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わたしのなまえ。



イフさんの膝の上で期待の視線ビームを送っている私です。





キラキラキラキラ・・・・。





早く決めてほしいのー♪


そんな感じでひたすら見上げてイフさんの膝の上で前足をふみふみしてたら、考え込んでいたイフさんは私を抱き上げて執務机に歩き出した。



大きな椅子に腰をかけて一枚の紙を取り出すと、黒いインクの瓶の横に指してあった先端に綺麗な羽が付いているペンを手に取る。




私を執務机の上に乗せると頭をひと撫でしてから紙に視線を落とした。





もしかして、名前悩んでくれてるのかな?





わくわくしながら私も白い紙をじーっと眺めていると、イフさんはインクをつけたペンを手に持ったまま、とんとんとペン先で紙の上を叩いた。


さてどうしようかと思っているような動作だけど、ペンはなかなか黒い文字を(つづ)ってはくれない。





ぴこぴこと動く羽だけが私の視界を埋め尽くしてしまった。





うずうず・・・。





そう、私は神猫と言われてるみたいだけど、猫なんだよっ。


しかもまだまだ生まれて間もないほどの子猫の体。


目の前で動くものに本能が逆らえるはずもなく・・・。





「みぃっ。みぁ♪」


「っっ!?」





思わず手が出てしまった。




だめなのーっ。


がまんできないのぉ。




ころりと横たわった執務机の上で私は前足をちょいちょいと羽のふわふわを求めてじゃれついてしまった。




「こら。じゃれついたら書けないだろう?ふふ。」





めって感じで言われてもその顔は気難しそうな顔から少し穏やかに緩んでいて怖くない。




あ。


笑ってくれた。


うれしい。


うれしいな。





「みぃーっ。」


「仕方のないやつだ。」





イフさんは苦笑いしながら私の頭を撫でてくれた。


そしてサラサラと羽ペンを動かして白い紙に黒い文字が綴られていく。


その文字をじっと見つめて読めることに気づいた。




『マル』


『しろ』


『わたあめ』


『けだま』





「・・・・・・。」





私は絶句してしまった・・・。


なんていうか、懐かしさも含んだ、それでいてこのネーミングセンス。





うん。


イフさん、私の初めてのご主人様と同じくらい不器用で真っ直ぐさんだ・・・。





あのご主人様も最初から『しろいの』と呼んだわけではなくて、『(まり)』とか『猫』とか『まるいの』とかそんな感じの候補もあったんだよね。




名前をつけてもらえるのは嬉しいけど、思わぬところで元ご主人様との共通点を見つけてしまったからピタリと固まってしまった。






「気に入らないか。どうするかな。」




そんな私の反応を見てイフさんはひとつ名前の候補を付け足した。





『ゆき』





ぴくんと反応した私にイフさんはフッと笑って『決まりだな』と呟いた。






「ユキというのはな、蒼の宇宙や碧の宇宙に存在する寒い日に空から降る真っ白な氷の結晶の集まりのことだ。お前の体はふわふわで真っ白だからな。」





・・・・あ。




私の頭の中にとても懐かしい声が聞こえた気がした。




『白いの。お前の名だ。お前は雪のようにふわりとしておる。それに真っ白だからな。』


やっぱり似てる。





不器用で優しいところも、名前は違っても同じものを連想してつけてくれた名前の由来も、そして撫でてくれる優しい手も・・・。





たくさんの懐かしさと。


ほんの少しの切なさと。


ぽかぽかする心。


いろんな感情がふわりと降って来て、鼻の奥がつんとした。






『ゆき』


これが私の新しい名前。


ふあふあのゆき。


まっしろのゆき。






「みぁーっ。」


「お、おい。こら。」


私はイフさんの慌てる様子もなんのその。





嬉しい気持ちに我慢ができなくて肩までよじ登るとゴロゴロと喉を鳴らしてイフさんの顎にすりすり攻撃を開始した。




「ユキ・・・。まったく仕方のないやつだ。」




イフさんは私を両手で抱き上げると顔を近づけて笑ってくれた。



私もとっても嬉しくなってイフさんのおでこにゴチンと自分のおでこをぶつけてスリスリした。




そんな時・・・。





コンコン・・・。





ノックの音がして真顔に戻ってしまったイフさんが『入れ』と促すとエイルさんが息を弾ませて戻ってきたみたい。




「ただいま戻りました。」


「ああ。」


短く返事を返したイフさんは、エイルさんが執務机の前まで来るのを待つと、じっと報告を待つように視線をエイルさんへと向けた。






「ご報告致します。謁見の手続きをして参りました。」


「ああ。ご苦労。それで?」


「はい。明日のキャプリコルヌの刻に城へ参られたしとのことでごす。」






・・・・きゃぷ・・・なんて言ったの?





言ってる言葉がよく分からなくて首を捻ると、それに気づいたイフさんは私を抱き上げて立ち上がった。


そして部屋の壁にかかっている大きな柱時計の前に私を連れてきてくれる。


エイルさんは不思議そうに見ているけど、そんなことイフさんには関係ないみたい。






エイルさんから視線を外して大きな柱時計を見上げて気づいた。


あれれ・・・?


この時計、数字じゃないみたい。


人間って数字っていうのを組み合わせて時間を見る生き物じゃなかったっけ?


1とか2とか。





確かにこの時計は12個の見たことあるような模様が彫ってあって数は同じっぽいけどなんだかちがう・・・?


なんだっけこの模様・・・。





そう思ってじっと柱時計を見上げている私にイフさんは説明してくれた。




「これは時を知らせるものなんだが、キャプリコルヌの刻は明日の昼過ぎだ。この模様がそうだ。ここにこの太い針がきて、細長い針が真上に来た刻のことだな。」




・・・時計の見方は同じらしい。





太いのと細長いのが時間の経過を知らせる・・・って、ああああああっ。


思い出したのっ。





これ、前の前のご主人様が毎朝『テレビ』という箱で見ていた『星座占い』とかいうやつの星座だぁ。


あまりにも毎朝食い入るように見てたものだから私も覚えてる。






ということは、きゃぷ・・・なんとかっていうのは、山羊座の模様のことだ。


確か山羊座は占いっていうのだと1月・・・1時ってことかぁ。


そんなややこしい言い方しなくても数字で纏めちゃえばいいのに・・・。







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