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第31話 リゼットVSサーシャその2

 装衣使い。リゼットは確かにそういった。

 装衣使い、か………

 え、何それ。聞いたことないんだけど。

 確かに特殊な効果を持った防具は存在する。

 炎に強い鎧や身軽になる魔法がかかっており回避能力が上がったりする踊り子っぽい衣装などだ。

 そういったものなのだろうか。

 とは言え、それらはあくまで防具の追加効果。

 だがリゼットはそれをわざわざ戦闘スタイルと称した。

 はっきり言おう………聞いたことが無い。

 見たところ装備の変化と共に武器も変化した。

 故にただ単純に装備を変えたというわけでもないだろう。

 つまりはそういった防具の上位互換ということだろうか。


「リゼット、どこでそんなものを……」


 そんな防具を私は見たことが無い。

 登場の仕方もおかしい。

 空間から出てくる防具とかもう意味が解らない。

 どんなレベルのアイテムだというのか。


「否、あなたは一体……」


 そうだ。そんなものを扱うなんて何者だというのだ。

 かつて彼女は庇護が必要な程か弱い存在だった。

 だが今、目の前に居る彼女は明らかに別の存在だった。

 

「……行くよ。」


 私の問いかけに応えず、リゼットは大地を蹴り距離を詰めてきた。

 速いッ!!

 だが対応できない速さではない。

 故に剣を構え攻撃を受け止めた……が!?


「ぬあっっ!?」


 重いッ!!

 大きくなったとはいえ獲物は短剣に違いない。

 それほどの威力は無いと高をくくっていた。

 だというのに一撃が重いッ!!

 まるでそう、これは鈍器による殴打……何でそうなる。


「だがっ!!」


 一旦、後ろに下がるとフェイントを入れつつ3連続の斬撃を繰り出した。

 ゴンッ、ゴンッ、ゴンッと鈍い音が響き私はさらに距離を取ることになった。

 おかしいでしょこれ!?

 全ての斬撃にリゼットは対応した。

 それも攻撃を『受け止めた』のではなくこちらの攻撃に『合わせて攻撃』を行っている。

 最初は相手にすらならないと思っていた。

 だけどほんの少し斬り合っただけでわかる。

 リゼットの方が技量は上だ。

 落ち着いた足運び。こちらを冷静に見据える瞳。

 いつもの「うぇっ!?」とあたふたしているリゼットじゃない。


「ならばっ!!」


 両の腕に魔力を籠め、一気に膨張させる。

 そのまま距離を詰め力任せに左から横薙ぎする。 


王左門(キングサーモン)ッ!!」


 剛力から放たれる必殺の一撃。

 硬い敵の身体を切り裂く時に使う技で人間相手、ましてやかつてのリゼットには絶対使わないであろう殺意の技。

 リゼットはやはりというかしっかり反応し攻撃を受け止める。

 しかし今までとは段違いの重さを誇るこの一撃は受け止めきれず数m飛ばされ壁に激突する。

 リゼットは口から血を吐くと地面に倒れこんだ。そう、予想通りの結果だ。

 その姿を確認し腕の膨張を解除すると一気に疲労が襲ってくる。

 必殺の一撃だけに反動が大きい。

 とは言え今の攻撃でかなりのダメージを与えることが出来ただろう。

 出来ればこのまま幕引きと行きたいところだが……

 リゼットの上に新たな空間が開く。

 終わらない……か。


「全く、何なのよあなた。」


 思わず愚痴る。

 例え防御できたとしても大ダメージは避けられない一撃。

 それを受けてなお……これ以上傷つけたくはないというのにそれでもなお立とうとする。

 ゆっくり立ち上がったリゼットは先ほどと違う、金色の鍵を手にしていた。


「サーシャさんは強いね。銀で勝ちを取りに行くのはダメだったよ……」

 

 つまりその台詞は今のより上のランクの形態が存在すると言うことなのだろう。

 今持っている金の鍵がそれということなんだろうけど……


「別にね、侮っていたんじゃないよ。でも、金の鍵は使った事無いんだ。ていうか持っていなかったというべきかな。だからさっきお兄さんがこれを出してさ、正直驚いてる。ボクにとって本当に未知の体験なんだ。」


「こんな戦い、私は全く予想していなかった。あなたはずっとか弱いリゼットだと思っていたから……」

 

「ごめん。今まで黙ってて。ボクには大事な使命があるんだ。」


 使命。

 それがかつて彼女が纏っていた人を寄せ付けない雰囲気の理由なんだろう。


「それにはお兄さんの力が必要なんだ。お兄さんの歩みを止めさせるわけにはいけない。その為ならサーシャさんにだって刃を向けるよ。」


「リゼット……」


 その瞳に私は確かに感じた。

 強い決意と共に渦巻く黒い炎。

 それはまるで彼女を縛る呪いにも感じられた。

 そう。ようやく気付く。

 彼女の心は何かその『使命』に囚われている。 


「実の所、話し合いで収めることも考えた。ただ、それはあくまでサーシャさんとだけ有効なのであって他の人達はそうじゃないと思う。」

 それでもまだ微かに残っている。

 彼女が元来持つ優しさ、というものが。


「それに少なくともひとり、明確な悪意を持ってこの城に来た人が混じっていた。」


 悪意を持った者?


「マジゲネのこと?確かにあの男は極悪な指名手配犯だわ。」


 ただ本当にそうだろうか。

 少しの間だけ一緒に居たが国家転覆をもくろむような極悪人とは思えない。

 むしろちょっといい加減なおじさんという印象だ。


「どの人がマジゲネって人かはわからない。でもボクは止まらない。」


 否、この子は止まれないのだ。

 だがそれを感じてなお、私はこの子を止めなくてはいけない。

 そうでなければこの子は元のリゼットに戻れなくなるだろう。

 ならば私がここで止めないと。たとえ、この子に恨まれることになっても……

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