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第28話 冷たく、昏き記憶

◇リゼット視点◇


 ボクには未来が視える。

 ヴァッサゴーの瞳。それがボクが持つ固有能力。

 呪いとも呼ばれる忌まわしい力。

 視える未来も自分が望むものを選んで視ることは出来ず、突然頭の中に未来が入り込ん でくるといった感じだ。

 

 そして、その未来は『確定』したもの。どうあがこうが変えられない。

 本当に心の底から忌み嫌う呪いだった。

 だけどお兄さんはそんな呪いを打ち砕き、変わらないはずの未来を変えてくれた。

 運命は変えられる。お兄さんはそれを体現してくれた。

 

 ミアガラッハの城で出会った引きこもり騎士、メイシー。

 彼女との出会いもボクには視えていた。

 お兄さんと出会う前からこの未来は視えていた。

 最初はどんな未来なのか全くわからなかったのだがまあ、こういうことだったのかと。

 ただ、アンジェラの件を境にこの未来にひとつ変化がうまれていた。

 それはアンジェラの存在だ。

 かつての未来だとそもそもアンジェラは既に亡くなっている。

 なのでこの場にはいないはずだがお兄さんのおかげでアンジェラはボク達の仲間としてこの城へやって来た。


 未来視は変化し、アンジェラとメイシーが同じ場所に居る未来へと変化した。

 それは喜ばしい事なのだけれど、もうひとつ変化があった。

 本来、パーティメンバーであった人物がパーティからいなくなっていた。

 セルビリム・サーシャ。先輩の冒険者で年上のお姉さんだ。

 街に来たばかりのボクにギルドの事を教えてくれたりアンジェラとは別の方向で色々と世話を焼いてくれていた。


 アンジェラの死を体験し落ち込んでいるボクを見てよく訪ねて来てくれ、結果としてパーティを組むこととなってミアガラッハの城へと到達。ちなみに未来視ではどことなくお兄さんと距離が近くちょっと大人の雰囲気が漂っていた。


 しかし、その未来はアンジェラの生還と共にアンジェラが代わりのポジションに着くといった感じで書き換わった。

 これもお兄さんによるものなのだけれど少しもったいない気もする。

 結構お似合いの感じに視えていたんだけどな……

 まあ、アンジェラが代わりのポジションに着いたとは言ったけど別にふたりの間に何かが芽生えてる様子はない。

 否、正確にはアンジェラは明らかにお兄さんに惹かれているようなのだけどお兄さん自身にその気がなさそうって言うかこの人女性に興味が無いんじゃないかなって思える時がある。

 何にせよ、未来の確定率は下がった。或いは行動次第で変化するようになったので正確性は怪しい。


 一方で能力の練度が上がったのだろうか。ごく近く、そして短い未来をある程度任意で視ることが出来る『近予知』が出来るようになり、戦闘では結構役に立っている。

 ただ、消耗はそれなりなので多用は出来ない。

 だけれども不安もある。未来は確定であった。

 だけどお兄さんはそれを打ち砕く。

 かつてボクが見た未来。ボクにまつわる問題を解決してくれるという未来も、打ち砕いてしまうんじゃないだろうか……

  

 

◇ナナシ視点◇


 家宝が、どこかの王族から賜ったという家宝がとんでもないことになっていた。

 何だよ、引きこもり兵装って! 聞いたことないわ。

 兵装っていうくらいだから戦闘能力があるのだろう。

 だが目の前にあるのはどう見てもネットカフェの個別ブースの超パワーアップ版だ。

 いいのかミアガラッハ家。家宝だよな?

