表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

6月15日 きっかけ

第3章 夏期オリエンテーション

今日はいよいよ夏期オリエンテーションだ。

「杏里沙、準備できた?早くしなさい!蒼君と鈴ちゃんが待ってるわよ!」

「はいはい、ちょっと待って!…ん。よくできた。よし…。今降りるから。」

母親というものはここまでうるさいものか?朝ご飯を食べて20分も経たないうちに、降りて来いというなんて理不尽だ。

腕時計を見ると、7時20分。待ち合わせ時間より10分も早い。

「おはよー。ごめんね、待たせて。じゃ、行こっか?」

玄関の前にいる2人にかけた声に2人は

「おはよ…ん?なんか杏里沙雰囲気違うね〜。」

蒼は少し顔を赤くしていた。

「おはよー?あれ、杏里沙髪型とメイク変えた?」

鈴は何やらニヤニヤしている。

と返してきた。やっぱりそこに目が行くとは長くいる分だけのことはある。

サイドで団子を作り、オレンジ色の花柄バレッタで留めた髪型にし、夏服の半袖水色ブラウスの上にグレーのパーカー、黒のチェックスカートを膝上まであげた格好、色白な肌を強調した病弱メイクにした。

「うん。どうかな?ちょっとイメチェンしてみたんだけど。」

そう答えたものの…

「…か…やっぱいいや。いいんじゃない。俺はそう思うけど。鈴は?」

蒼はさっきよりも顔を赤らめ、ワザとらしく話を逸らした。

「う、うん。私もそう思うよ。てか、杏里沙めっちゃ可愛いよ!失礼だけどそんなに可愛いなんて普段の格好からは想像が付かないよ!」

褒めてるんだろが、全然嬉しくない。

「えー、そこまで言うか?確かに普段の私はノーメイク、茶髪ロングをサイドテールにしてるだけで、制服も膝丈スカート、半袖ブラウスだけっていうかなり地味だけどさ、私だって本気出したら女子っぽい格好ぐらい出来るしー。」

そう反論するしかない。

------------------------------------------------------------------------

ー蒼目線ー

今日は夏期オリエンテーションだ。

今は杏里沙の家の前で鈴と一緒に杏里沙を待っている。今の時間は7時20分。待ち合わせ時間より10分も早い。

ガチャリという音と共に杏里沙が出てきた⁉︎

…ん?あれは杏里沙だよな?

「おはよー。ごめんね、待たせて。じゃ、行こっか?」

ソプラノの明るい声は杏里沙だ。でも、いつもよりもなんか可愛い。サイドで団子を作り、バレッタで留めた髪型、短いスカート、グレーのパーカー、人形みたいなメイク…全てが俺の好みだ。というかどストライクゾーン。ガン見してしまう。

「おはよ…ん?なんか杏里沙雰囲気違うね〜。」

そう返すしかなかった。可愛すぎて目も合わせられない。でも、なんだか守ってあげたくなる…そんな雰囲気が漂っていた。

思わず顔が熱くなるのが分かった。でも…

「…か…やっぱいいや。いいんじゃない。俺はそう思うけど。鈴は?」

こう返してしまった。『可愛い』の言葉が言えなかった。男として情けない。ふと、こちらに向けられている目線に気がついた。杏里沙だ。心配げに微笑みかけて来た。朝日が杏里沙を照らし出し、その様子はまるで朝露を浴びに来た天使のように神秘的だった。

この感覚は多分…

------------------------------------------------------------------------

元に戻ります。


しばらくたわいもない会話をしていると、いつの間にか学校に着いた。

校庭に向かうととりあえず、バスの列に並んだ。

乗り込むと、鈴はすでにウトウトと眠り込んでしまった。不意に睡魔がやって来た。朝早くから準備していたため、多分疲れがきたのだろう。瞼が重くなって、ついに眠りについた。

------------------------------------------------------------------------

ー蒼目線ー

バスに乗り込み、鈴に喋りかけようと首を傾けたが、鈴は眠り込んでた。仕方なく杏里沙の方に首を傾けたものの、こちらも眠り込んでる。しかも、2人共肩に頭を傾けてる。美人2人にやられてこっちは心臓がバクバクだぜ。ふと、憎悪に満ちた目線がこちらに向けられている気がした。とっさに振り向くと、そこには晃が座っていた。やはり、晃が…俺の考えは当たっていたみたいだ。目線を元に戻した。

