第34話 エクストリームな移動を試みた件
俺が昏い記憶を取り戻しかっこ悪いことにヘタレまっている間に色々と凄いことになっていたようだ。
その間のことは断片的には覚えている。目の前にいるマジゲネという男は城を強襲したメンバーのひとりで恐らくセドリックが言っていたシアアリスとか言う令嬢が雇った調査チームのひとりだろう。ドクロを模した仮面が中々イケてる感じだ。こいつらどうもガチの武闘派みたいでこちらを力づくで排除しようと目論んでいるっぽい。
まあ、最初からこういう展開は予想していたから大して驚きはしない。むしろ驚いているのはアンジェラの強さである。明らかに初めて出会った時より強くなっている。キザっぽい貴族がコメディみたいに驚きまくっていたがまあ、何だろう。ちょっとかわいそうだった。
「敵を前に考え事とはずいぶんな余裕だな。迂闊すぎるぞ、小僧!!」
マジゲネがどこからか銀色に輝く剣を出し斬りかかってくる。恐らくは魔道具として収納していたものだろう。中々の速さだが対応できないわけでもない。
俺はマジゲネの剣をかわすと顔面にカウンターでパンチを叩き込んだ。そして怯んだ隙にその腕を取り素早くアームロックを極める。
「余裕か。確かにこれは余裕なのかもしれないな。妙に頭がクールだよ。」
「ぐぬぬ、中々やるではないか!そうでなくては面白くない。」
マジゲネは身体を縦に回転させアームロックを解除した。無茶しやがる。本気で極めてるから無理に外そうとすれば激痛が走るはずなんだがな。
アームロックから逃れたついでにマジゲネは空中で斬撃を放ってくるが俺はそれもよけ相手の頭部をロックした。
「ぬおっ?こ、これは?」
脚を大きくを振り上げその反動を利用し膝にロックした頭を叩きつけた。仮面の一部が割れ飛び散る。中々決まってるな。名付けてクルーエル・クラッシュ!!というのはどうだろうか。さて、これならかなりダメージを与えられただろうと思っていたら……
「どうした小僧、油断は大敵だぞ!!」
再びホールドを外され顔面にマジゲネの蹴りが入る。今の攻撃を受けて怯みもしない?どういう構造なんだ?不感症か?
「唸れ、我が愛剣ギンギンセイバー!!」
何だそのナイスすぎるネーミングは!?ちょっとカッコよすぎるぞとかそんなことを考えていると剣の輝きがひときわ強くなり強烈な一撃が放たれる。
避けられない、と感じた俺は両腕を顔の前で構え攻撃を受け止めた。
「何と!これを無傷で受け止めるだと!? 楽しい奴め!!」
感嘆の声を上げるマジゲネの言う通り俺は剣によるダメージを一切受けなかった。原理はよくわからないが防御力が飛躍的に向上するフォームらしい。
「だがな、下半身はがら空きだぞ!!」
マジゲネは素早く下半身を狙い剣を振るう。俺はひざを上げ敢えて脚で剣を受け止めた。まあ、流石に弱点くらいは把握している。
「何と!身体硬化の魔道具でも使っているというのか?」
「残念だが俺には魔道具は扱えない。適性が無いからな。」
何せ魔道具の適性もXな男だ。前に安物の魔道具で試してみたら見事に何も起こらず少し悲しい思いをしたものだ。まあ、そういうわけでどうしようもない事はさっさと諦めて自分に出来ることを鍛えるに限るわけだ。
適性が無いと聞き、マジゲネが首をかしげる。
「悪いが面倒だからいちいち説明はしないでおくぞ。」
適性Xというのは本気でどう説明したらいいかわからない。ならば一番簡単なのは、『説明しない』である。マジゲネもそういう俺の姿勢を察したのかそれ以上の追及はしてくることなく距離を取りこちらの隙を伺っている。 再び相まみえようとした瞬間、俺の背筋を何か冷たいものが走った。
「何だ? これは殺気!?」
それは眼前の敵から発せられるものではなかった。マジゲネは敵ではあるが殺意を以てこちらと相対しているわけではなく純粋に戦いを楽しんでいる節がある。
それに対しこれは殺気だ。何かを成し遂げるために人を殺めることも厭わないどす黒い感情。
「何だ、気になることでもあるのか?」
マジゲネは感じていない?どうやらこの殺気は何故か俺だけが感じている?
そして、気づく。俺の右腕、リゼットとアンジェラから送られた手甲、これを通じて殺気が流れてくる。右腕に気を集中させる。脳裏にある顔が浮かんだ。
「これは……まさかリゼットなのか!?」
まさか、リゼットが殺気を放っている?一体どういう状況だ?普段の彼女からは想像もできない行為だ。止めてくれ。君にそんな感情は似合わない。
「気がそぞろだぞ、小僧!」
マジゲネが一気に距離を詰めガードの隙間、腕と腕の間へと刃を滑らせる。俺は己の腕で振るわれた敵の刃を挟み込む。
「悪いが行かなくちゃいけないところが出来ちまったようだ。連れてってやるからそっちで続きしようか。」
挟み込んだ剣を力任せにマジゲネから奪い取ると低空姿勢からマジゲネの股の間に頭を入れる。そのまま脚を抱えマジゲネを逆さに背負う感じで起き上がった。
「な、何なのだこいつ!?何をする気だ!?」
最下層目掛け飛び降りていく。そして空中で腕を持ち替えて相手の足を脇の間に抱え込み…。
「何かナナシさんが無茶苦茶な技を出し始めたーーーーッ!!!」
アンジェラの叫びが背後で聞こえたがまあ、いつもの事だ。俺はそのままリゼットの気配がする方向目掛け落下していった。