 っていうかどんな改造をしたらこうなるのかよくわからないが少なくとも元のマーナガルムって人を収納できる快適空間が作れるくらいデカイってことだよな。

 異世界すげぇわ。そしてマーナガルムの存在意義がよくわからない。

 まあ、飾りだったのかな。うん。

 リゼットとアンジェラを見るがあまりの超展開に放心している。

 ものすごく正しい反応だと思う。


「ふふっ、驚いて開いた口が塞がらぬようですわね。」


「まあ、色々な意味でな。もう大抵の事には驚かんと思ってたんだがな。」


「ボクもこれは視えなか……じゃなくてこれは理解を超えたかな。」


 ちなみにアンジェラはまだ放心していた。


「またこれ名前がな……マーナガルムMk2セカンドって2が被ってるしなぁ。」


 絶対悪ノリで付けられた名前だな。


「お兄さん、何か思い出した?」


「ん? ああ、いやまだ何も。」


 そうだった。

 記憶の為にもマーナガルムを見せてもらったんだ。


「メイシー、こいつの外装。少し触らしてもらうぞ。」

 近づいて何も起こらないなら触ってみるのが一番だ。

 メイシーに断りを入れ外装に手を振れる。

 瞬間、体中に電気が奔り、意識がブラックアウトした。



 気づけば俺は先ほどまでとは違う、空間に立っていた。

 自分にまつわる記憶がなくともこれがどういう場所かは知っている。

 正面に巨大な黒い黒板、整然と並べられた机と椅子。

 これは学校だ。机の高さなどから見れば小学校だろうか。

 俺は丁度、真ん中あたりに立っていた。

 首を動かし教室の後ろに目をやる。壁に貼られているのは習字。

 書かれている感じから察するに低学年くらいだろうか。

 つまりここは俺が小学生だったころの教室ということか。


「ここが俺の教室だったというならてがかりがあるんじゃないか。」


 教室には名前が溢れている。

 少なくともこのうちひとつが俺の名前であるはずだ。

 とはいえ男子だけども十数人いる。

 その中で俺の記憶を揺さぶるような名は無いだろうか。

 教室を散策しようと歩き出す。

 瞬間、傍らにある机に目がいった。


「ッ!!」


 心臓が激しく脈打った。

 机の上には花瓶が飾られておりしなびた花が生けられていた。

 この席の主が亡くなったのだろうか?

 否、机の上に書かれた陰湿な寄せ書きがそれを完全否定していた。

 机にマジックで書かれたと思しき言葉。

 『死ね』

 『学校に来るな』

 『くさい』

 稚拙ながらも心をえぐるような言葉が連ねる。

 そんな中に、ひときわ目を引く言葉があった。

 『はんざいしゃのこども』『ひ害しゃにあやまれ』

 何だこれは?

 この机から目が離せなかった。

 これが俺の席なのか?

 俺はいじめを受けていたというのか?

 そして、俺は親が何かの犯罪を犯していたというのか?

 こんなものが、こんなものが俺が望んだ記憶だというのか?

 こんな辛いものを。

 こんな冷たいものを。

 こんな昏い記憶が欲しかったのか?

 これなら記憶なんか……取り戻したくなかった。





「さん! お兄さん!!」


「ナナシさん、大丈夫ですかっ!?」


 気づけば俺はマーナガルムの前に立ち尽くしていた。

 リゼットとアンジェラが両脇から心配そうに顔を覗きこんでいた。


「リゼット……アンジェラ………俺は……?」


 何が何だかわからなかった。

 心の中を満たす昏い感情。

 気がめいり、足元がふらつく。


「危ないっって、ええええ、ナナシさん!?」


 俺はアンジェラの方に倒れこんでおり彼女に抱き着くような形で受け止めてもらっていた。


「うぇぇっ!? お、お兄さん何やってるの!?」


「リゼット、これ違うって。ナナシさん倒れそうになってて……あ、でももう少しこのままでもいいかも。いっそのことこのまま倒れてもそれはそれで」


「アンジェラも落ち着いて! 何か心の声みたいなのがダダ洩れだよ!!」


 いつもの喧騒が少し心地よい。

 だがこの記憶。冷たく昏いこんな記憶を抱え俺は今までの様に居られるだろうか?

 するとリゼットが何かに気づいたように天を見上げ……


「みんな、伏せて! 来るよっ!!」


 叫ぶと同時に鳴り響く轟音。

 城が大きく揺れ、視界の中で壁の一部が崩れ落ちた。

 戦いが、始まる……

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