第96話 母との再会
リゼットです。
お兄さんと結婚して半年ほどが経ちました。
さて今回は……
――ベリアーノ市第4区・冒険者ギルド――
今日はアンジェラ、ユーゴ、ティニアと共にクエストを行い、帰還した。
「ティニアの魔力操作、中々だったわね。特にあの雷の鞭は興味深い創作魔法だったわ」
「お姉さまの水魔法だって見ててすごく勉強になります!!」
ティニアはアンジェラを『お姉さま』と慕っている。
二人共魔法の探究者的なところがあるので話が弾むらしい。
一方のユーゴは……
「俺、ゲームみたいにスキルを習得していけば強くなれると思ってましたがここ数か月は本当に驚きの連続です。モンスターにパワーボムって……」
俺の戦闘スタイルにかなり衝撃を受けておりカルチャーショックの連続らしい。
まあ、確かに剣と魔法の世界でプロレス技だからな。
だが今思えば俺の能力って十分にチートだとは思う。
まあ、細かい能力がどうとかではなくシンプルにウルトラなパワーで戦っているだけだ。
ある意味頭は悪い方に分類されるのかもしれない。
というわけで作戦は基本アンジェラに任せている。
まあ、6割くらいは俺が突撃するので台無しらしいが……何というかごめんな。
「どうも俺、元の世界でプロレスとか好きだったらしい」
「『らしい』って……まだ記憶は完全に戻っていないって事ですか?」
ああ、と俺は頷く。
転生に至った経緯は大体思い出せた。まあ、9割イシダのせいだ。
あいつの悪事を暴き追い詰めた俺は腹を刺され抉られた。
その後、奴が施設に放った火事で焼け死んで転生した様だ。
ただ、何で俺の魂が北條刑事と魂が融合したのか。
そしてアンジェラの話によるとどうも俺の中にはもうひとり居るらしいがそれだ誰なのかはわからない。
まあ、大体の想像はついているのだが何故そうなったかがわからないわけだ。
他に思い出せていないことと言えば……家族の事。
父親が人を死なせてしまい、母と共に世間の冷たい視線から隠れる様に暮らしていた。
ただ……その後、母がどうなったかが思い出せない。
転生時、俺は一人暮らしをしていた。つまりは母親と離れていた。
では母は何を?
わからない。
思い出そうとすると強烈な痛みが襲ってくるのだ。
これは『思い出すな』という事なのだろうか?
俺と母の間に何が……?
「あれ?もしかしてアンジェラかい?」
不意に声を掛けられ振り向くと……
「お母さん!?」
そこに立っていたのは体格の良い中年の女性。
そう、彼女はアンジェラの母親。
名はレム・ライラ。
アンジェラに今は失われた『魔法の絨毯』の魔道具を見せに行った時に出会った。
あの時はアンジェラが気絶してしまい驚いたものだ。
ライラさんはアンジェラに駆け寄ると手を取り喜びの表情を見せた。
「いやぁ、あんたどこかで旅をしているとは思ったけどこんな所で出会うとはねぇ。しかも……」
彼女は俺の方を見ると含みのある笑みをして……
「今もあの人と一緒なんだねぇ。で、どうだい。ベッドインしたのかい?」
「うん、した」
「なっ!!?」
ちょっと娘をからかうつもりで言ったのだろう。
意外な返答にライラさんは口を大きく開け驚きの表情を見せた。
いや、俺も驚いているよ。
どちらかというとアンジェラってそういう事はぼかしたがるタイプなのだがな……
「ていうか、ほらこれ……」
アンジェラは指にはめられた指輪を母親に示す。
「え?え?それって」
俺と娘を何度も交互に見て……
「む、娘が結婚してたぁぁぁ!!?」
盛大なパニックののち、ライラさんは白目を剥いて気を失った。
うわぁ、この光景……アンジェラも同じような事したなぁ。
――ベリアーノ市・第3区レム屋敷――
◇アンジェラ視点◇
数時間後、意識を取り戻した母を連れあたし達は帰宅した、
更なるパニックを防ぐため予めリゼットとメイシーについては伝えてある。
お母さんはかつての仲間とお父さんを取り合ったらしいがあたし達は手を取り合う道を選んだ。
その事についてはすんなり受け入れてくれた。
まあ、あたしが提案したことだというのもあるし。
これでナナシさんの気が多かったりした末の多重婚なら修羅場だったかもしれない。
「はい、どうぞ」
リゼットがお茶を出す。
「いやぁ、そうかい。リゼットちゃんともねぇ。まあ、リゼットちゃんも彼に気があると思ってはいたけれど……そうかい。あんたが勝ったんだね」
「うぇへへっ、アンジェラが勝ってなきゃこの形の家族は無かったと思うよ」
「それに、もうひとりの子はミアガラッハのお嬢さんだね」
おや、メイシーの名前は出したけれどミアガラッハについては伝えてないはず。
「私をご存じなのですか?」
「昔はよくミアガラッハ卿からの依頼を受けて色々したものでね。その関係で娘さんにもよく会っていたよ。時々あんたを預けたりもしていたしね」
あれ?
