プロローグ
焦げ付いた臭いが大気に充満していた。耳にはサイレンが鳴り響くのが、そして視線の先には青空。名を知らぬ鳥が羽を広げ空を舞っていた。いや、もしかしたら本当はごくありふれた、名を知る鳥なのかもしれない。今確実に理解できること、それは俺が横たわっているということだ。
何故だ?俺は何かをしなければいけないはずだ。
そう思い身体を動かそうと力を入れる……しかし手足が動かなかった。というより全身に力が入らない。感覚というものが無い気がした。
ああ、そういうことなのか。何故、このような状況に至ったかはわからないがどうやらこれは死が近づいてきているということなのだろう。そんな俺を見下ろす複数の人影があった。
……誰だったか。思い出せない。彼ら、もしくは彼女らは口々に何かを言い合っている。残念ながら内容はわからない。耳に飛び込んでくる単語を理解出来る程に脳が働いていない。。俺をなじっているのかほめているのか、あるいは心配をしているのか。その判別すら出来ない状態であった。
やがて、抗いがたい眠気が徐々に俺の身体を蝕む。なるほど、これが「お迎えが来た」というやつだ。ただ、俺には最後の刻を迎える恐怖より「よかった……」という感情が心を満たしていた。
何が良かったのだろうか?わからない。何が起こったのだろうか。答えが出ない自問自答を繰り返しているとやがて身体が温かい光に包まれていくのを感じた。なるほど、「天に召される」というのはこういうことだろうか。まあ、そうは言ったが実のところ俺は無神論者なのだが……
どうせ終わりを迎えるというのならばと自分の人生を振り返ってみようと思ったがやはり頭の中はぐちゃぐちゃで何が何だかわからない。俺の人生というのはどういうものだったのだろう。いい人生であったにだろうか。 更に大きな眠気の波が襲ってくる。抗うのもそろそろ限界だ。
あれ、走馬燈とかなかったな。こういう時は走馬灯があるというのが相場だと聞いていたのだが……というか、本当に俺は誰だったのだろうか?そんな思いが頭の中でかけ巡りながら俺の意識は静かに掻き消えた。