Departure-出発
この小説は他サイトに載せたことのある物です。
今、全身を黒の服で統一し、肩まで伸びる漆黒の髪の少年、否青年が目の前で床に伏している人だった者の上に浮かんでいるというより、漂っている何かと対峙している。
その何かは人の形をしているように思えるが、人ではないように思われた。
口元には怪しい微笑みを浮かべ、髪は胸元まで延び、着ているのは、薄い白色の衣の下にこちらも黒の服だが、何故だかこの闇夜に淡く輝いていて、中空に座っているのだ。
その何かは、青年に話し掛けた。
『貴方は、此れで何を得たんですか?』
「・・・・・・・・・・何も、だが他にしたいこともない。」
フッ、何で俺もいきなりこんなやつに・・・・・・
『貴方は何が為に斯様な事を?』
「・・・・・・・・・・俺は、此の一瞬のみ満足できる。それだけだ、だがそれももう出来ないだろう。今まではこいつが居てくれたが、俺にはもう倒すべき者が居ない。・・・・・・・実際こいつも大した事は無かったがな。かすり傷一つ負わされただけだった。」
青年は目の前に転がっている者を一瞥すると、いかにも詰まらなそうに、そして吐き捨てるように言い切った。
『貴方は何故此処に居るんですか?』
凛とした鈴の様な音で訊ねた。
「何故、・・・何故・・・か。そうだな、何故いるんだろう。もう・・・・何もないのにな。」
遠い所を見る様な眼で自分に言い聞かせるように言った。
『そうですか。では、これからは私のために動きなさい。
動く目的を与えます。
目的のために生きなさい。
生きるために巡りなさい、
この世の理じゃら逸脱し、他の世へ。
巡り巡って、その先に何が在るかは分かりません。
ですが、此処で静かに音もなく倒れるのは頂けません。
なら、その命私の為に使いなさい。
これから、貴方は別の世へ行かなければなりません。
宜しいですか。』
この時、何故だか俺は笑っていた。恐らくまともな精神状態では無かったのだろう。それもそうだ、まともな訳がない、俺はこの世が嫌いだ。そんな時にこんなことを言われた。現実的では無かった、だが、俺はこいつの話しを全て信じ切っていた。もしかすると、こいつがそういう力の様なものを使っていたのかも知れない。俺にはそんなことさえもどうでも良かったのかもしれないが、とにかくこれから何かが起こることさえ分かれば、それで充分だった。
「ああ、良いぞ。早くやれ。・・・・・・・・・・・だが、一つ言っておく、俺は俺の為に生きる。誰のためでもない、自分のためだ。」
その時、相手も笑っていた気がした。
『分かりました。では、貴方なりに頑張って下さい。全てが終えたらまた、貴方の前に現れるでしょう。・・・・・・・・左様なら。』
この言葉を全て聞き終えた時には俺の意識は既に無かったが、
『くれぐれも気を付けて下さいね。』
何かを言っているというのだけは分かった。