エピローグ
『王都に行きたい』
俺達は少年に我儘を言い、彼は困った表情を浮かべながらも、一緒に抜け出した。
そして、俺は初めての王都を訪れた。
話に聞いていた場所。
王都には軍服に身を包んだ兵士たちがいた。
『いつか、俺も彼らように兵士になって、国を守るんだ』
俺がそう言うと、少年は『なれるといいな』とだけ返してくれた。
『なれるといいな、じゃない。俺はなるんだ』
だから、お前も一緒になろう、俺が彼にそう言うと、あいつは自分も兵士になる、と言ってきた。
『お前がなるには少し体力を付けないと無理に決まっているだろ』
俺がそう言うと、あいつは不機嫌な表情を浮かべるものだから、
『なら、約束だ。お前が体力つけたら、三人で入ろう』
そう言うしかなかった。すると、あいつはパッと笑顔になる。
いつの日にか、俺達の約束が守れたら、いいと願った。
そう、いつまで、三人一緒にいられますように、と。
何故か、俺はベッドの上に寝かされていた。
「………俺はあいつに負けたのか?」
誰も返してくれないと分かっているのに、そう呟いてしまう。負けを認めたくないわけではない。ただ、俺はあの試合、あまり覚えていないだけだ。どんな負け方だったのかよく覚えていない。
「………あの試合には勝者も、敗者もいない」
そんな声が聴こえて来た。その声の方向を見ると、白フードの男がいた。どうして、この男がここにいるのか不思議で仕方がなかった。
「………王の所にいなくて良かったのか?」
俺がそう尋ねると、
「王がお前の方に行けと命令されたから、ここにいるだけだ」
彼はそう返す。それを聞くと、笑みがこぼれる。俺も、この男も、いつになっても、不器用のままである。この部分だけはいつまで経っても変わらない。
「すまなかったな。小娘に社会の厳しさを教えられなくて」
俺は皮肉を言う。これで、はっきりしたことがある。
社会を舐めていたのはあの少女ではなく、俺達だったと言うことだ。
「ふん。俺はあの事実を認めないほど馬鹿な人間でもない。これではっきりした。あの小娘は俺達にとって、邪魔だ」
そう、男は告げる。確かに、この男が作り上げたシステムにおいて、あの少女ほど邪魔な存在はいない。だが………、
「………どの世の中にも革命が必要なのかもしれないな」
俺がそう呟くと、彼は驚いた様子でこちらを見る。
俺達があいつの為の楽園を作っていられるのも時間の問題だと言うことだ。いや、俺は前から気付いていたはずだ。あの楽園がそう長く続くわけがない、と。
「………まさか、お前もあの小娘の毒牙にやられたか?」
「………そうかもな」
あの少女達なら、俺達、いや、あいつを救ってくれるのではないかと希望を抱いてしまう。
俺達が成し遂げられなかったことをあの少女なら、してくれるのではないか、と。
「それはお前が王の敵に回ると捉えていいんだな?」
彼は低い声でそう言ってくる。
「もともと、俺はあいつの敵に回ることはする気などない」
王やこの男があの少女を敵と認識しているだけで、あの少女は王の敵になったつもりはないだろう。
そもそも、あの少女は黒犬をこの城から出したいだけであり、それ以外で、王の敵に回る明確な理由などない。
とは言え、いつか、俺はあいつと衝突しなければならなかったのも事実だ。それは俺達の為であり、何よりも、あいつの為でもある。
「………そうか。それだけを聞ければいい」
彼はそう言って、病室を出ていく。
「黒龍、いや、 。あんたは俺が対立したら、あの少女達と同じように俺も殺すか?」
俺がそう尋ねると、彼は振り向き、
「ふん。お前だけはまだ殺せるわけねえだろうが。てめえを殺したら、このシステムが破たんする」
それだけ言い残すと、病室から姿を消した。おそらく、空間魔法でも使ったのだろう。
「……あの頃のあいつの無邪気な笑顔が見たい」
驚いたことに、口からそんな言葉が零れてくる。
この願いをかなえられますように………。
欲張りを言うと、三人で暮らしたい。
『貴方が願えば願います』
お前なら、そう言うか?青い鳥?
