表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/112

第25話 騎士への謝罪会見とジャージ

 ミアガラッハの城内。

 かつて食堂であったと思われる場所で俺はリゼットと並んで長机を前に着座していた。

 横にはスペシャルアドバイザーという名目でリゼットが座っている。

 そして離れた席には先ほど出会った女性、メイシー。そしてその横にアンジェラが座っていた。

 何故、こうなったのかというと俺がメイシーに持論を展開して誤魔化した後、かけつけたふたりにこっぴどく叱られ、『謝罪会見』なるものを開くこととなったのだ。

 っていうか、この世界にもあるのか謝罪会見。


「この度はボクらのパーティメンバー、ナナシのお兄さんの起こした不祥事に関する謝罪会見を行いたいと思います」


 かしこまった様子でリゼットが言う。


「あの、えっと……」


「ほらお兄さん、大きい声で。後、相手の目を見てね」


 そっと、アドバイスが囁かれた。

 そうだな。きっちり謝罪をするのが筋だ。

 ふたりはその為にわざわざこんな場を設けてくれたんだ。

 メイシーも聞いてくれているんだ。素直に話そう。


「えっと、他人の居住地であるという意識が甘かったと……そう、自分の考えが甘かったと思います。はい……」


「お聞きしますが被害に遭われたメイシーさんを口八丁で騙そうという気持ちはあったんですか?」


 アンジェラが手を上げ質問する。口八丁って言葉、この世界でもあるんだな。

 ていうかアンジェラ何かノリノリなのは気のせいか。

 一方のメイシーは真剣な表情で聞いている。


「無いです……無いですって答えて」


 やはりリゼットが横でささやく。

 有難いんだが何だろう、これどこかで見た気がするんだが何だったか。


「あ、ありません。悪意は一切無かったです」


「ですが実際にメイシーさんに謝罪をしつつ誤魔化そうとしてたそうじゃないですか。その辺はどう説明されるんですか?」


 ちょっと待てアンジェラ。君は何でそうやって話をややこしい方向にもっていこうとするんだ。というか楽しんでるように見えるのは気のせいではなかろうか。


「頭が真っ白になって………そう言おう」


 そしてまたもやリゼットが囁く。


「こ、こういう経験は初めてで頭が真っ白になってしまって………って待てよ、これあれじゃねぇか!『ささやき会見』だよな!?リゼットなんでこれ知ってるんだよ!?」


「ちょっとお兄さん、冷静になってよ。いきなり何を猛ってるのさ。これじゃ逆効果になっちゃうよ。」


 そうは言うけどなぁ。だって、これあれだぞ。

 某割烹の謝罪会見じゃないか。ささやき会見。懐かしいな、おい。

 本当に何で知ってるんだ。完全に世界が違うぞ。


「急に叫びだしたりなんかして、それって逆切れですか?やはり反省の色が見られないようにあたしは思うんですがその辺どうお考えですか? 真実を言ってください!!」


 いやいや、本当にどっちの味方だよこいつ。

 完全に敵視してくる記者のポジションだよ。

 メイシーも少し苦い表情をしている。

 まずい、悪い印象を与えてしまったようだ。

 すると急にリゼットが号泣を始めた。

 次から次へと何が起きてるんだ。


「今回の……今回の件は、パーティの、パーティの問題だけでなく、冒険者全体の……モラルの問題です。そんな問題を、そんな問題を解決したい一心で……ボクは、謝罪会見を!開いたんです!」


