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傷
そう不思議に思いつつ、何度目か分からなくなった回復魔法をかけた時、手を叩く音がその場に響いた。
「はい、終わりー。これからは勇者と元魔王君のお時間です。お帰りくださいー」
勇者の声だ。
「えー!勇者様、俺たちまだ2発しか剣を入れてないんですよ」
「馬鹿、俺なんかまだ一太刀しか入れてないぞ。もっと切らせてくだせぇ」
「そうです、勇者様。でないと俺らは……」
「しょうがないなぁ。じゃ、明日またおいで。明後日にはここを発つからな」
明日もやるのか。この茶番を。
因みに今の攻撃の1つたりとも俺の命を脅かすものはなかった。ついでに言うと、指先一本すら切り取られる恐怖もない。
全て回復魔法で治せる程度のものだった。
肩書きを失ったとは言え魔王の俺の身体は、光魔法のかかった剣でしか本当の意味では攻撃出来ない。光魔法の攻撃は、回復魔法で治せないからだ。
だから、勇者によって付けられた俺の左手に空いた風穴は回復出来ずにそのままである。




