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第12話 お姫様抱っことリゼットの秘密

 アスコーナ森林西エリア。

 万能薬草コンロン草を求め足を踏み入れた俺達3人だったがそこは予想以上の悪路だった。

 まず他のエリアと違い岩山が多い。高低差も激しく登って降りてを繰り返す。

 更にエリア内には軽い湿地帯もあり足元がぬかるんでいる場所も多く全体的に足元が悪いのだ。

 RPGとかだと序盤からは入れはするが探索がやや面倒なエリアといった感じだろうか。


「とりあえず深部までは半分ってところかな?」


 岩山を登りながらリゼットは軽く息を吐く。やはり伊達に1等初級冒険者を名乗ってはいない。

 ある程度の悪路も気にすることなく進んでいる。

 まあ、湿地帯のぬかるみなどは少し嫌がっていた節があるが女の子だし仕方がないだろう。

 問題はアンジェラだ。


「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと休憩を……」

 

 四つん這いになり息を整えようと必死な様子だ。

 リゼットとの体力差は明らかであった。

 しかも悪い事に先ほどつまづいて軽く足首をひねっている。

 彼女に同行したのは正解だった。一人で行かせていれば間違いなく遭難していただろう。


「アンジェラ、やっぱり無理なんじゃ……」


 リゼットが心配そうにアンジェラの顔を覗き込む。


「あたしが……うぇっぷ、あたしがお母さんを助けなきゃ」


 いや、もう半分吐きそうだぞ。


「意気込むのはいいがその様子じゃコンロン草を見つけても帰るのもまた一苦労だぞ」


「仕方ないよ。アンジェラの得意分野は魔法なんだ。あんまり体力は必要ない職種なんだ」


 なるほど、魔法使いというやつか。

 時々ムキムキな魔法使いと言うのも見るが大体は非力なイメージだ。

 彼女が体力に自信がないというのも納得は出来る。


「ところで魔法というのは……どういうものなんだ?リゼットが魔道具で収納魔法を使っているのは見たことがあるが。」


「はい。えっとまずは……」


 息を整えたアンジェラが右の人差し指につけた指輪をこする。

 すると指輪の形が変化しアンジェラの手に杖が現れた。


「これはあたしのランクC魔道具"ヴォジャノーイ"です。水の魔法操作を補助してくれる能力があります。簡単な水操作くらいなら杖なしでできるんだけど攻撃魔法とかとなると補助がいるんです」


 なるほど、典型的な魔法使いということか。


「魔法は理学という学問をもとに自分の中にある魔力を使い様々な現象を起こします。例えば……はぁっ!」


 アンジェラの前に小さな水の塊が現れる。

 数瞬の後、水の塊が射出され岩山に小さな傷をつける。

 凄い!本当に魔法だ。しかも詠唱破棄みたいなこともしたぞ。

 俺は思わず拍手をしていた。


「ねぇリゼット、今話してて気づいたけどこの人ってもしかして理学自体知らなかったりする?」


「まあ、色々事情があってね。色んな事で初心者」


「え、じゃあその、あっちの方もリゼットが初めてだった!?」


「あのさ、何度も言うけどお兄さんとはそういう関係じゃないからね」


「あ、そうなんだ。じゃ、じゃあもしかしてあの人そっち系なのかな……それはそれで燃えるわぁ」


 何やら話が脱線してアンジェラが1人で盛り上がっているな。

 え、そっち系ってもしかして男と男とかそういう?

 この世界でもそう言う需要あるのか?


「だってさぁ、普通こんなかわいい子とひとつ屋根の下になったらそりゃ……襲うでしょ?」


「うぇっ!?お、襲う!!?お、お兄さん。普通は襲うものなの!?」


 襲わない。据え膳食わぬは男の恥などいうがこの場合、普通に犯罪だ。

 ていうかテンパってる姿、本当にかわいいな。


「すまんが俺は折角住まわせてもらっている恩人を襲うような野獣ではないぞ。」


 いや、まあリゼットは可愛いと思う。

 後とてもいい尻をしている。

 さぞ撫で心地がいいだろう。

 だが物事には順序があるものだ。

 それに恐らく俺はそういうスタート地点にすら立ててない存在だと思っている。

 何故だろうか、それが俺の中での認識というものだ。


「そ、そうだよ。お兄さんは紳士だから。ちょっと、頭のねじが外れているかもってところはあるけど……」


「外れてるの!?」


「そうなのか?俺は自分を至って常識人だと思うが」


「常識人はクマと友情を育まないからね」


 だっていい筋肉だったんだよあのクマ。

 拳を交えるとそいつの事がよく理解できる。

 あいつはいいクマだ。


「何か色々ぶっ飛んだ人だよね。よくよく見たら息も全然上がってないし……」


「そうだね。体力お化けだと思う。あ、褒め言葉だよ。」


 褒められている気がしないぞ。

 ふと、リゼットが何かを思いつく。


「そうだお兄さん、アンジェラを抱えて歩けたりしないかな」


「リゼット!?」

 

 アンジェラが顔を真っ赤にして声を上げる。


「いや、だってお兄さん何か身体鍛えるの好きそうだし」


 君も大概頭のねじが飛んでいると思うよ。

 この岩山でそんなことをよく考えつくものだ。

 とは言え、確かにそれが可能なら移動時間は短縮できるかもしれない。


「どれどれ、ちょっと失礼」


「え、え?えぇぇぇっ!?」


 試しにアンジェラを抱きかかえてみた。

 いわゆるお姫様抱っこという形だ。

 程よい負荷も掛かっている。


「うむ。問題なくいけるんじゃないかな。」


 何事もやってみるものだね。

 アンジェラはと言うと顔を伏せごにょごにょと何かつぶやいている。


「リゼット、これで行けそうなのだが……」

 

 リゼットの方を見ると何故か気に入らないといった表情でふてくされていた。

 言い出したの君だよ?

