第24話 ミアガラッハ・メイシー
◇サーシャ視点◇
「受ける依頼、間違えたかもなぁ……」
長く冒険者をしていると時々そう思う時がある。
例えばある鉱石の納品依頼を受けたのだが鉱石が採掘できる場所というのがアンデッドの巣窟であった事もある。
アンデッド系が多いダンジョンというのは正直かなりハズレである。
ゾンビバットやデッドバシリスク。グロい見た目のモンスターを切り刻みながら半泣きで鉱石を採掘したあの依頼はトラウマだ。
空をかける飛竜の背中に乗り、騎竜手綱で指示を出しながら今まさにあの時の様な公開が襲ってきている。
今回の依頼主はレミングスター家の令嬢シアアリス。内容はミアガラッハの廃城を捜索してそこに隠されている財宝を探すというもの。
その廃城というのはいつも町遠くに見える動く城のことだった。噂では悪の魔法使いが住むとか言われていたがまあ、下らないうわさ話と鼻で笑っていた。
何ともロマンにあふれた依頼だなと思いつつも報酬が良かったしそもそも世話になった人からの紹介だ。あまり深く考えず依頼を受けた。一応、調査の結果財宝が見つからずとも報酬は支払われるらしいしまあ、美味しい依頼だ。
「でもなぁ、これは予想してなかったわ……」
顔合わせの場に現れたのは私を含め4人。現在、2人1組で飛竜に乗って動く城を追っている。
この飛竜というのもレミングスター家の財力で調達したもので多分出どころはラハナ諸島国辺りだろう。あの辺は騎竜の文化がある。竜に乗るのは初めてだったが専用の手綱があって誰でも竜を操ることが出来るようだった。まあ、上位の竜は流石に無理なようだけれど…
鞍に備え付けられていた水晶から気取った声が響く。
「遅れているようだぞ平民。早く追いついてき給え。」
うん、ちょっとイラっとする。
声の主はシアアリス嬢の婚約者であるアンブリス・ノーマン。
貴族の坊ちゃんでキザな男だ。多くの貴族と同じく、平民を見下しており何かとマウントを採りたがる嫌な男。まあ、貴族といってもド田舎の下級貴族に過ぎないが……
彼は魔道具の使い方に長けているようで両手の指全てに魔道具をつけていた。それだけ装備しているということは魔法使いだろうか。魔道具で様々な命令術式を魔法に付与させるというわけだ。
そして胸に一輪のバラを刺している。馬鹿っぽい。うん、多分馬鹿だと思う。
彼と同じ飛竜には寡黙な弓の名手ヴァラルが同乗していた。
彼は弓を扱う中級冒険者でいつも無精ひげを生やしている。年の頃は20代の後半といったところだが実際の年齢はわからない。何度か一緒に組んだことがあるが弓使いでありながらロックトータスの甲羅を貫通する一撃を放てる強者だ。何度か組んで仕事をしたこともあり腕は信頼できる。但し、ちょっとコミュニケーション能力に難がある為、基本的にソロで動いている。
さて問題は私を除いた最後の1人。それは私の後ろに同乗している。
ちらっと後ろをうかがう。重厚な漆黒の鎧に身を包んだ男が飛竜の背に鎮座していた。
鎧は所々に赤い血管の様なものが浮き出たデザインになっておりそのラインの所々に魔道具と思しきものが埋め込まれている。そして兜にはドクロを模した仮面が取り付けられている。
彼の名はマジゲネ。今回の調査パーティの中でひとり明らかに異質な存在だ。何が石塚といえば風貌もさることながら指名手配されているということだ。
ナダ共和国の北にマグナ・ドネルという国がある。巨大な虫型モンスターを駆る「騎士虫」を有する国家で彼はそこの騎士団長でその名を国外にも轟くほどの猛者であった。
しかし、邪悪な野心を持った彼は国王を裏切り策謀を張り巡らせ、隣国である大ダミア帝国に国を売ろうと部下と共に暗躍。国境の村の人間を皆殺しに禁術を研究し悪魔に魂を撃ったと言われている。裏切りに気づいた別の騎士により戦争は事前に食い止められ、加担した部下は倒すことが出来たもののこの男は姿をくらましたという。
マグナ・ドネルは国家転覆をもくろんだ重罪人として彼に懸賞金をかけている。
はっきり言って一緒に行動していること自体が危険な男だ。依頼主には黒い噂も多かったのだがこういう男を雇っているところをみると真っ黒なのはよくわかった。
噂によると『能力者』でもあるらしい。『悪魔の呪い』を受けた能力者。どんな能力かはわからないが危険人物だ。
「剣士よ、俺が怖いか。」
不意に、マジゲネが口を開く。
しばらく答えに詰まるが意を決し、紡いだ。
「怖くはないですよ。ただ、不快なだけです。」
「不快、か……」
「あなたの名声は諸外国にも轟いておりますからね。」
危険な行為かもしれない。
ただ、相手に臆し、自身の意見を捻じ曲げるのは癪であった。
「名声、か……中々良い皮肉だな。嫌いではない。」
「……それはどうも。」
別にお尋ね者に好かれたいとも思わない。
「時に剣士よ、お主が腰に差している刀についてだが。」
「これですか? 曙雲って言うんですけどこれが何か?」
「やはり銘打たれているものか。どの程度そいつの力を引き出せている?」
どの程度引き出せているか?
