はじめましての出会い
はぁ……今日も疲れたなぁ……。
ふらふらとした足取りでマンションまでたどり着き、のろのろと鞄から鍵を取り出す。鍵を差し込み、ガチャリと回したところで、何か違和感を覚えた。
……鍵、今もしかして閉まった?いや、そんなことはない。今朝はちゃんと鍵を閉めたはずだ。
そう思い、ドアノブを回すと、ガチャガチャと鍵が閉まっていることを示す音。自分の頬に冷や汗が流れるのを感じる。
空き巣?強盗?不法侵入?……いやいやいやなんで私みたいな平凡中の平凡な人間の家に入る空き巣とか強盗とか不法侵入者とかいるのよ!特に金目のものなんてないはずだけど――。……うん、今朝はたまたま鍵閉め忘れちゃったんだー私ってばドジー。気にしすぎ気にしすぎ、きっと気のせい!うん!
ものの見事な現実逃避をしながら再び鍵を差し込み回す。カチャッとドアノブを回し、中に入る。目に飛び込んできたのは――知らない男物の靴だった。
……なんで男物だってわかったって?それはね、それはね、明らかに靴がでかいのよ!たぶん私の靴より二回りは大きいと思う。スニーカー?きれいに磨かれている。それに女性が履くような靴じゃない!きっと!うん!てゆか強盗確定!?いや空き巣か?それとも不法侵入者!?……ん?結局どっちも不法侵入者じゃね?てゆか世界のどこに強盗か空き巣入って靴脱ぐバカがいるのよー!……落ち着け、私。とりあえずどうする?引き返して警察呼ぶか?いやでもきっと今のドア開ける音で空き巣は気付いたはずだ。……空き巣かどうかはわからないけど。強盗かもしんないし。…変わんないか。……さて、逃げる?ばれたなら殺す!って言うのが普通だよね。殺されないうちに逃げるか。
よし、回れ右、と思って行動しようとしたときに、中から声がかかった。
「あれー、おかえりー。早く入ってきなよー。」
……え?今、お帰りって言った?私、確か一人暮らしだよね??ちょ待って頭混乱してきた。しかも明らかに男の声。若そうな。ここで逃げても無駄的な?新手のおどしですか!?腹、くくるしか……。
そう思って一歩踏み出そうとしたとき、ペタペタという音を立てて男がこちらに歩いてきた。私は男の姿を見て奇しくも動けなくなってしまった。そんな私を見ながら男は、こう言った。
「だから、何やってんの?はやくおいで。」
「え?あの、え?」
男はそう言いながら手をつかみ、男の姿に見とれていた私の事をぐいと引っ張った。私は靴を何とか脱いで男に引きずられる様について行く。
……あの、何?この展開。私そういうのとは無縁だと思ってたんだけど。てゆか、空き巣か何かのくせに意外とかっこいい。
しかし、どこの誰ともわからない男にそう言えるはずもない。私はされるがままにリビングまで引っ張られていったのだった。