スリスリこうげき。
エイルという男の人は亜麻色の柔らかい髪色で後ろでひとつに纏められていて瞳の色は少し濃い茶色、目がたれ目なのに大きくてどんぐりみたいでとても柔らかくてほわほわしていた。
リーフと呼ばれた男の人は銀色の長い髪で瞳の色は水色、切れ長の目はちょっぴり冷たい感じがする・・・。
じっと観察していると、『隊長』と呼ばれた彼は、私を抱いたままリーフという人に話しかけた。
「リーフ。『これ』のどこが凶暴なのだ?」
「・・・しかし。私は王立研究院の長です。炎の守護精様であるイフ・サラマンダー様、あなたを危険に晒すわけには参りません。もちろん他の守護精様方を守れるよう助力するのが私たち王立研究院の使命です。」
えっと・・・要するに、このリーフさんは私のことを危険だと思っていて、この怖い・・じゃなくて、イフさんを守る立場にいる人ってことだよね。
ということはリーフさんに安全の証明をすれば解決・・・なのかな?
「みゃぁ。」
「・・・?なんだ?リーフがどうした?」
私はひと鳴きするとリーフさんの方へと両足を伸ばしてフリフリしてみた。
イフさんは私がリーフさんのところへ行きたいということを察してくれたのか、だっこしたまま近づいてくれるけど、リーフさんは一歩さがる。
うー。イフさんもリーフさんもエイルさんも、みんなみんなでっかい。
特にイフさんの顔怖いもんね・・・。
仕方なくイフさんの服に小さな爪をかけて恐る恐る絨毯の上に降りると、ゆっくりとリーフさんの足元に擦り寄ってみた。
こわくないですよーって意味も込めてスリスリして見上げてみると、リーフさんは驚いたような顔で目を見開いて私を見下ろしている。
「みぁー。」
ゆっくりと膝を折って片膝をついたリーフさんは、じっと私を見てやっと手を出してきた。
その手にもひたすらスリスリ攻撃をしていると、リーフさんの眉間の皺が薄くなった気がした。
私の自慢の毛。ふあふあなのー♪
さわりたいでしょうー?
ねぇねぇ。頭ぐりぐりしたいでしょう?
日本で培った猫ぶりっこで頑張ってアピールし続けた結果。
撫で撫で撫で撫で・・・・。
「か・・・。可愛い・・・っ。」
「みぁーっ。(勝ったのだーっ)」
なんとかなったかもしれない・・・。
エイルさんも柔らかく目を細めて最初のイフさんに抗議していた雰囲気はどこかに行ってしまったみたい。
イフさんはなんだか黒いオーラが駄々漏れだけど、今はリーフさんが私を安全だと思ってくれることが最優先だよ。
リーフさんは私にいろんな質問をしてきた。
そうなら1回、違うなら2回鳴いてくれって、この世界の動物は意思疎通できるということなのかな?
まぁいっか。出来るに越したことはないもん。
さあ。どんな質問でもどーんとお任せなのー♪
ここはさっき私が寝ていた籠が置いてあったお部屋のお隣。
多分出口だろう扉の向かいは大きな窓があってそこから外にも出られるみらい。
窓の前には大きな執務机と大きなお部屋の真ん中、執務机と扉の中間には大きなテーブルとそれを挟むようにして置いてある3人は座れるだろうソファー。
そしてそのソファーにリーフさんとエイルさんは並んで座っていて、その向かいにはイフさんが座ってる。
隣りは空席・・・。
え?私?
私は何故かソファー同士に挟まれたテーブルの上にお行儀悪くイフさんに背中を向けた状態で座っていますです。
イフさんの視線をひしひしと受け続ける背中はなんだか居心地悪くて小さくなってます・・・。
真正面に並んでこちらを観察しているエイルさんとリーフさん。
リーフさんはさっき剣を向けた時とは違うにこやかな顔で私に話しかけてきて、私はあたふたしながらもじっとリーフさんを見つめた。
「えーっと。まず最初の確認をしますね。君は私たちの言葉を理解できていますか?肯定ならひとつ、否定ならふたつ鳴いてください。」
「みぃ。」
『YES』『NO』で鳴く数をかえるの?
一瞬首を傾けた後、『うん』という意味を込めて鳴いてみた。
「っ!わかるんですね?」
「意思疎通ができるなんて、素晴らしいです。」
「・・・・。」
興奮したように話しかけてくるリーフさんの隣りでエイルさんは嬉しそうに頷いているけど、チラリと振り返って見たイフさんの表情は無表情のまま。
「では次の質問です。きみは私たちを傷つけようとする意思はありますか?」
「みゃあ。みゃあ。」
「ないのですね?」
「みゃあ。」
あるわけないのー。
だって人間ってすごく強いんだよ?
私が本気で噛み付いたって引っかいたって、人間の子供でさえも私の首なんて片手で締められちゃうくらい力の差があるんだよ?
そんなの無理だよ。
それに、いろんな人間を見てきたけど、もちろん怖い人間も痛いことする人間もいたけど、私を最初に拾ってくれたご主人様はとってもあったかかったから・・・。
だから私、人間のことすき。
今まで話しかけてきた人間はいたけど、返事を待つ人間はいなかったし、そもそも通じないと判断されて一方的に話してきただけだったもん。
この世界の動物の中には、こうして意思疎通できるものがいるかもしれない。
そうでないと、リーフさんはこうして聞いてくれたりしないと思うもん。
「君はどうして聖域の森で倒れてたのですか?この聖域は王と王に仕える者。そしてイフ様のような自然を操る守護精様と仕える者。そして私のようにこの聖域の管理をしている限られた者しか立ち入れないのです。」
守護精様って・・・この隊長って呼ばれてたイフさんのこと?
私の世界にも神様と呼ばれる者はいたけど、守護精ってなんだろ?
って・・・これって『うん』『いいえ』で答えられないよ?