奇妙なことを聞くものだ。
「剣術については道場で学びました。刀は道場を出る時、父から譲り受けたものです。それなりには扱えますよ。一応、中級冒険者やってますしね。」
「そういう事ではない。どうやらお前は刀という武器種の事を理解していないようだな。」
「侮辱ですか? 確かに剣士としてはまだ未熟なところがありますが、武器の特性は理解しているつもりです。刀とは鋭い斬れ味と持ち回りに優れていて……」
「だからそういう事ではないというわけだ。」
くく、とマジゲネが笑いを漏らす。
「かつて俺は刀を扱うものが多くいるヤマトという国の剣士と剣を交えたことがある。」
「ヤマト…確か外部との交流を極力避けているという閉鎖国家。刀発祥の地でしたか?」
「その剣士は俺達が一般的に知っている刀使いとは一線を画する存在であった。」
何が言いたいというのだろうか。
「……達人ということですか。」
「そうではないのだ。だが説明というのはまた難しいものだな。だが俺の見たものを伝えるならその剣士の刀はドラゴンとなり本能が赴くままに大地を蹂躙した。」
刀がドラゴンに?
一体どういう状況だというのだろう。
「幻覚でも見たのでは?」
「ハハツ、部下共にも同じことを言われ笑われたものだ。だが俺は確かに見たのだ。」
「考えられる可能性としてはその刀が『能力者』ということですか? 確かに悪魔の呪いが無機物に宿る例があるとは聞いたことがありますが……」
「俺もそう思った。だがその剣士は言ったのだ。『刀の声を聞けば刀は応えてくれる』とな。」
「……意味が解りませんね。」
刀は無機物だ。
喋りはしない。
「その意味が分かった時、お前は刀を扱う剣士として更なる段階へ進むのだ。真髄という奴だろうかな。覚えておくといい。」
「……まあ、心の端にでも留めておきますよ。」
無駄な時間を使ったものだ。
とは言え、少し話してみたらこの男からはそれほど嫌な気配は感じられなかった。
少なくとも国家転覆を狙ったという極悪人とは……
否、悪人というのはそうやって人の心に付け入り騙すのだ。油断は大敵だ。
それにしても刀がドラゴンになるとは……それに刀使いとして更なる段階とは何だろうか。
◇ナナシ視点◇
朽ちた廃城に悲鳴が響き渡る。
まあ、そうだよな。窓の外で男が立ちションしててそれを目撃するとかもう悪夢以外の何ものでもない。
「へ、変態っ!」
まあ、ごもっともな意見です。
「ご、誤解だなんだ。話を聞いてくれ。そうすればわかりあえる。」
「誤解……?いやいや、どう考えても誤解じゃないし。むしろ変態そのものじゃあないですか!」
立ちションです。まあ、一応軽犯罪ではある。
「俺はただ、用を足していただけなんだ。」
「なるほど…いえいえ人の家の庭先で用を足すなんて変態のやることです」
「まあ、聞いてくれ。用を足すと言うことは人間にとってごく自然な生理的な欲求であるんだ。君はそれを我慢しろと言うのか」
俺は何を開き直っているんだろう。そりゃ我慢するのが当たり前だ。
素直に謝るのが最善というのに真剣な表情で明らかにおかしなこと言っている自分がいる。
「な、何を言って……いや、でも確かに生理的な欲求というのは……なるほど一理あるかもしれませんね……」
あれ、意外といける感じか?
「そうなんだ。無理に我慢することによって人体が受ける肉体的・精神的ダメージは計り知れないものなんだ。」
「は、計り知れない……確かに無理はいけませんね。身体に悪いかもしれないし……」
「わかってくれるのか。そう、下手をすれば命に係わる。」
「な、何てこと。頭ごなしに否定し叫んだ自分が情けないです……」
うん、焦ってる。もしかしてこの子、天然かな。
とは言えここで、一度自分の非を認めておこう。
「確かに、俺にも悪い点はあったと思う。だがわかってくれ。決して軽はずみな行動ではなく熟慮に熟慮を重ねた結果であったんだ。」
「そ、そうでしたか。私の方こそ、騎士としてあるまじき醜態を見せてしまったようでお恥ずかしい……」
「ありがとう。俺はナナシという。」
「……申し遅れました。私はミアガラッハ・メイシー。騎士の娘です」
どうだ、この俺の咄嗟の機転。
明らかに俺に分が悪い状況から謝罪も交えつつ穏便に事を済ませることができたわけだ。
一方、背後には悲鳴を聞きつけてやってきたリゼットとアンジェラが来ていた。
「ねぇねぇ、さっき悲鳴聞こえたんだけどお兄さんったら何やってんの……ていうか何? え、女の人?これってどういう状況!?」
「いや、これはその……誤解……ではないな。」
「な、何やったのお兄さんっ!!?」
「おいおい、いきなり俺がやらかしたみたいな言い方はやめて欲しいな……いや、やらかしたな俺」
この後、事情聴取の末、無茶苦茶怒られたのであった。




