


「かつてタンパール山脈に住んでいたと言われる戦闘部族……時折歴史の表舞台に現れ協力した国に繁栄をもたらしてきた………それが古の民ダルガルマです」


 タンパール山脈?

 知らないぞ!?

 俺が知ってるのは日本アルプスとかそういうのだぞ。ついでに住んでいたことは無いはず。


「ダルガルマは覇王シュミエルに攻められ滅亡したとも一般の人に紛れ細々と生き延びているとも言われているんだ。ダルガルマの戦い方は特殊で相手の技をあえて受けつつもそのパワーを取り込み攻めに転じるというものなんだ」


 更に知らない単語が飛び出してきた。

 誰だよ覇王シュミエルって。


「ナナシさんの戦いそのものじゃない!!」


「ええ、まさしく文献で読んだダルガルマの闘法ですね」


 あれぇ……

 何か俺、古の民の末裔って事になってるよなこれ。


「自分達の素性を隠さなければ生き延びれない世界……お兄さんも辛い思いをしてきたんだね。あの森で出会ったのも何かに追われてたどり着いたんだよね」


 何か話が思わぬ方向に進んでいるんですけど……どうしよう、これもう否定しづらい雰囲気じゃないか。


「ま、まあそんな所、かな?詳しいことはまだ覚えてないんだけどね……ははっ」


 やばい。古の民認めちゃったよ。


「きっとダルガルマを狙う追手に襲われてその影響で記憶を失ったのね」


「もしかして村を焼かれたとかそういう類かもしれません」


「そりゃ記憶も失うよね。無理ないよ!」


 勝手に話が進んでる……


「自分が居ることで私達にも追手が危害を加えに来るかもしれない。だからその上で俺についてきてくれるか考えてくれだなんて言ったのね。もちろんついていきます!むしろ一生!!」


 そういう意味じゃなかったんだがなぁ……

 でもきちんと話しておかないといけないこともあるよな。


「いや、何と言うか……えっと。俺が思い出した記憶って言うのがな。昔俺の親が人を死なせてしまってその……」


 そう。俺の親は些細な争いから人を死なせてしまった。

 テレビで大きく取り上げられ俺は殺人者の息子として迫害された。

 学校ではいじめられた。

 名も知らない正義の使者に罵倒されることもあった。

 自分は悲しむことも笑うことも許されない。

 ただ、自分の親が犯した罪の償いの為下を向いて生きることを強いられてきた。


「それで住んでいた土地を追われてこの国にたどり着いたということか」


 駄犬がうなづく。

 いや、だから違うんだがな……とは言え俺が伝えたいことは一部伝わったと思う。

 必要ならば俺はここを後にし、ひとりで生きていく。

 今までもそういう事はあった。だから……


「お兄さんは、自分の親が罪を犯したことを気にしてるんだね。だけどさ、だからってお兄さんが悪いんじゃないよ」


「罪人は裁かれるべきです。ですがその子は罪人ではない。それが道理です」


「そうだね。でもナナシさんは優しいからいっぱい苦しんだんだね。でも大丈夫、ナナシさんは何も悪くないんだから。あたし達親子を助けてくれた恩人だよ」


 肩が、震えのを感じた。

 俺の過去は昏い影が覆っていた。

 それでも世界の全てが敵ではないんだ。

 俺でも笑っていていい世界がある。それをこの娘達は肯定してくれた。

 この世界に来れてよかった……皆に出会えてよかった……  




◇?????◇


 この世界に来れて良かった。


「ガンジール達が『フラウロスの炎』を持ち帰ったようです。我が王」


 私の報告に玉座に座る『彼』は満足げにうなづく。


「それはいい報告だ。この国を、強き王国を再び取り戻す為には力が必要だ」


「ええ。ですがマーナガルムは残念ながら。回収を試みましたが捜索では見つかりませんでした。それと使い手であるミアガラッハの騎士も……」


「仕方がないことだ。彼女には一度会ってみたかったがね。そうすればきっと私の理想に共感してくれただろうに」


「ええ、その通りですね」


 実のところあたしは別意見だった。

 恐らくメイシーは協力しなかっだろう。

 『彼』の理想というのは彼女にとっては何ら魅力的でもないものであったろうから。

 だから消えることとなった。それが最適な解だ。


「何より彼女の父親が犯した『罪』を償う唯一の機会でもあったのだがね。それは残念に思うよ」


「………」


「引き続き研究を続けてくれ給え。期待しているよ、シラベ」


「……お任せください。ナダ解放騎士団の一員として、我が王の理想の為に。」

 

 この世界に来れて良かった。

 どんな世界だろうが何の価値は無い。

 それを理解することが出来たのだから。

 憎い。

 ああ、憎い……



第3章へ続く……

長かったけど第2章終了です。

第3章もお楽しみに!

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