「杏里沙…お前は…絶対に俺が守るからな……好きだから…じゃないわけ…ないだろ。」

そう囁きかけた。多分聞こえてない。いや、聞こえてないで欲しい。ちゃんと面と向かって言いたいんだ。この気持ちは大切にしたいんだ。

------------------------------------------------------------------------

元に戻ります。


目をさますと2人が心配そうな目でこちらを見ていた。

「大丈夫?なんかうなされてたけど。」

「う、うん。大丈夫!ゴメンね、待たせて。じゃ、行こっか?」

私はあの事件の日の翌日から襲われた時の記憶が夢に出てくる。毎日毎日…もう限界だ。

「そうだな。どこから回る?フリスビーゴルフとかが空いてるらしいから、そこ行こうと思ってるんだけど…いいかな?」

笑みが少しだけ戻った蒼はこう提案してきた。

「もちろん!いいよ。じゃ、行こっか?」

そう言って返した。鈴も首を縦に振って同意を示した。


15分後、私達は少し離れたところにあるフリスビーゴルフ会場に着いた。確かに人はほとんどいないみたいだ。みんなビンゴ大会とかそうゆうのに行ってるみたいだ。ささっと、受け付けを済ませ、フリスビーと貴重品以外はロッカーに預けた後、私達は第2コースに向かった。


10分後、到着するとやっと少し風が強いことに気がついた。だからみんな来ないわけだ。まあ、とりあえずジャンケンした結果、鈴、蒼、私の順でやる事になった。

1投目、長く伸びたフリスビーはグリーンゾーンで止まった。蒼も同じようにとび、私の番になった。惜しくも2人の飛ばした距離には届かず、2投目は私、鈴、蒼の順でやる事になった。

そしてしばらく経って、私が6投目を投げた時だった。風に飛ばされてアウト地域にフリスビーが入ってしまった。フリスビーはあまり遠くに飛んでないようで私は2人に待っててもらい、飛んでったフリスビーを取りに気が生い茂るアウト地域に足を踏み入れた。


15分後、杉の樹の下で、無事フリスビーを発見し、取りに行こうとした瞬間、何者かによって眠らされてしまった。


一方、蒼達は帰ってこない杏里沙を心配して、鈴は係員を呼びに、蒼はケータイのGPSの位置情報を頼りに辿って、杏里沙を探しに向かっていた。


「……ん、ん?ここは?あれ、さっきまでアウト地域にいたはずなのに…。」

いや、ここもアウト地域だ。多分監禁もしくは強姦目的だろう。手足を縄できつく縛られているため、当分は逃げ出せそうにない。

すると、足音が聞こえて来た。多分犯人だろう。無理やり体を起こし、身構えた。

「お目覚めかい、涼川 杏里沙。俺は別に暴行をするために眠らせたんじゃない。君に復讐するためさ。君の一番大切な人を殺してね。」

ふっと、頭をよぎったのは蒼だった。

多分今頃GPSなんかで、居場所を突き止めて、こちらに向かっているはずだ。

「ふ、よくも俺の事をサツに突き出してくれたな。全く、そのウザいぐらいの正義感がムカつく。お前なんて死ねばいいんだ。」

そう言ってきた。

そんな時だった。

「杏里沙ー!どこだ、いるなら返事しろ!」

そんな声が聞こえて来たのは。すかさず、

「ここよ!無事だわ。」

そう答えた。

すると

「出てきやがれ。この女を返して欲しければ、俺と勝負しろ。」

そう言って、晃は背後で折りたたみナイフをセットして蒼に向けてナイフを構えた。

蒼は素手で構えをとった。

どこからともなくそれは始まった。

晃がナイフを思いっきり突き出しながら、蒼の方に向けて走り出した。しかしナイフは届かず、蒼によって蹴り上げられ、大空を舞う羽目になったのだが…そして蒼は落ちてきたナイフを晃から離れた位置に蹴り飛ばした。拾いに行く晃と止めに走る蒼。それは誰が見ても形成逆転していた。しかし、ナイフを拾いに行ったはずの晃がこちらに向けて新たにナイフをセットしながら走ってきたのだ。蒼の反応が1秒ほど遅れ、こちらはとりあえず転がり避ける。しかしすぐに背後に回られ、捕らえられてしまった。

あの日の記憶がより鮮明に映し出される。発作が起こったように過呼吸になり始め、ひどい頭痛と腹痛、全身の筋肉の硬直…症状はドンドン酷くなり、ついには前に倒れこみそうになって、晃に体ごと引き戻され、さらにさらに酷く身体中が震えだし、声も出ない。

「杏里沙、深呼吸しろ。落ち着け。今助けてやるからな…。」

そう叫ぶと、目にも留まらぬ速さで晃の背後に回り込み、10連続キックを繰り出し、倒した。あまりの恐怖に思わず蒼の胸の中に飛び込んだ。

目を丸くしていた蒼も、ゆっくりと抱きしめた。

歩けないほどに症状が出てしまい、蒼におんぶされ、私はアウト地域から出た。ついでに蒼は片手で伸びた晃を引きずり、係員に身柄引き渡しをした。

しばらくおぶられていて思ったのだが、私は男性恐怖症だ。なのに蒼には何されても平気。不思議だ。

多分これは、ーーというものだろう。

帰りのバスまでおぶられている間私の心臓の鼓動がとてもうるさかった。私は、自分の体の変化にとても戸惑っている。

再び襲う睡魔に身を委ね、スヤスヤと眠る私だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