「え、あたしとメイシーって知り合いだったの!?」
メイシーを見ると鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「メイシーちゃん、アンジェラを妹みたいに可愛がってくれててね」
「妹みたいに……妹……妹……ああっ!?」
何かを思い出した様だ。
「え、何なの?」
「いえ、実は以前父には妻が3人居たと話をしたことがありましたよね?それで父の浮気が原因で2人は妹達を連れて出て行ってしまった、と。それなのですが最近エミィと話していて妙な事があったんです。確かに妹は二人いたはずだけれどエミィによると私達は二人姉妹だ、と」
何それ、怪談?
いや、違うか。これってもしかして。
「しかも父の妻は実際は2人だった、と言うのですよ。どういう事か、これは怪談の類かと思っていたのですが……」
「もしかしてメイが妹のひとりだと思っていたのって預けられていたアンじゃないのか?」
やっぱりそういう結論よね。
「なるほどね。そしてメイシーがもうひとりの母だと思っていたのは……」
あたしは母の方を見る。
「あー、そう言えばミアガラッハ卿の依頼を受けに行く時はってお父さんは置いて行ったからったねぇ。あの二人、幼馴染だったけどよく口げんかしてさ、話が進まないんだよ」
あー、こっちも何か思い出してきた。
小さい頃、両親が冒険者の仕事をしている時に預けられた先でよく遊んだ友達が居た。
ある時から全く会わなくなり、その辺りから両親は雑貨店を営みだしたと思う。
「あの子がメイシーだったのかぁ……意外だわ」
3人の中ではあたしが一番年下でメイシーとは3歳離れている。
そうだそうだ。年上の友達で「お姉ちゃん」って慕ってた。
「そうだったのですね。そうか、あの子がアンジェラだったのですね……ふふっ、何だか運命を感じてしまいますね」
確かに運命っぽい。
あっ、そう言えば……
「そうだ、お母さんに伝えておかないといけないことがあった。レイナ伯母さんの事」
「姉さんの!?もしかして生きていた!?」
「うーん、それなんだけどね……」
あたしはレイナ伯母さんについてお母さんに説明をした。
伯母さんは異世界、ナナシさんが居た世界へと飛ばされそこで出会った男性と結婚したこと。
その男性との間に子供も生まれたが最終的には悪い人たちによって殺されてしまった事。
そしてその男性がナナシさんの恩人であり彼を生かすために魂を融合させた事。
「何だか信じがたい話だよ……姉さんが……」
「俺は生前の玲奈さんにお会いしたことがあります。とても優しい人でよくお世話になりました。一度、遠い故郷で生き別れになった妹さんの話を聞かせていただいたことがあります。イノシシに追われて妹さんを庇った際に右肩に大きな傷を作った、と言っていました」
「……確かにそうだよ。あたしがうっかりダーティボアの縄張りに入ってしまってね。姉さんはあたしを庇って肩に大けがをした」
「でも、それは大事な家族を守れた自分の誇りの証明だって」
母は目を伏せ小さくすすり泣く。
「ああ、いっつもそう言ってたよ……そうか、姉さんはもう……だけど、異世界で幸せだったんだね……それにその姉さんが面倒を見てあげた人が今度は娘の大事な人に……」
運命、とは正にこの事かもしれない。
しんみりした空気の中、母は立ち上がりナナシさんの手を取る。
「ウチの子、料理の腕はどうしようもないけどいい子なんだ。これからもよろしく頼むよ」
「勿論です。娘さんのおかげで俺は本当に救われています」
「あの、お母さん。『料理の腕がどうしようもない』てどういう事?」
時々厨房に立っていますけど?
まあ、すぐに誰かが手伝いに入っては来るけれど……
「アンジェラ、とりあえず気にしないでいいから。料理の方はボク達がサポートするから」
リゼットが肩をたたき頷く。
え、何これ?
「さて、娘の事をお願いしたところであんたに相談だがね」
お母さんの声色が急に変わる。
これは、何かを企んでいる時のものだ。
「孫の顔っていつ頃になったら見られるかねl?」
「ちょっ、お、お母さん!!」
「えーと、恐らく近日中にはご期待に沿えるかと……」
「楽しみにしてるよ!!」
そしてお母さんはリゼットとメイシーの方を向き。
「あんた達も頑張りな。レムの家に入ってもらった以上、あんた達も大事な娘だからね。これは楽しくなりそうだね。いいかい、『やれば出来る』だからね。そうだ、精がつく料理のレシピを教えてあげるよ。これは旦那にたっぷり食べさせてやりな」
「お母さんっ!!」
ナナシさんも苦笑している。
だけど、良かった。
お母さんに幸せになった事の報告を出来て。
伯母さんの事を伝えられて。
まだ見えてなかった絆を知ることが出来て。
この家族をお母さんが受け入れてくれて。
「あの、ところで何であたしじゃなくリゼットとメイシーにてレシピを教えているのよ?ちょっと!」
「大丈夫ですよ、アンジェラ。お姉さんがきちんと聞いておきますから」
「急にお姉さん面するなぁ!!」
あたしの大切な、大好きな家族。
これからもずっとこうして……
でもこの時あたし達は気づいていなかった。
彼の中で密かに進行していたある変化に。
開こうとしていたパンドラの箱の存在に……
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