宣言
軽い放心状態の俺は、勇者に促されるままに歩く。
この城、魔王城には大した飾りはない。冷たい剥き出しの石を積んだだけの簡素な物だ。
その城の一番高いバルコニーに出る。
眼下には俺に忠誠を誓い、死力を尽くしてくれた臣民達や、ただ戦い好きな暴れ者が、虫けらの様に大量に押し寄せる人族を薙ぎ払っていた。大半はまだまだ力を残しているが、一部はどうやら疲れを見せはじめているらしい。俺が勇者に勝った後に一掃するはずだった人族どもは呑気に陣を構えて魔族に対して耐久して見せている。
誰ともなしに、俺たち2人に気づき始めた群衆は両者互いに睨み合いつつも距離をとって俺たちを見上げた。その瞳は人族も魔族も同じ色だ。疑念と期待。
喧騒は次第に小さくなっていき、遂にはしんと静まりかえる。
俺は視線を外して遠くをぼんやりと見つめた。水平線まで続く冷涼な荒野、暗雲の立ち込めた空、それがここから見える景色だった。
心臓を掴まれる様な痛みが走った。ここから見える景色は魔王だけのものだった。これからもそうさせるべきものだった。それを、今日失うのだと、俺が終わらせてしまったのだと自覚した。喉にせり上がるものを抑える。
魔族領を明け渡す魔王に泣く事は許されない。
こんな事になるならば死を選ぶ方がいかに良かったろうか。これから、俺はいくつの魔の民たちの苦痛の叫び声を聴き続けなければならないんだろうか。
「皆の者、よく聞け!」
隣に立つ勇者の、凛々しくも力強い声が波紋の様に空気を震わせる。
「この広大なる魔族領を治める魔王と、私勇者ことアレスとの誓約による取り決めによってーー」




