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第94話 娘として生まれて来る為に(後編)

◇リリィ視点◇


 赤ん坊は生まれた時の事を記憶しているが成長と共に忘れていくという。


『本当にボクが名付け親になってもいいの?』


 走りながら脳内に甦るのは生まれた時、まだ目が良く見えない時に聞こえてきた声。

 これは……リズママの声。


『はい。あなたにつけて欲しいです、リゼットさん』


『わかった。それじゃあ……この子は、この子の名前はリリアーナ。家族のを大切にする美しい花の名前』


 イリス王国には高山にのみに咲くリリエンタールという花がある。

 その花言葉は『家族の絆』。

 それが私の名前の由来……


「見えたよ、リリィ。ちょっ……あれって」


 街中で暴れているモンスターを見て私は思わず舌打ちをした。


「ちょっとあれってレギンレイズじゃない!?」


 レギンレイズ。

 2足歩行の小型ドラゴンで体長は3m弱。

 サメの様な頭部、鋭い刃となっている尻尾。

 紛うことなき上級モンスターだ。

 かなりの手練れが数人がかりで立ち向かわねばならぬ相手。

 何より個体により特徴の違いが激しい。

 こんな奴が街中で暴れたらそれこそ甚大な被害が出かねない。

 私達も今まで1体しか倒したことが無い。


「面倒すぎるけれど……文句は言ってはいられないわね。錬成!」


 魔力を練り上げ身の丈と同じほどのウォーハンマーを錬成する。

 私の職業は実質専用となっているスターアルケミー。

 父様の特性を受け継いだせいか私もまたギルドの人が登録職業に困ったクチだ。

 魔力を練る事であらゆる武器を錬成することが出来る。

 ただし、武器の性能に関してはCランク程度になる。


「ケイトッ!!」


 ケイトが私の作ったウォーハンマーを手に取る。

 普通に考えれば女性が扱える代物ではない。

 だが……


「筋肉魔法、筋力剛大(バルカルタ)!!」


 ケイトの筋肉がみるみると肥大していく。

 彼女は筋肉魔法の使い手……というわけではない。

 いや、使い手ではあるのだがそれが基本スタイルではない。

 ケイトが目指したのは母親と同じ魔法使い。

 だけど属性適性を調べた時、驚愕の事実が分かった。

 属性適性オールX。

 つまり、どの基本属性にも適していないということである。

 父様が武器適性オールXなのとよく似ている。変なところが遺伝してしまったのだ。

 その代わり、ケイトは他の様々なサブ属性を使いこなすことが出来る。

 筋肉魔法もそのひとつ。

 ケイトは軽々とウォーハンマーを担ぐとレギンレイズ目掛け疾走し……


「潰れなさいっ!!」


 その腹部にウォーハンマーを叩きつけた。


「ギィシャヤヤア!!」


 咆哮を上げながらレギンレイズが後退する。

 ケイトが殴った個所を黙視するが軽いヒビこそ入ってはいるがそこまで大したダメージは見受けられない。


「ダメだわ。こいつ、硬すぎる!防御特化型ね」


「殴り続けていれば壊れると思うけどね」


「その前にあたしの腕がイカれるわよ!」


 ごもっとも。

 いくら筋肉魔法で強化しているケイトでもあれを殴り続ければ自分がケガするだろう。


「リリィ、合体技(ツープラトン)で防御を削るわよ!」


「了解!レムシスターズの力を見せたるわよ!」


 合体技(ツープラトン)