「待てリゼット、何でそれも知ってるんだ!?」


 某議員の号泣会見じゃねぇかこれ。

 最悪だ。もう印象最悪じゃないか。

 と思いつつメイシーを見るとハンカチで涙をぬぐっている。

 アンジェラも鼻をすすっているのがわかる。

 待て、今のどこに泣ける要素があった。


「それなのにお兄さんは!わけのわからないことを言って、話を逸らそうとしてるんです!」


 落とし処がそこになっちゃったよ。

 そもそも俺が悪いんだけど完全に謝罪会見ネタに突っ込める雰囲気じゃなくなったよこれ。


「ほ、本当に悪かった。心から謝罪するし、俺の為に骨を折ってくれた二人も本当にありがとう。」


 いや、本当に何だこれ。


「皆さんのお気持ちに心が揺さぶられました。私、ミアガラッハ・メイシーはナナシさんの謝罪を受け入れたいと思います。」


「お、おう……」


 何だろう。謝罪は何とか受け入れてもらえたわけだし終わり良ければ総て良しってやつなんだろうかな。


「ところでリゼット、さっきの会見ネタなんだが本当にどこで。」


「ネタ? そんなのないよ。ボクなりに一所懸命考えた結果だけどどうしたのさ?」


 やだ、この娘ったら素であんなことしたの?

 末恐ろしい。


「あの、ところで皆さんはどうしてこのお城に来られたんですか?お客様が来るのは久々なのですが。」


「ああ、それなんだけど。色々事情があって何から話せばいいかな。」


 俺は軽くかいつまみながら記憶を失っていること、その過程でマーナガルムという盾を探しているとのことなどを説明した。


「マーナガルム……ああ、それでしたら確かにこの城にありますわね。一応」


「そ、そうなのか。それは良かった。」


 一応という言葉が気にはなるが……


「それで……ナナシさんはマーナガルムをどうしたいのですの?」


「正直、俺もよくわからん。ただ、マーナガルムを探すということしかわかってないからな」


 そう、マーナガルムを見つけたあとの事はわからない。

 RPG的に言えば何かしらイベントが起きるのだろう。

 だがとりあえず目的は達成できそうだ。

 さて、それでは今度はさっきから疑問に思っていることを聞いてみようか。


「ところで君が着てい……」


「質問!メイシーが来てるその服は何?」


 アンジェラが横から質問を奪っていった。

 いや、まあいいんだけどね。とりあえずこのジャージみたいなものはやはりアンジェラたちから見ても不思議なものらしい。


「これですか? これはジャージーという異国の衣装らしくとても快適なのですよ。友人から頂きました。」


 何だその牛乳みたいな名前。

 

「友人?そう言えば俺達は久しぶりの来客って言ってたな」


「はい。普段はストローンという街で発明のお仕事をなさっているらしいのですが時々訪ねてくれるのです。ある時にのんびりするならこういう服があるよってくれたんです」


「ストローンって言うのはコランチェから馬車で2時間ほど南へ下った大きな街だね」


 土地勘のない俺にリゼットがさり気なく説明をくれる。

 こういうフォローは本当に助かる。


「その方、シラベさんは色々と斬新な発明をなされてそれを私に譲ってくださるんですよ。」


 ちょっと待て。今の名前の発音。


「あの、メイシー。すまないけどその人、フルネームは何て言うんだ」


「イシダ・シラベさんですわ。」


「ナナシさん、もしかして知り合いですか?」


 アンジェラが俺の顔を覗き込む。


「いや、そういうわけではないんだが……その語感に聞き覚えがあるような。」


 ぼかしているがその名前、明らかに日本人ぽい。


「お兄さん、これはもしかして新しい手掛かりじゃないの!?」


 可能性は高い。

 俺の様にこの世界にやって来た日本人が他にいたとしても不思議ではない。

 名前からすると女性のようだ。しかも名前の付けられ方からして比較的若いのではなかろうか。

 とするとジャージーというのはやはりジャージで、異国というのは日本の事ではないだろうか。

 異世界と言うとややこしいから異国ということにしたのでは。

 斬新な発明というのはいわゆるあれではないか。転生前の知識でTUEEEとかいうあれなのでは。


「このお城もシラベさんが色々なところを改装してくださって私が快適に引きこもれるようになってるんです」


 そう言うとメイシーは食堂の脇にある大きな箱にコップを置き幾つかあるボタンの1つを押す。

 今、「引きこもる」とか変な単語が出た気がする。


「こうすると様々な種類の美味しい飲み物が出てきます。私はこの黒くてシュワっとした飲み物が特に好きなのですが」


「それ、ドリンクバーじゃねぇかぁぁぁ!しかもコーラかよ!!」


 文明の利器を発見した瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