ぽんぽこりん。
確かに動物は食事中に手を出されると取られると思って噛み付いたり引っかいたりする子もいるけど、私はそんなことしない。
長い時間生きてきて、ここでは取られないと思ったら怒らないし、取られそうな雰囲気があればどこかに移動してから食べるようにしていた。
ここは取られない場所。
そう結論づけた私は夢中で食べている時、たとえお皿に手をつっこまれようが全然大丈夫なの。
大きすぎたお魚は3分の1くらい私のおなかに収まって、あとはお残ししてしまった。
「もう食べないのか?子供が遠慮なんかするんじゃない。」
お皿の横でぺろぺろと毛づくろいに入った私にイフさんはズズイとお皿を寄せてきたけど遠慮なんかしてないよぉ・・・もうぽんぽこりんで入らない。
「みぃ。みぁーっ。」
小さな肉球でぐいって移動してくるお皿を押し返した私に、イフさんの眉間の皺が増えた・・・・っ!?
「ユキちゃん。遠慮してますか?」
「みぁー。みぃー。」
「してないんだね。おなか本当にいっぱいになったんですか?」
「みゃあっ。」
「だそうです。イフ様。ユキちゃん本当におなかいっぱいみたいですよ。」
エイルさんとの問答に周りの人たちは驚いているみたいだけど、イフさんは納得してくれたようで眉間の皺が1本減ったことに一番ほっとした。
「随分と少食なんだな。」
「まぁ・・・。ユキは身体が小さいですからそれくらいじゃないですか?」
イフさんの言葉にアルフさんはフォローを入れてくれた。
「本当に意思疎通が出来るんだね。ねぇユキ。だっこしていい?」
ジンさんが金色の髪を揺らしながら綺麗な碧色の瞳を細めて手を差し出してきた。
ふんふん・・・。
でもジンさんの手に微かに香る香りが私はなんだか嫌だったの。
よじよじとイフさんの肩によじ登ってジンさんから遠ざかると、ジンさんは少し怒ったような顔をして『なんでっ!?』と言ったけど・・・。
「ユキちゃん?人見知りでしょうか?」
エイルさんは私がジンさんを避けたことを人見知りと判断したけど違うもん。
するとジンさんの補佐役であるアクラムさんはじっと私を見てから頷いた。
「ジン様。先刻、薬草に触れていたな。」
「え?ああ、アクラムったら。あれは薬草ではなくてハーブだよ。確かに解毒効果もあるものだけどね。アルフが手伝えって言うからさぁ・・・。僕は地の守護精じゃなくて風の守護精なのにっ。」
「ああ。そのハーブの香りが嫌なんじゃないでしょうか?ユキ。私は触れてもいいですか?」
アルフさんがイフさんの肩にいる私に手を差し出したから、近づいてくるアルフさんの手の匂いもフンフンと嗅いでみると・・・。
「みぁっ。」
ジンさんと同じ匂いがして私は小さな鼻の頭に皺を寄せて顔を逸らしてしまった。
アルフさんの手から顔を背けた私にアルフさんはクスクス笑いながら言った。
「ほら。やっぱりこの匂いが嫌いなんですよ。ハーブといっても香りの強いミントですから。」
あ、それだ。
ミントっていうの、たまに見かけてじゃれたりしたことあるけど、この鼻にツーンとくる匂いが私は苦手だった。
「それじゃあ。ユキは別に僕が嫌いで嫌がったわけじゃないってこと?」
「そうなります。」
まだ少し不機嫌そうにしていたジンさんだったけど、アルフさんの言葉に頷くとキラキラした笑顔でほっとした顔をした。
「よかったぁ。そっか。僕が嫌われたわけじゃなかったんだっ。」
うんうん、嫌いじゃないよ。
でも今度からは匂いしない時にしてほしいな。
ねっ。
イフさん。
ゴロゴロと喉を鳴らしてイフさんのほっぺにごちんすりすりしてると、マナさんはふふっと笑って言った。
「イフ。随分と懐かれてますね。それにしてもこの音・・・。」
「ああ。俺も最初はこの音は威嚇しているのかと思ったんだが、どうやら甘えている時などに出るらしい。」
珍しいものを見つけたように見られてるけど、神猫じゃなくて普通の猫でも喉を鳴らして甘えたり安心した時には出る音だから、私にとってはこれは当たり前。
そう思いながらもイフさんの野いちごみたいなキラキラ綺麗な瞳をちらりと見ると初めて間近で私の目も覗き込まれた。
「お前の瞳も赤いのか。いや、赤というよりは・・・。」
イフさんの言葉に続きを待つように首をコテリと傾けると、マナさんも隣りから私の顔を覗き込んだ。
「ああ。確かに・・・赤いというよりはもっと薄いチェリーピンクのようですね。」
この目、へんかな?
私はこの目の色、赤いと思ってたけどチェリーピンクってこんな色なのかな?
同じ『赤い』ならイフさんとお揃いの色がよかったな。
ぽやっとそんなことを思っていたらだんだんと眠くなってきた。
ぽんぽこりんだし、もう知らない人はここにいないし、安心したのもある。
ふわふわする頭をぽてりとイフさんの広い肩に落としてぺたりと伏せるとイフさんはどうしたという目で見てきたけど、私、もうねむねむなの。
すぴぃー・・・。
間抜けに鼻を鳴らして寝てしまった私をみんなは微笑ましいものでも見るかのように和んでお茶を飲んだ。
あまりにもその場が優しい雰囲気だったから、私は安心して眠ってしまっていたから、あの後みんながしていた会話なんて知らなかったの。
次に目が覚めた時には真っ暗になっていて、イフさんのお部屋の寝室で目を開いた瞬間、イフさんの寝顔が目の前にあったからびっくりしたけどイフさんの枕の上で丸まっていた私はイフさんの息づかいに安心してしまってもう一度目を閉じた。
起きた時には朝だったよ。
おなかすいたにゃ。
ってずっとそんなこと言ってる気がするにょ・・・。