 心が通じ合わせたパートナー同士が放つことが出来る技。

 私とケイトは未来ではちょっと名の知れた合体技(ツープラトン)使いだったりする。


「強酸魔法、魔酸(ルステラ)!!」


 魔力で作り出した酸の塊がケイトの前に現れる。


「風魔法、風旋破(ヴィル・ボレア)!!」


 その酸を私が唱えた風魔法で巻き込んだ強酸の嵐が敵目掛け叩きつけられる。


「「ルストブルゥゥゥム!!」」


 レム家家訓『技名は叫べ』。

 まあ、これは父様の癖らしいけれど……


「ギィシャヤヤア!?」


 酸の嵐がレギンレイズの強固な竜鱗を溶かし防御能力を削っていく。

 弱いモンスターならこれで溶けて消えてしまう威力だ。


「リリィ!」


「わかってる!」


 私はケイトと共に飛び上がり同時にドロップキックをレギンレイズの腹部に叩き込んだ。

 酸は数秒で無効化されるので私達が振れても問題はない。

 防御力が低下したレギンレイズがダメージを受け地面を転がる。

 ケイトはうつ伏せになっているレギンレイズにフェイスロックをかけ体重を後ろにかけ身体をそらした。


「お、おい。あの子モンスターに関節技を掛けているぞ」


「頭がおかしいけど凄くないか!?」


 何だか外野が煩い。

 まあ、今はそんな事は気にしないでおこう。

 私はフェイスロックで苦しむモンスターの顔面に足の裏でしっかりと蹴りを叩き込んだ


「マジかよ。あそこで蹴りを叩き込みやがった。もうひとりもかなり頭おかしいぜ」


「俺も蹴られてぇ」


 またしても外野が煩くて……


「ああもう、誰が『頭おかしい』よ!?っていうか変な言葉も聞こえたんだけど!?」


 思わず外野を怒鳴りつけた。

 そうしているとモンスターが力づくでケイトを振りほどき体勢を立て直す。

 そして口の部分に魔法陣が発生。

 火炎矢(フラーロ)が3発連続で発射される。

 レギンレイズは魔法を扱う事の出来るモンスターでしかも個体により使ってくる属性が違う。

 こいつの使う属性は『火』の様だ。


「錬成!」


 私は盾を錬成しケイトの前に飛ばし攻撃を防ぐ。


「こいつ、しぶとい!」


 そこで気づく。

 建物の屋根を蹴り空中で華麗な回転を決めてこちらに飛んでくる男の人を。

 彼はそのまま自由落下と共にレギンレイズの顔面に膝蹴りを叩き込む。

 そう、この人は……


「父様!」


「父さん!」


 私達の父、レム・ナナシは着地するとゆっくりこちらを向き……


「え?父さん?」


 あっ、そうか。

 この人も私達に関する記憶が無くなっているのか。


「何でもないです。このモンスターを倒すのを手伝ってくれますか?」


 流石はケイト。

 すぐに状況を察して父様に共闘を依頼している。


「当然だ。こんな奴を街中で放っておくわけにはいかない!!」


 父様はそう言うとレギンレイズに飛びかかりその身体をリフトアップ。

 そして勢いよく膝へとそのボディを叩きつけダウンを奪う。


「錬成!」


 私は巨大なギロチンの刃を錬成。

 一部に穴が開いて持てるようになっている。

 ケイトはそれを拾い上げると起き上がろうとするレギンレイズ目掛け突っ込んでいき力任せに首を叩き切った。

 それでも尚、活動を止めず動こうとするレギンレイズ。

 父様は絆の鎧を身にまとうと両手を大きく広げ金色の球体を作り上げた。

 私も眼前に銀色の球体を作り上げる。


「くらえっ、ガルムレッキングゥゥゥゥゥ!フィストォォォォォォォ!!!」


「フェンリルレッキングゥゥゥ!イレイザァァァ!!!」


 金と銀の魔狼が奔流となりレギンレイズ体組織を蹂躙。

 前のめりに倒れながら暴虐の魔物はその活動を停止した。


◇ナナシ視点◇


 クエストを終えてギルドで生産中、セドリックから捕獲したモンスターが逃げ出したので何とかしてほしいという緊急クエストが出された。

 慌てて現場に駆け付けると既に少女が2人戦っていた。

 

 何だろう。

 あの二人を俺は知っている気がするのだが……

 疑問を抱きながらも俺は戦いに参戦。


 少女たちは俺を『父親』と呼んだがはて、彼女らの父親に似ているのだろうか?


