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プロローグ
ぐちゃり、と。
肉が弾ける不快な音が響いた。
「……冥?」
しかしそれが自分ではなく、目の前で崩れ落ちる少女のものだと気付いた時。
反動で振り返ったその顔が、幽かに笑っていることに気付いた時。
「冥!」
脚が勝手に走り出し、少女の身体を抱き起こしていた。
『―――』
無数の翅蟲が奏でる羽音のような不快な音が聞こえる。言葉のようだが、今はただ雑音の羅列にしか聞こえない。
そんなどうでもいいことよりも――
「よかっ、た……無事で」
口角から顎へと血を垂らしながら、気丈にも微笑む少女。その腹部に穿たれた裂傷は背中まで貫通し、制服が血で染まっていく。どう見ても致命傷だ。
華奢な体躯の、高校生にしか見えない少女の意識が未だ途絶えずにいるのは、彼女が人間ではないから成せる技か。
――そう。この世界に悪魔は実在する。
これはそんな世界の片隅で起きた
ありふれたわけではないけれど
奇跡と呼ぶにはまだ足りない
いつか伝説に至るかもしれない、そんな比翼の、その始まり。