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第33話 強くて凄くて速い女

◇ノーマン視点◇


 何ということだろうか。私の魔道具は完全に故障してしまっているようだ。でなければこんな馬鹿げた平民がいるわけない。

 貴族である私が負けているはずが無いのだ。1対多数ならまだしも1対1で圧倒されているなど悪い夢に決まっている。

 

「ありえんのだ!こんな平民がいるわけがない。これは悪い夢なのだ!!」


「うるさいなぁ。さっきから平民だの貴族だのくだらないことを気にして。」


「貴族には貴族たる義務があるのだ!故に、私は平民に負けるわけにはいかない。」


 そうだ。私は故郷の民の為に今日まで必死に研鑽を重ねてきた。その私を平民があっさりと追い越していいはずがない。


「あのさ……吠えてるところ悪いけど今からあたしのとっておきを使うわ。それでこの戦いは終わり。」


 平民が右小指にはめた指輪をそっと撫でる。すると彼女の右腕に魔道具が出現した。リストバンドの中央に透明な円形ガラスが嵌ったものである。

 一体どんな効果を持っているのか?相手が魔法使いということからある程度推測はできる。恐らく魔力を増幅させ大技を放つ為のものだろう。ならば強力な反面消費も激しいはず。

 そう言う事ならば卑怯な手ではあるが私の持つ最強防御魔道具を使用し敵の攻撃を受け止める。そうやって魔力の枯渇を狙わせてもらうとしよう。


「阻め、イージスローズ!!」


 眼前に現れたのは真紅に輝く薔薇の盾。圧倒的防御を誇るこの盾で平民の攻撃など見事に捌ききってやろうじゃあないか。


◇アンジェラ視点◇


 やれやれ、さっきから平民だのなんだのこの貴族は本当にイラっと来るなぁ。

 こっちとしてはナナシさんを介抱してあげたいというのに面倒なことこの上ない。仕方ないからナナシさんから貰ったこの魔道具を使う事にした。あんなヤツで実践デビューは癪だけど仕方がない。


 中央に透明な円形ガラスが嵌ったリストバンド。

 魔道具『疾風の時刻み計』(ネーミングbyナナシさん)。

 相手は何だか気持ち悪い薔薇形の盾を出している。多分、高威力の魔法を放つからそれを防御してこちらの魔力切れを誘発しようとか考えてるんだろうけど……甘い。これはそういう類のものじゃあない。


「発動……疾風の時刻み!!」


 呟き、そっとガラスをなぞる。

 4という数字が浮かび上がる。

 あー、運が悪いかね、短い!もう少し大きい数字が欲しい。

 そう思った瞬間、あたしの周囲の時間がゆっくりと流れ始めた。

 数字のカウントが始まる。

 へっぽこ貴族の側面に移動すると素早くその足元に水流弾(アクラル)を放ち衝撃で身体を空中へ打ち上げる。

 盾を手から離しゆっくりと身体を回転させながら上昇していく貴族。

 あたしは地面を蹴ってすばやく彼の上を取る。

 恐らく彼には何が起きているか理解できないだろう。

 あたしは杖を振りかぶり思いっきり殴りつけた

 同時にガラスに浮かぶ数字が0になり周囲の時間が元の速さへと戻る。


「ごばはぁっ!?」


 彼はすさまじい勢いで地面に叩きつけられ白目を剥き動かなくなった。


「平民や貴族。そんなものは単なる出自の違いに過ぎないわ。人の価値を決めるものではない。あなたにはあなたの矜持があるようだけれど、そこにこだわり過ぎて現実を見ることが出来なかったみたいね。」


 着地し気絶した貴族を見下ろす。

 うーん、ちょっとやり過ぎたかな……まあ、生きてるみたいだし良しとしましょう。


「なるほど。世界というものは広い。このような使い手がいるとはな。」


 ナナシさんの介抱に向かおうと思った矢先、鎧を着た変な戦士が追い付いてきた。

 この人、強い。このへっぽこ貴族とは明らかに格が違う。

 うーん、困ったな。『疾風の時刻み計』は1回使用するとしばらく使えない。

 しかも高速で動ける時間は毎回変化する。最長だと11秒動けたけど逆だと3秒だったり。

 強いんだけど使いどころが難しい魔道具なんだよねぇ。

 仕方がない。魔法だけで何とかするしかない。

 そう思い杖を構えようとした瞬間、あたしの肩に手が置かれる。


 この手の感触……優しくも力強い大きな手。

 振り向くとナナシさんがこちらをまっすぐ見つめていた。

 やだ、何この幸せシチュエーション!!

 ナナシさんの視線をひとりじめしてる!?


「ありがとう、アンジェラ。俺ならもう大丈夫だ。」


 告げるとナナシさんはあたしの前に出る。


「お前は確かそこの少女に担がれていた男だな。どうした、調子でも悪くしたか?」


「ちょっと嫌な記憶を思い出してしまってな。情けないことに放心していた。」 


「ナナシさん、記憶が!?」


「一部だがな。残念な事に今回思い出したのは出来れば忘れたままでいたいようなものだったよ。とは言え、それも含め今の俺がいると考えれば思い出さんわけにはいかなかったのだろうな。」


 そう告げたナナシさんの声は辛そうだった。

 一体この人の過去に何があったというのだろう?

 聞きたい。だけど……


「記憶の事は後で話す。俺が今まで隠してきたことも話したい。その上で俺についてきてくれるか考えてくれ。」


 やだ、それってプロポーズ!?

 いやいや、落ち着いてあたし。

 サラッと不吉なことも言ってるじゃない。

 でもたとえこの人が何を隠していたとしても多分あたしの気持ちは……


「よくはわからんがお前も抱えるものがあるというわけか。」


「そういうことだ。鎧の男。そして俺はそれから逃げていたようでな。」


「同じというわけか。名乗っておこう。俺の名は、マジゲネだ。」


「ナナシだ。記憶喪失なものでな、そう名乗らせてもらっている。まあ、この名前は気に入っているからこのままでもいいのだがな。」


「面白い男だ。手合わせ願うとしよう!!」

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