第30話 リゼットVSサーシャその1
◇サーシャ視点◇
目の前で飛竜に乗ったノーマンとヴァラルが城へと突っ込んでいった。
城には魔物避けの技術が使われているようで飛竜は着地を嫌がっていたのだが中々に強引な侵入方法だ。
竜の生命力は高いのであれくらいで死にはしないがそれにしても無茶苦茶だ。
手綱を握っていたのは貴族の坊ちゃんだったが本当に馬鹿なんだなぁ……
「ダイナミック着地というやつか。」
マジゲネが感嘆を漏らす。
いや、あんなのに感心するな。
「ダイナミックにも程がありますよ……私達はどうしましょう?」
「そうだな。アレに負けないインパクトを持つ着地とくるとな。少し考えるとしよう。」
「馬鹿ですか?どう安全に降りるかです。」
頭痛がしてきた。
出来ればこの鎧男を突き落としてそのまま帰りたい。
そんな事を考えながらしばらく上空を旋回していると城の中庭に複数の人影を確認する。
「どうやら誰か私たち以外に居たようですね。」
「ならばお宝争奪戦となるな。急がねば。」
「そうですね。それではどこかに着地を……」
「いや、面白そうだからこうしよう。しっかりと着地するんだぞ。間違うと死ぬからな?」
は?
間違うと死ぬ?
瞬間、マジゲネは私を突き落とす。
「馬鹿ですかぁぁぁぁぁぁ!?」
「為せば成る!着地がんばれ!!」
少し遅れ落下してくるマジゲネに文句を叫びながらも私は着地姿勢をとる。
同時にスキル『高所着地Lv2』を発動させた。まあ、あれくらいの高さならこのランクのスキルで対応は可能だろう。
衝撃を和らげつつ着地をした私の視線の先には思いもよらぬ人物たちがいた。
「リゼット!?それにあなたは……アンジェラ!?」
「サーシャさん……」
アンジェラは男性を担いでいた。
見覚えがある。リゼットが拾ったという『年上のお兄さん』だ。
名前はナナシでふたりとパーティを組んであっという間に中級まで上り詰めた男。
だが何で彼女たちがここに?
情報を整理するよりも先に、アンジェラの隣にいたリゼットがナイフを抜いてこちらに飛び掛かってきていた。
「ええええ、リゼット何やってんの!?」
「アンジェラ!お兄さんを頼んだ!サーシャさんはボクが止める!!」
待って。何がどうなっている?
この流れは私がリゼット達と敵対するということを意味している。
敵?リゼット達が?
最早あらゆる状況が理解不能なんだが……
アンジェラはナナシを抱えて城の上部へと逃げていく。
恐らく身体強化魔法を使っているのだろうが……結構レベル高くないだろうか?
身体強化魔法ってあんな効果強いものだっただろうか。
私も火属性の身体強化魔法(腕力強化Lv1)が使えるが効果は微々たるものだ。
あれアンジェラは軽く見積もって脚力と肺活量と腕力を強化してるよね。
それもLvは1とかそんな強化段階じゃないはず。
あの子、いつの間にそんな高等魔法を使えるようになったんだろう。
元々、魔法系の才能がある子だったけどこの世界には成長限界というものがある。
人はそれぞれ成長の限界があり、それは生まれなどである程度決まっている。
その限界Lvに達すると新しいスキルなどを習得するのは難しくなる。
普通に生活している分にはあまり気にする必要もないのだが冒険者などは違う。
私もそうなのだが平民の限界は高くてLv20程度。それ以上成長しようとするならばとある機関に大金を払う必要がある。それでもせいぜい上限が少し上がる程度だ。
逆に貴族は成長限界が高い場合が多い。そして金がある。
必然的に生まれが良いものは成長しやすい環境ができる。
それがこの世界の仕組みだ。
アンジェラは、さぞ頑張ったのだろう。
平民でありながら限られた成長限界で高度な強化魔法を習得したのだ。
ならばその過程で犠牲にしたものも多いだろう。
そうか、あの子はリゼットやナナシのサポートをする為に攻撃魔法の研鑽を諦めそっちの方に特化する道を選んだのか。泣ける話だ。
とまあ、感動したところで目の前の課題に向き合うとしましょうか。
「リゼット、あなた何をしているの?」
問いつつもわかっている。
彼女は自分が何をしているのか理解している。そのうえで敵対しているのだ。
「サーシャさん、ごめん。今、あなたはボク達の敵なんだ。」
「そう。そうなんだ。」
まっすぐにこちらを見据えてくる瞳。
初めて出会った時、この子は人を避ける、戸惑った瞳をしていた。
あまりにも儚く危なげで、消えてしまいそうな光だった。
放っておくことが出来ず私は彼女に世話を焼いた。
だがそれでもこの子は一定の距離以上は近づけさせようとしなかった。
それが今は力強い光を宿し仲間と一緒にいる。
強くなったな。そう、心で呟くと距離を取り刀を構える。
「リゼット。あなたが敵対するというなら仕方ないわ。ただ、確認させてもらうけど力の差はわかっている?それにあなたの短剣に対しこちらはリーチの長い獲物。まともな勝負にはならないわ。降参した方が身の為よ。」
お願い。出来ればここで諦めて。
だが……
「サーシャさん、こっちも聞くよ。そっちこそ降参しなくていい?」
はい?
今何と?降参しなくていいか?ですって。
少しイラっときたかもしれない。
するとリゼットが懐から銀色の鍵を取り出した。
鍵?いや、こんな状況で只の鍵など出すはずもない。
ならばあれは……
「まさか、魔道具なの?だけどあなたは魔道具の適性は低いはず。この状況を打破する様なレベルの魔道具を使えるとは思えないわ。」
「これは鍵だよ。ただの鍵。鍵って言うのはね、『開ける』だけのもの。そしてその中にあるものを取り出すことが真の目的。」
リゼットが軽く鍵を振り円を描くとその先、彼女の右側の空間に穴が開く。
「な、何なのその空間魔法は?」
「お兄さんには嘘ついてたんだよね。収納魔道具だなんてね。確かに収納魔道具ってのはあるけど形違うんだよね。」
そうだ。一般的に収納魔道具というのは袋や箱の形をしていたりして対象となる荷物を一時的に縮小するなりして持ち運びしやすくしているもの。だが重さはそのまま変わらない。
なので大体の冒険者が持っているのはポーチで採取した植物などを入れている。
あんな空間に穴を開ける代物、見たことが無い。
「何を……何を収納しているというの!? リゼット、あなたは一体何者なの!?」
「でおりゃぁぁぁっ!!」
リゼットは穴目掛け鍵を投げ込むと同時に穴に腕を突っ込むと何かを掴み一気に引きずり出した。
あれは………
「外套?あなたが引き出したそれはそう、正に外套だけれどもそれがあなたの真の目的?」
リゼットが取り出したものは真っ赤な外套だった。
何が起きているのか次から次へと情報が入ってきて処理が追い付かない。
そうこうしているとリゼットは素早く外套を羽織った。
すると外套は形を少しずつ変えジャケットのような形へと変化していく。
外套の一部はリゼットの短剣にも纏わりつき一回り大きな刃を持つ短剣へと変化する。
「紅色刃の装衣。これがボクの本当の……『装衣使い』としての戦闘スタイルだよ。」




