第37話 変な自称大泥棒が出て来た件
ヴァラルが謎の言葉を放って飛び去るのを俺達は呆気にとられて見つめる事しかできなかった。
ナダ解放騎士団とかワケのわからん単語が出てきたが出来れば関わり合いにはなりたくないものだ。
名前からして絶対ろくでもないし組織に違いない。
「ところであんた達、この城には何を探しに来たんだ?どっかのご令嬢の依頼なんだろう?」
「そうですね。シアアリス嬢の依頼ではこの城に高価な宝石が眠っているということだったのですが……」
サーシャの言葉にマーナガルム内に寝っ転がり空を見上げていたメイシーが首をもたげ答えた。
「あー、何か昔はそういうものあったらしいんですけどね。父上が生活の足しにって売り払ってました。」
「やれやれ……」
マジゲネがため息をつく。
「まあ、あくまで調査、だからな。宝石が見つからないっていう可能性は元からあったし、シアアリス嬢もそれは理解しておられたようだしな。」
「とは言え、収穫なしというのは何か凹みますね……」
「剣士よ、それは違うぞ。俺はこの戦いを通じ再び痛みを思い出すことが出来たのだからな。喜ばしいことだ。」
「それはあなた個人の問題です。まあ、調査以来の結果が空振りということはよくあるから慣れてますけどね……」
頭痛がすると言った感じでサーシャがため息をついていた。
この人、苦労人そうだな。
そんな事を考えていると城の上部からこちらの様子をうかがう人影に気づく。
「そこに居るのは誰だ!」
声をかけた先にはガリガリにやせ細ったワシ鼻の男が額に手を当てこちらを見下ろしていた。
頭にはペンギンを模した被り物をしておりはっきり言って只者ではない雰囲気だ。
「ぐへへへ、気づかれちまったもんね。ぐへ」
「ガンジール、姿を見せるからです。いいから超早く逃げましょう。」
ガンジール、と呼ばれた男の傍にもうひとり、背の低い少女が現れ彼を諫めた。
「うっせぇぞ犬コロ女!人間様に生意気な口を利くんじゃねぇ!!」
ガンジールに侮蔑の言葉を投げかけられた少女の頭頂部には犬を思わせる耳がついていた。
人間の耳は側頭部についている。つまりこれは……獣耳、ということか。
「……犬じゃない。亜人、です………」
少女は不満げな表情で小さく抗議する。
だがガンジールとの力関係は彼の方が上らしくそれ以上は何も言わず沈黙した。
「ちょっと!あなた達何なの!? こいつらの仲間!?」
ここでアンジェラが至極当然の疑問を叫び、マジゲネが答える。
「いや、俺達は4人パーティだ。あんな連中は知らんぞ。」
「右に同じです。あんな珍妙な冒険者は知らない……」
何かマジゲネ達みたいな冒険者とは違いガンジールはよれよれの服を着ていて泥棒っぽい雰囲気だ。
少女の方は逆にきちんとした身なりをしていた。そうだな、使用人みたいな雰囲気だ。
こいつらどういうコンビでいつの間に忍び込んだんだ?
「うぇへへへ、気づかれちまったかぁ。天下に名を轟かせる大泥棒、ガンジール様とは俺様の事よ!!」
「いや、知らんのだが……」
「何だとぉ!!」
俺の言葉にガンジールが目を見開き叫ぶ。
「えっと……リゼット、知ってるか?」
「全然。」
アンジェラの方を見ると無言で首を横に振った。
マジゲネの方にも確認をと視線を向けるが両手を広げ肩をすくめた。
「誰も知らんみたいだが……」
「ぐぬぬぬ……不愉快!実に不愉快なのねぇっ!!」
言うとガンジールは横に居た犬耳少女の尻を蹴飛ばす。
「おい、てめぇ心の中で俺の事笑ったろ!この汚らしい亜人ちゃんめ!!」
「あうっ!そんなっ笑ってなんか超なくて……あうっ!!」
「口答えするなって言ってるだろが!!」
端から見ても胸糞悪い暴行劇だ。
その様子には俺が取り戻した記憶が重なる。
罪人の子だと謂れの無い中傷を受け迫害されていた幼い頃の記憶。
「なぁ、あいつぶっ飛ばしていいよな?」
拳を握り締め構える。
「賛成だけどそれは私が!水流弾!!」
どうやらアンジェラも腹が立っていたようでいち早く魔法を放っていた。
「月光壁!!」
少女が唱えると黄色い円形の障壁が展開されアンジェラの魔法を阻んだ。
「超申し訳ありませんが仲間をやらせるわけにはいきません!!」