「ありがとう。君達が先に来てくれていたから被害が最小限で済んだよ」


 俺の例に対し少女たちは頬を赤らめ小さくうなずく。

 何だ、この愛おしさを感じる生き物たちは。

 それにしても『父親』か。


「俺、最近結婚したばっかりなんだがな……もし子どもが生まれたら君達みたいに勇敢な子に育って欲しいと思うよ」


 すると黒髪の子がくすっと笑いながら……


「モンスターに関節技をかけるような子になるかもね」


 赤髪の少女も笑い……


「口げんかしながらも合体技(ツープラントン)撃ちまくるサポート上手な子にもなるんじゃない?」


 そう言って二人は顔を見合わせ笑い合っていた。


「ナナシさん、大丈夫ですか!?」


「……ってもう終わってるみたいだね」


「そうね。セドリックさんが緊急だっていうからすっ飛んできたけど……」


 アンジェラ、メイシー、リゼットが駆け付けて来た


「ああ、もう終わったよ。この子たちが先に駆け付けて……」


 そう言って少女達の方を向くと、すでにそこに姿は無かった。

 名前も告げずに立ち去ったのか。

 うむ。実にヒーロー然とした子たちだったな。


「まあ、何か終わった」


「雑い!」


 アンジェラに怒られた。


「ところでメイ。今日は妹さんと会うって言ってたよな」


「ええ。そうですけれどちょっと途中で予定が変わってしまったみたいです。ああ、それとあなた、ディークさんと会う約束していましたよね?」


「ああ。久しぶりに食事でもどうかなって」


「あれ、キャンセルになりました。彼も用事が出来たみたいです」


 マジか。

 折角、第3区に新しくできたクラーケン焼きでも食べに行こうって言ってたんだがなぁ……


「なあ、3人とも……クラーケン焼きって興味ないか?」



◇ケイト視点◇


――未来・ノウムベリアーノ――


 あの後、あたし達は強制的に未来へと戻された。

 リリィの腕に嵌められた宝玉は黄色から緑色に変わっていた。

 つまり、リリィの存在も安定したという事。


 あたし達は早速エミィおばさんを訪ねてみたところ見事にいとこの存在は復活していた。

 筋トレバカのデューイは上半身裸で腹筋を行っていた。

 そしてエミィおばさんの傍にはカフェテラスで悪漢を取り押さえた男、ディークさんが居た。

 

 と、ここまできて思い出したことがある。

 お父さんが昔聞かせてくれた話。

 街中で運搬中のモンスターが逃げ出す騒ぎがありその時友人を亡くした、と。

 多分それが彼だったのだろう。

 そして彼とエミィおばさんはその前段階から付き合っていたとかそういうことなのではなかろうか。

 結果としてあたし達はエミィおばさんとデューイの父親の命を救ったということかな?


「はぁーそれにしても今回はマジで焦ったわ」


「油断しちゃダメよ、リリィ。それでも歴史は大きく変わっているのだから結果として他に何かしら大きな変化があるかもしれない」


 場合によってはまた歴史を遡って修正する必要が出てくるかもしれない。

 まあ、あれって気軽に出来るものじゃあなくて結構命がけなんだけど……


「ケイトは考え過ぎよ。そんなびっくりするような事、そうそう起こってたまるもんですか」


「変なフラグを立てないでよ」


「大丈夫だって」


 笑いながら家を目指す。

 ふと、庭で土いじりをしている小さな女の子が居た。

 都市は10歳くらいだろうか。

 彼女はあたし達に気づくと立ち上がり丁寧に頭を下げる。

 何だかメイママによく似ている。


「姉様方、おかえりなさい」


 あれ?

 姉様?


「アリス姉、いってきまぁす!!」


 首を傾げていると今度は玄関の扉を開けて元気よく飛び出してきた女の子が目に入った。

 さっきの子よりは少し年上だろうか。


「あっ、姉ちゃん達お帰りなさい。あたしお使い行ってくるね。今夜はカ・レーだって」


 ニット帽にパーカー姿の少女は元気よくあたし達の脇を駆け抜けていった。

 リリィを見ると混乱した様子であたしを見ている。


「ふっふっ!おかえりなさいませ、姉上方」


 今度はくせ毛の強い少年が出迎え。


「俺の予知眼が姉上達の帰りを予見しておりました。ふふっ、怖いな。自分の実力が」


 うわ、無茶苦茶イタイ子だ。

 残念なイケメンというやつか……

 

「なーにが予知だよ。2階から姉さん達見て駆け下りて来ただけでしょ」


 少年をアリスが小突く。


「おかえりなさい、ケイト姉、リリィ姉」


 何だかアリスが少し大人びている気がするけれど……うーん。

 怖いけど聞いてみるしかないわよね?


「あ、あのねアリス。あなたに少し聞きたいことがあるのだけれど」


「んー。なぁに?」


 あたしはリリィの方を見る。

 リリィは小さくうなずき、言葉を紡ぐ。


「あのさ、ウチって何人家族だっけ?」


「ほえ?」


 アリスは一瞬首を傾げながら指折りしながら数える。


「えーと、お父さんでしょ。お母さんが3人。ケイト姉とリリィ姉、それとボク……」


 うん、ここまでは以前通りだ。


「あとはホマレとメールとリムだから……ええと10人家族だね」


 あたしとリリィは顔を見合わせ叫んだ。


「「弟と妹が増えたぁぁぁ!?」」



 極秘ミッション報告

 ・いとこであるワーズ・デューテロノミーが復活。

 ・エミィおばさんの夫・ディークさんが生存。

 ・何故か我が家に弟1名、妹2名が追加で生まれていた


読んでくださってありがとうございます。

面白い、続きが読みたいと思った方は是非、評価とブクマをよろしくです。

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