お風呂の中で状況整理だ
自分の部屋に戻ってお風呂に入る準備をする。私の住んでいるマンションは、一人暮らしにしては結構広めだ。我がもののようにあの男がふんぞり返っていたリビングには二人掛けのテーブルとソファ、それからテレビが置いてあり、台所とつながっている。図を頭の中に思い浮かべられる人がいるなら言うが、玄関は北にあり、入ってすぐ左に台所がある。前を見ると二人掛けのテーブルが目に入り、その奥にはソファーとテレビが置いてある。先に進めばベランダに出られる。ソファの後ろには寝室に続くドアがあり、私は今そこにいる。
さて、風呂場に向かうか……。あいつ、何してるんだろ。心を少しでも許したのがいけなかったな。まさかスマホを取られるなんて……。何もないといいけど……。
寝室のドアからリビングの方をのぞくと、男が椅子に座りながら、何やら楽しそうにスマホをいじっている。私のスマホはテーブルの上だ。出ていくと男がこちらに気付き、手をひらひらと振ってきた。私は不機嫌を思い切り顔に出しながら、男の前を通り過ぎた。男の向かいに当たるところに浴室に続くドアはある。そこに入り、ドアに鍵をかけると、私は着替え始めた。
浴室に入ると、浴槽にお湯が張られているのが目に入った。
……うわ、ほんとにきれいになってる。……寒い。さっさとお湯につかろ。
シャワーを軽く浴びてお風呂の中に入る。体のしんまで温まるような熱さにほうっと息をはきながら肩までつかる。頭がぼうっとなるまでに今の状況を整理してみることにした。
私はよくあるような会社の社員。今日は残業があって、疲れ切って帰ってきた。電車で。会社は電車で駅2つ分ぐらいの所にある。うん。ここまではいいな。うん。マンションは結構新しくて自分の部屋は5階にある。無理して借りた。エレベーターに乗って部屋の前にたどり着いたはいいものの、鍵が開いてたんだった。中に入ってどうしようかと思ってたら、男が声をかけてきて、私を無理やり中に連れ込んだ。連って名乗ってたな。リビングの椅子に私を座らせたら、勝手に自己紹介を始めた。苗字は聞いていない。私があいつに乗せられて、だんだん訳が分かんなくなってきたときに、お風呂に入って来いって言われたんだ。あいつは私のお父さんか何かか。……しかしあいつはどうやってお風呂の場所を知ったんだろう。手当たり次第に開けていったんだろうか?……うーん、眠くなってきた……。そろそろ出るか……。
ここから先の私の記憶はあやふやだ。たぶん、体や頭は洗ったと思う。もともと疲れていたのもあったし、私はお風呂から出ると、体を拭いたり服を着たりをどうにかして、男がいるのも忘れてソファに倒れこんでしまった。