幕間 - 1
「あれ?」
その女子生徒は、ふと違和感を覚えて立ち止まった。
「なんだろう、これ……」
明日からの試験に備えて、図書館で最後の追い込みをした帰り道。
夕陽の差す廊下、その隅に奇妙なものを見つけたのは本当に偶然だった。これがもっと生徒がいて、昼間の明るい時間ならばまず気付かなかっただろう。
だが今は黄昏時で、他には誰の姿も見当たらない。
何とはなしに、その見慣れないものに顔を近付けて。
「え?」
気が付いた時には、目の前に漆黒の腕が伸びていた。
「ん――!」
叫び声をあげようとしても、顔全体を覆われくぐもった声にしかならない。
『にゃっ!』
そんな主人の危機を察して、胸ポケットのDSから黒猫の姿をした使い魔が飛び出した。
使い魔は深淵を固体にしたような腕に爪を立てるが、腕は意に介さず女子生徒を抑え続ける。
そればかりか――
『にゃぁっ!?』
さらにもう数本、黒い腕が這い出るように沸き出し、使い魔を避ける間も与えずに包み込んだ。
『―――!』
しばらくは中で暴れていた使い魔も、段々と動きが鈍くなりやがて完全に動かなくなった。
それからしばらくして、腕が解れた時には、黒猫の姿はなくわずかに光の粒子がDSへと吸い込まれていった。
普段から自分の使い魔を可愛がっていた女子生徒は、ある意味で幸運だっただろう。
「………」
一方的に大事な使い魔が消される瞬間を見ることなく、意識を失ってその場に倒れ伏したのだから。
女子生徒を襲った黒い腕は、そのまま何事もなかったかのように掻き消え。
三〇分後、仕事を終わらせて帰ろうとする途中の司書に発見されるまで、女子生徒はその場に独り取り残されたのだった。