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第1話 異世界の少女と屍の獣

 気がづけば俺は見知らぬ場所に立っていた。

 見た所、森の中の様だが傍には蔦が好き放題に巻き付いた石柱が立っていた。

 それも半分ほどが朽ちている。

 かつてはもう少し高さがあったのだろうか。


 呆然と周囲を見渡していた。

 ほとんどが自然と一体化しているが所々に石で造られた人工物が見える。

 それはまるでかつてゲームで見た深き森に打ち捨てられた遺跡といった風景だ。  


 周囲にはうっそうと茂った木々。

 はて、困ったぞ。こんな場所に来たことはない。

 建築様式も慣れ親しんだものではない。日本では……ない?


「やれやれ、困ったものだな……」


 自嘲気味に呟く。記憶を探ろうとして気づいたのだが、肝心の記憶がない事に気がついたからだ。自分が何処の誰でどういった人間であるのかということがわからない。これが流行りの記憶喪失というやつだろうか。  


「いや、流行ってはいないかもしれないな。」


 自分でツッコミを入れた後ではたと気づく。今俺は「記憶喪失」という言葉の意味を理解していた。日本という地名も覚えている。どうやらすべての記憶が消えているというわけではないようだ。ならば残っている記憶をもとに自分の正体を探ってみよう。これらの知識をどのように習得したかを探ればそれがとっかかりになるかもしれないと思ったからだ。しかし……


「くそっ……」


 頭が割れるのではないかと思えるほどの激しい頭痛が襲ってきたのだ。手で探るが頭を怪我しているとかそういう事ではないようだ。何かが記憶が戻るのを妨げているということか。ままならないものだ。

 

 しかし嘆いても仕方がない。そういうことなら急いで思い出さない方がいいのだろう。無理や焦りは禁物である。急がば回れともいう。ならば現状、優先してすべきことは……


「周囲の状況を把握するのが先決だね。」


 呟き、方向性を定めたので改めて朽ちた遺跡を見渡す。地面には所々に石畳の様なものが見えていた。これは改めて見事な遺跡だと感心する。恐らく人は住んでいないだろう。もう遥か昔に打ち棄てられたという感じだ。

 とりあえずここを拠点に周囲を探索をしてみようか。そう考え踏み出そうとした瞬間。足音が聞こえてきた。


 森の中からだ。走っている。次いで荒い息遣いも聞こえる。うむ、どうやら人がいたようだ。言葉が通じるといい。ついでに優しかったら言うことはない。そう思い音のする森へ目をやる。間もなく、一人の少女が慌てた様子で遺跡エリアに飛び込んできた。少女は肩にかかる程度まで伸ばしている栗毛色の髪を揺らしていた。前髪は真ん中で半々に分かれており、顔を覗かせているおでこに玉のような汗をかきながら少女は走っていた。胸はどちらかというと洗濯板のような感じで顔つきからは幼さを感じさせる。年の頃は……15くらいだろうか。しかし参ったな。ちょっと外国人っぽい雰囲気ではないか。語学力に自信はないぞ。


 そんな事を考えていると少女は俺に気づきハッと足を止める。表情は恐怖に引きつっていた。


「えっ、ちょ、ちょっとお兄さん!」


「……ん?」


 周りを見渡すが俺と少女以外は誰もいない。「お兄さん」というのは俺のことらしい。そしておやおや、日本語じゃないか。いやはや人を見た目で判断してはいけないな。実に見事な発音だ。


「何やってるのさ!早く逃げないとあいつら来ちゃうよ!!」


 少女はその「あいつ」とやらに心底おびえている様子だ。どうも危険な存在らしい。クマにでも追いかけられているのだろうか。だがそれなら背を向けて逃げるのは得策とは言えない。ああいう生物は逃げると追いかけてくるのだ。


「あいつ?一体何が来るっていう……だ?」


 そこで、気づく。少女を追いかけてくる「やつ」に。それは体長1mほどの四足歩行動物だった。犬などに似た姿をしているが明らかに違う、異常な点があった。

毛はほとんどなく、筋肉がむき出しになっておりついでに言えば骨もところどころで露出しているのがわかる。眼球らしきものは顔面にある大きな空洞内に光る紫色の光だった。


「何だ。あんな犬見たことないな。外来種か?いや、何かの病気に……もしや狂犬病?」


 狂犬病だとしたら噛まれでもしたら一大事だ。一定時間以内にワクチンを打たなければ死に至る恐ろしい病気だ。この辺にワクチンを打てる病院があればいいが無いなら絶対噛まれるのは避けるべきだ。


「何言ってんのさ、あれはモンスターだよ!?」


「モンスター?うむ……ああ、確かにモンスターだね。」


 何だ、モンスターか。ゲームでよく見たことがあるなぁ。モンスターかぁ……そうだな、確かにあの見た目はモンスターそのものだな。うん、何故気が付かなかったのだろう。そう、モンスター…………


「はい!?モンスターだって!?」


「あれはコープスウルフだよ。この辺には生息してないし軽く見積もっても中級クラスの強さはあるんだよ。あんなのと戦ったら瞬殺されちゃうよ。」


 ちょっと新規の情報量が多くて思考が追い付かない。コープスウルフというモンスターは俺を警戒しながらじりじりと迫ってきている。否、警戒というより新しい獲物を品定めしているのだろう。


「随分とエキサイティングな展開だな。待てよ。ここは俺が住んでいたところとはいろいろな環境が大きくかけ離れている。もしや…」


 思い当たる節がある。これはいわゆる異世界転生というやつではなかろうか。俺はかつて日本のコンクリートジャングルで生活していたはずだが今やリアルジャングルで中級モンスターとやらに襲われようとしている。間違いない。この状況を説明できる解はひとつ。俺は巷で流行りの異世界に転生している。 それもRPGみたいにモンスターがいるファンタジー世界だ。


「そうか、俺は死んでしまったということか。うん…」


「え、何。あきらめモード全開!?あぁ、もうだめだ。完全に逃げ遅れたよ!モンスターが、モンスターが来るぅぅぅ!!おかぁさぁぁんっ!!」


 少女が叫ぶ中、コープスウルフは咆哮を挙げながら地を蹴り飛びかかってきた。視認と同時だった。俺の体が動き出す。振り返りつつ軸をずらしコープスウルフの顎に拳を叩き込んだのだ。


「えぇぇぇぇっ!?殴ったぁぁ!!!」


 さっきからにぎやかな娘だな。元気でよろしい。いやまあ、この光景には俺も少し驚いている。自分で言うのもあれだが見事なカウンターだった。もしや俺は武道の達人だったのか?一撃を喰らい地面に叩きつけられたコープスウルフは大きく痙攣しやがて動かなくなった。

 

やってしまった。何ということだ、異世界に転生していきなり生き物を殺してしまうなんて……


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