第4話 ナノレン?
食事を終えたデウスは早速、噂の人物に会おうと街の人々に聞きながらなんとか空軍支部近くまでやってきた。
「さァさァ、やってまいりました!軍の支部!さてさてさーて、お目当ての人物は何処に!ってか?」
支部ではあるが、仮にも軍を、しかも軍に捕まっている人物に会いにきてるとは思えないほど緊張感のないデウスであった。
ここの軍の支部は、入り口以外は塀でぐるっと囲っているため、どこに何があるか分からない。ただ、幸いなことに、支部ということもあってなのか塀はそれほど高くはなかった。デウスは取り敢えず塀周りを誰にも見つからない様に歩き始めることにした。しばらく歩くと大きな建物とは離れて、見た感じ古臭そうな建物を発見した。近づいてみると、小さな窓に鉄格子という形で存在していた。ジャンプしては中を見る、ジャンプをしては中を見る、そんなことを繰り返していった。そうすると1人だけ、他の捕まっている者と纏っている雰囲気が明らかに違うものが存在した。どうにかこうにかして塀の上によじ登り座ることのできたデウスは下を向いてじっとしていた男に話し始めた。
「おい、そこのお前。俺の名前はデウスっていうんだ。お前の名前はなんだ?」
すると、彼は顔を上げ窓の方に顔を向けて返事をした。
「お前、誰だ?ふんっ、俺は名乗らん。」
「お前の名前はナノランっていうのか、そうか、よろしく!ーーところでお前、偉い奴から金とか食いモンを奪ってるって本当か?」
こんな奴に、目的を誤解されていることは普段なら問題はなかったはずだ。だが、なぜかこの時、彼は目的を直しておく選択をしたのだ。
「お前に言っても無駄だとは思うが、一応直させてもらおう。俺はなりふり構わず襲撃しているわけじゃーない。悪政を働いているヤツを襲って、それを貧しい人々に分け与えているだけだ。」
「うんうん!いいねェ。益々気に入った。お前、俺の仲間になれよ!一緒に冒険しよう!なっ!いいだろ?」
ナノラン?はこの言葉を聞いてポカンとしていた。捕まって逃げ出せない相手に向かって、仲間になって冒険しようというのだ。突然、こんなことを言われたら誰だってそうなるだろう。ここから仮に逃げ出せても彼にはやらなければならないことがある。彼にとっては意味のわからない事を言ってる男だが、賭けてみる必要があった。
「残念だが、他を当たるんだな。俺にはやらなきゃいけないことが残ってるんだ。この街にいる残り1つの悪政貴族から金品を奪うことだ。」
「よし!分かった、俺も手伝う!ちょっとそこで待ってろ!うしししし」
そう言うと、すぐに塀から飛び降りるデウス。彼の向かう先は、この支部ただ一つの出入り口。そこに向かっていくデウス、それを見つけ止めようとする兵士。
「そこの男!ここは空軍支部だ。何用だ。止まれ!」
それでもなお、止まらぬデウス。
「もう一度だけ言うぞ!止まれ!」
ーー次の瞬間、デウスの姿が消えた
その直後、吹っ飛び意識を失う兵士。そのままデウスはナノラン?の待つ監獄へと足を進めた。もちろん、運悪く彼の進行方向にいた兵士はみんな吹っ飛ばされていた。
吹っ飛ばされた者も吹っ飛ばされなかった者も何が起きたかまるで分かっていなかった。門番兵が声を上げ、2回目の制止の声がけをした瞬間に吹っ飛んだと思ったら、今度は自分の周りでも同じ様なことが起きたのだ。彼らは数秒だけ、そう、ほんの数秒間だけ行動が遅れてしまったのだ。今のデウスにはその数秒があれば目的地に着くのは容易のことだった。
「おーい!ナノレン!迎えに来たぞォ!うしししし」
その事に驚愕する捕まっている者たち。それは無理もないだろう。気に入ったから、仲間にしたいから、たったそれだけの理由で軍に攻め入る愚か者なんて聞いたことがなかったからだ。一歩間違えば自分自身でさえ捕まる危険性があって、捕まってしまえば冒険どころの話ではなくなるのだから。そんな無謀な事をしてまで自分を仲間に誘ってくるデウスという謎の男に、少しだけ惹かれ始めるナノレン?であった。
「まさか本当に来るとは思わなかったぞ。鍵はそこに倒れてる兵士が持ってる筈だ。」
檻から解放されたナノレン?はそのまま出口に行こうとしたが、そう上手くいくわけはなく兵士の皆々様が丁重に出迎えてくださっていた。横に来たデウスをチラリと見ると、何故かこんな時でも彼は笑っており、手を差し出してきた。もちろんナノレン?にそんな趣味はないが、助けてもらった恩もあるしここは一応、本当に一応手を繋いでみる事にした。
「【グラデュアルアップ】」
ナノランは聞いた。そして驚いた。彼が言葉を唱えて気付くといつのまにか、支部の出入り口にいた事に。そして彼は更に驚いていた。彼が能力所持者だったという事に。
ここまで来るのに、そう時間はかからなかった。それはデウスの能力によるおかげだろう。せっかく抜け出したのに何時迄もここにいては意味がないので、ナノレン?に場所を聞き、悪政貴族の元を訪れることにした。
こうして、この2人が悪政貴族の元を訪れようと行動を始めている頃に、ヘイト中佐の元へと連絡が届いたのだ。
それぞれの思惑を胸に、仲間候補?との話は終盤に向かっていく。