 

「リゼットさん。どうかしました?」


「……別に。」


 女の子はよくわからない。

 本当は肩に担ごうと思っていたがそれだと尻とか尻とか尻を触ることになってしまい失礼と思ってこうしたわけだ。

 アンジェラも中々の尻なので俺としては担ぐ方が好ましいのだがな。


「はい、それじゃあこっちだからね。ついて来て。」


 リゼットは休憩を終了し岩山を登り出す。

 しかも結構なペースだ。


「あ、待ってくれ。アンジェラ、それじゃあちょっと揺れるかもしれんが動き出すぞ。」


 アンジェラは顔を伏せたままコクコク頷く。

 それほど足首が痛いのか。

 俺はアンジェラをいたわるように衝撃がかからないよう岩山を飛びながらリゼットを追いかけた。

 なるほど、これいい鍛錬になるぞ。流石リゼット、ナイスアイデアだ。

 岩山を上っている最中ヒヒっぽい、バオ・ブーンとかいう下級モンスターの群れが襲ってきたがとりあえず軽く蹴り飛ばしておいた。

 リゼットもナイフを使い、牙を斬り落としたりしていた。

 どうもバオ・ブーンは牙を折られたりすると戦意を喪失して逃げるらしい。

 その牙もしばらくすると新しく生えるのでむやみに殺さず撃退するにはちょうどいいということをアンジェラから聞いた。


「まあ、あたしにはリゼットみたいなマネはできないですけど……」


 確かに、リゼットの動きには無駄がなく最小限の動きでバオ・ブーンの牙を斬り落としていた。

 歯というのは体の中でも相当硬い部位なのだがどうやらリゼットは根元の肉から斬り落としているようだ。聞かなければよかった。


 そんな事を考えていると一匹のバオ・ブーンが一気に接近して来る。

 俺は両脚をバオ・ブーンの首に絡めると回転。


「いやぁぁぁぁっ!?」


 岩に叩きつける。

 しまった、アンジェラを抱っこしていたことを忘れていた。


「す、すまん……」


「あははは、世界が、世界が回転したぁ……こんなの、初めて……」


 何だか少し楽しそうでもある。

 だが先ほどのムーブを見てバオ・ブーン達も『こいつやべぇ』と思ったのだろう。

 群れはあっという間に引き上げていった。

 うん、結果オーライという奴かも。

 


 そうして岩山を超え、辺りが木に囲まれ薄暗くなってきた辺りで、ようやくリゼットが足を止めた。

 1時間くらい休憩なしでフルスピードだったが彼女も大概体力お化けだと思う。


「二人ともついたよ。この辺りが西側エリア深部だよ。」

  

◇リゼット視点◇


 アンジェラのお母さんのことはずっと気になっていた。

 でもボクひとりではコンロン草を採って帰れる自信が無かったんだ。


 体力はそれなりに自信はあった。あの辺の初級モンスターも予習を重ねているから問題なく対処できる。

 でも何が起きるかわからない。絶対に見つけられる自信が無かった。

 だから後回しになっていた。


 お兄さんと出会う『その日』がずっと気になっていたのもあるから。

 だけど、その代償か、これは罰なのかもしれない。


 ボクには時々『未来が視えてしまう』。自分の意志に関係なく、唐突にだ。

 未来は視えてしまった段階で『確定』してしまう。

 ボクはそれを『運命』と受け入れている。

 たとえそれが嫌な未来だったとしても、何をしたとしても結果は変わらない。


 その未来がいつ訪れるかは正確にはわからない。

 お兄さんとの出会いもいつになるかはわからなかった

 ただ、その時が近づけば近づくほど感覚がそれを訴える。


 小さい頃からそうだった。とても特異な力だった。

 その力ゆえにボクはある未来を視てしまいそこから『逃げた』。

 ただひとり、大きな事から逃げて逃げて、逃げ続けあの街へ来た。

 そこで、彼女に出会った。


 同じくらいの年で、彼女は明るく、ボクに色々世話を焼いてくれた。

 おかげで少しずつ、街に馴染めるようになった。

 アンジェラはボクにとって大切な友達だ。

 だから、お兄さんと出会うことが出来たならボクはすぐにコンロン草を採りに行こうと思っていた。


 現に数日以内にはアンジェラの依頼を受けて出発するつもりだった。

 それなのに何でよりによって……『視えて』しまったんだろう。

 感覚が伝えている。あの未来は間違いなく今日起こる。


 アンジェラは今日、コンロン草を採りに森へ入り……そこで命を落としてしまう。

 それが『運命』。たとえアンジェラを止めて代わりに依頼を受けたとしても何らかの要因でアンジェラは森に入り死ぬ。


 決して抗うことのできない死の運命。

 これはボクへの罰だろう。色々な事から逃げてきたから。

 お兄さんの事だって騙している。あの出会いは偶然じゃない。

 未来が視えたんだ。

 そしてこれは遠い未来。お兄さんがボクが逃げてきた問題を解決してくれる。

 だから、ボクは昨日、遺跡へ急いだ。


 まあ、コープスウルフに追いかけられたのは完全に想定外だったけど。

 そういうわけでお兄さんに出会うことができた。

 その代り、ボクは今日、大切な友達を喪うことになる。

 せめて、アンジェラの最期の願いはかなえてあげたい。お母さんを助けてあげたい。

 それがボクにとってせめてもの罪滅ぼしになるから。

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