表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/112

第97話 最後の記憶

遂に始めてしまいました、最終章。

いきなりハードモードです。

 暗闇の中、声がする。

 懐かしくて、それであって身が凍るような声。


『……………………。……ま……な……れ…………か……………よね』


 俺はこの声を知っている。

 誰だ?

 俺はこの人を知っている?

 誰だ?




 気づけば薄暗い部屋の天井が見えた。


「お兄さん、どうしたの?」


 声に気づきとなりを見ると心配そうな表情をこちらに向ける愛しき女性が寄り添うように隣で横になっていた。


「リゼット……」


 そうか、今日はリゼットと過ごす日だった。

 つまりここはリゼットの寝室。


「うなされていたよ?怖い夢でも見たの?」


「ははっ、そんな歳じゃあないよ。ごめんな。起こしてしまったようだな」


「別にいいけど……何だかすごく辛そうだったよ?」


 辛そうだった、か。


「ははっ、夕食が美味しくて食べ過ぎてしまったのかな」


 無理やり誤魔化そうとするがリゼットの表情は変わらない。


「……実は俺も良くはわからないんだ。最近変な夢を見る。誰かが何を言っているがよく聞こえないんだ。不思議だね」


 いや、実は少しずつ聞こえる部分が増えている。

 恐らくは未だに戻っていない記憶だろう。

 これまでの記憶は急に雪崩の様に思い出していたりしたのに対しこの記憶は少しずつ戻っていくもののようだ。


 まだ戻っていない俺の記憶。

 実は思い当たる節はある。

 今まで気づかなかった。

 否、無意識に気づこうとしなかった記憶がある。

 だが……


「うぇはっ!お、お兄さん!?」


 俺はリゼットを抱きしめると頭をくしゃくしゃと撫でる。


「大丈夫、ちょっと疲れているだけさ。おやすみな、リゼット」


「う、うん……おやすみなさい……」


 そうやって俺は『気づかないふり』を続ける。

 そうやって時間は過ぎていく。

 出来ればこの最後のピースがはまらない事を祈りながら……



 だが、それはある日突然来た。

 ユーゴとティニアと共にクエストを終え帰還した俺を3人が待っていた。

 それ自体は普通の光景なのだが妙に緊張した面持ちだった

 そして、それは告げられた。


「あのね、最近調子悪いなって思ってみんなで病院に行ったんだけれど、その、『おめでた』ですって」


 おめでた……つまりはアンジェラが妊娠した。

 確かに一番長い付き合いになるしそろそろとは思っていたが遂にこの日が来たか。


「実はですね、私も『おめでた』と言われました」


 メイシーがはにかみながら報告して来た。

 まさかの二人同時!?

 言われてみればメイシーは特に積極的な所があったからな。

 こちらが押し倒されるという事も多々あったと思う。


「うぇへへっ、お兄さん実はね」


 リゼットが何やらにやにやしている。

 これは、この流れで行くと……いやまさかな。

 だってそうだろ?3人同時だぜ?

 もしそうなら俺はどれだけ計画性の無い男なのだという事だ。

 最終的には全員との間に子どもを作る気だ。

 だがゲームのハーレムエンドの如き展開など、頭の悪い男の所業としか思えない。


「あのね、ボクもおめでただったよ」


 すいませんでした。

 完全に計画性ゼロ、頭の悪い男でした。

 そう言えば何か月か前にすっごくハッスルしたことがあったなぁ……あれかな?


 いや、それにしたってこう重ならない様に気を付けていたんだがなぁ。

 本当に俺ってやれば出来る男なんだなぁと寒い冗談が思いついてしまう。

 念のために言っておくがハーレムエンドを迎える男をディスっているわけじゃあない。

 でもさ、こう色々あるわけじゃん。

 少しずつ年の離れた子ども達とか色々楽しみがな?

 それが一気にに来ちゃったわけだよ。



「それで、あたし達に何か言う事はある?」


 アンジェラの言葉に俺は大きく深呼吸をして……


「アン、メイ、リズ……その、あ、ありがとう!!」


「うぇ!?」


「あら、意外な言葉でしたね。私は『でかした』と思っていましたが」


「ボクは『マジか!?』にかけていたんだけどなぁ……」


「あたしは『うぉぉぉ』って叫ぶって確信してたんだけどなぁ」


 いや、何をかけてるんだよ。


「っていうかナナシさん泣いてない!?え、ちょっと不謹慎なことしちゃった!?」


 気づけば頬を伝っているものがあった。


「いや、もう何かうまく言えなくて……その、ははっ、そうかぁ」


 3人が俺の子どもを。

 俺がこの異世界で出会った愛する女性たちが俺の。

 やばい、さらに涙があふれて来た。

 俺が父親に……俺の、家族。

 

 だが……俺は気づく。

 涙をぬぐった後の景色。

 愛する人たちの後ろに女性が立っていることに。

 

「う、嘘だろ……」


「あなた?」


 俺はこの女性を知っている。


『良哉……』


 女性が俺の名を呼ぶ。

 その声を聞くと恐怖が蘇ってくる。

 待て待てこれは幻だ。本当にそこにいるわけじゃあない

 俺の記憶の中にある幻に過ぎないんだ。


『悲しむことも笑う事も、世間は私達を許さない』


 止めてくれ。

 何でこんな時に出てくるんだ。

 これから、これからもっと……


『ただ下を向いて生きていくのが私達に与えられた義務なのよ』


 思い出したくない。

 この記憶だけはダメなんだ。


「お兄さん、急にどうしたの?」


「アンジェラ、ナナシさんの様子がおかしいですよ。これって……」


「まずい。この展開は記憶が戻る時のだ……」


 ああ、ダメだ。

 心配させちゃあダメだ。

 俺が守って行くんだ。

 愛する女性たちとその子どもを。

 俺は父親として……


「大丈夫、大丈夫だって。ちょっと驚きすぎてさ。ははっ、これはにぎやかになるなぁ」


『どうあがいてもダメなの。私達に幸せは許されない』


 違う。

 そんなわけがない。

 大切な人が言ってくれた。

 だから、俺にだって幸せになる権利があるんだ。


『……………………。……ま……なけれ……よか…………のよね』


 夢にも出てくる言葉が明瞭になってくる。


「ダメだ。止めてくれ……」


 もう半分以上蘇ってきた。

 何でなんだ。

 何で邪魔をする。

 この記憶だけは、思い出しちゃあいけなかったんだ。


「リゼット!メイシー!手加減なしでいいからぶん殴ってでも気絶させるよ!!」


「うぇぇ!?」


「え!?でも」


 アンジェラの言葉に戸惑いを隠せない二人。

 ごめん、とアンジェラが杖を構える。

 だが直後、開けてはいけなかったパンドラの箱が開いてしまった。


『……………………。生まれなければよかったのよね』


 俺の記憶の最奥に突き刺さっていた刃が抜けてしまった。

 恐るべき記憶が、壊れた噴水の如く吹きだしてきた。

 首に感じる痛み、そして苦しみ。


「母さん……」


 一言呟き、俺の視界は暗転した。


読んでくださってありがとうございます。

面白い、続きが読みたいと思った方は是非、評価とブクマをよろしくです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