自己紹介……する気ないです
「はい。はじめまして。俺の名前は、蓮。よろしくね。」
「……いや、はじめましてじゃありません。というか、そろそろ手、放してくれませんか?」
リビングまで引っ張られ、私は無理やり椅子に座らされた。そして自分も座ると、この男は勝手に自己紹介を始めたのだ。この会話からわかるとおり私はさっきからずっと手をつながれている。いや、放して?放してください!
「はじめましてだろ?君はどこかで俺と会ったことがあるのかい?……ないだろう?だったら、初めましてだ。……あと、手、ゴメンね?気付かなかった。」
いや、気付かなかったじゃないだろ。天然か何かかこの男。てゆうかそういうことを言いたかったわけじゃないんだ!
さっきやっと手を放したこの蓮と名乗る男は、だいたい20歳後半っぽい顔立ちで、かっこいい男とかハンサムとかそういうのはよくわからない私でもああ、この人はイケメンの部類にはいるんだな、ということがわかる程かっこいい。白いシャツを上のボタンをはずした状態で来ている。下は薄めの茶色のズボンだ。なんとなくだけど高そうな服着ていると思う。
「……で、君の名前は?教えてくれないかな?」
私は迷子の子どもか何かか。しかも名前もどこの誰かも知らずに家に入ったのか?ふー、よくわからない男だな。何考えているのか全く分かんない。……いや、もともと人の表情よむのとかは苦手なんだけど。
私は訝しげな表情丸出しで男に突っかかる。
「その前に何で家に入ったのか理由を教えてくれませんか?ここでなにをしたいんですか。私としては早く出て行っていただきたいのですが。」
「冷たいなぁ。それを教えないと名前を教えてくれないのかい?」
「なんでそんなに私の名前が知りたいんですか?そもそもマンションの表札に書いてあったと思いますが。」
「うーん。」
「ここは私の家です!出て行くつもりがないなら警察を呼びますよ!」
「できると思う?」
は?できるに決まっているではないか。
私は鞄をあけてスマホを取り出そうとした。しかし、そこにはスマホは無かった。
「探し物はこれかな?」
そうやって私のスマホをひらひらと振る男。その姿にちょっと呆然とする。
はぁ!?いつの間に!な、何者だ、こいつ……。
「いつの間に……。いや、返してください!それ、私のスマホですよ!」
「知っているよ。でも、返したら警察に連絡するよね。だから返せないな。」
「何言ってるんですか!さっさと返してください!」
「だから、返せないって!うーん、ちょっとこっちのお願い聞いてくれたら返してやらないこともない、かな。」
「勝手に家入っておいて、スマホっておいて、それでもさらにお願いですか!何様なんです!?」
「まあまあ、落ち着きなよ。ほら、お風呂でも入っておいで。綺麗にしておいたから。」
なんだこの私が悪いみたいな流れ。それに、このまま話していてもらちが明かない。こいつの言う通りお風呂でも入ってくるか。
「じゃあ、今からお風呂入ってきます。勝手に部屋とかのぞいたり、物盗ったりしないで下さいよ。やったらお願い、無しですからね。」
「うん、うん。」
そんなわけで、こんな男の言うことを聞くのは癪だったが、私はお風呂に入ってくることにしたのだった。