***
「お早うございます」
大会の翌日、許可をもらって、俺は王都の病院に行き、あいつのお見舞いに行くと、あいつの声が聞こえた。
こいつ以外に誰も相部屋はいない。それは翡翠の騎士も同じようである。
まあ、他の患者と相部屋にでもしたら、大変なことが起きるのは間違いないだろう。
なんたって、青い鳥と翡翠の騎士は昨日の大会の主役様でもある。
昨日、青い鳥達は臓器に異常はないとはいえ、大怪我を負っていた為、医務室では治療できないと判断されたため、王都の病院に搬送された。
しかも、翡翠の騎士を倒した後、青い鳥もダウンしてしまった為、この大会には優勝者はいない。この大会が始まって以来の出来事のようである。
いつも思うことだが、青い鳥は記録に残らない快挙ばかり達成することが趣味のようである。
おそらく、本人は否定するだろうと思うが……。
「元気そうだな。これは食堂おばちゃんたちがお前にと、な」
俺はフルーツバスケットをベッドの近くに置いてやる。こいつは宮廷騎士や宮廷魔法使い受けは悪いが、食堂に働くおばちゃんたちやシェフを始め、使用人、侍女、そして、軍の兵士達には受けがいい。
それはこいつが誰にでも優しくし、公平に接する為だと思われる。
「そうですか。ありがとうございます。退院したら、お礼を言いに行かなくてはいけません」
こいつはそんなことを言い、
「そう言えば、翡翠の騎士のお見舞い品はないのですか?それとも、もう行ってきたのですか?」
私がこんなに貰えるのですから、彼はもっともらっているはずです、とそう言ってくる。
「これはお前のものだ。翡翠の騎士のものは残念ながら、貰っていない」
そもそも、彼はそう言ったものを嫌いそうな感じはするが。
「そうですか。それは可哀想です。おすそ分けしてあげます」
こいつはそう言って、果物を幾つか持って、部屋から出ていこうとする。
「………ちょっと待て」
「何ですか?」
俺が止めると、こいつは不思議そうにこちらを見る。
「お前は怪我人だろうが。俺が届けてやるから、お前は大人しくしてろ」
俺はそう言うが、
「嫌です。私も彼に用があります」
こいつは頑なに拒む。
今のこいつに何を言おうと無駄だ。
とは言え、こいつの特異体質の為、怪我を塞ぐために、魔法など使わず、縫合という技術を使ったらしい。その技術は魔法でやるより定着するのに時間がかかる。だから、こいつが激しい動きでもしたら、おそらく傷が開くだろう。
どうしたものだろうか?俺が考えていると、俺はとある考えが浮かんだ。
「………少し待っていろ」
俺はこいつに動かないように言い、病院のエントランスに向かい、看護師に車輪がついたそれを借り、こいつをそれに座らせ、翡翠の騎士がいる部屋に行くと、彼は入院していると言うのに、仮面をしていた。
パジャマと仮面の組み合わせははっきり言って、似合わない。
「………そこまでして、ここまで来ようとするか?」
一方、彼は俺達の姿を見ると、呆れた様子で言ってくる。
こいつを乗せた乗り物は車輪がついた椅子、いわゆる車いすである。
病院内で移動する為に使われているらしいものである。とは言え、ほとんど怪我は魔法で治してしまうので、車椅子の出番はほとんどない。
「こいつが行きたがっていたので、仕方なく借りて来たんです」
俺はそう言って、車椅子を彼のベッド近くに寄せる。
「私が貰ったお見舞いの品です。おすそ分けです」
こいつはそう言って、翡翠の騎士の上に置いていく。これを貰った翡翠の騎士はきょとんとした様子を浮かべる。
「貴方も貰ったので、一緒におばちゃん達にお礼に行きます」
こいつはそんなことを言ってくる。
「………俺は貰っていないが?」
「私が貰ったものを貴方が貰ったのです。だから、一緒にお礼に行きます。それが礼儀です」
いつも、礼儀を守っていない奴に、そんなことを言っても、いまいち効果がないような気がする。
「いや、だが、これはお前が貰ったのだから、お前が貰っておけ」
彼は果物をこいつに渡そうとするが、
「とにかく、貴方はそれを貰います。それで、いいのです」
こいつはそう言い張るので、翡翠の騎士は困った様子を見せる。
「………翡翠の騎士。こいつは言い出したら、聞かない奴です。迷惑でないなら、貰ってあげてください」
仕方なく、俺がフォローをすると、「そこまで言われたら、仕方ないな」と、彼は果物を受け取ってくれた。
「用はそれだけか?」
彼がそう言うと、
「いえ、それだけではありません。私は約束をしました」
こいつはそんなことを言ってくる。確か、他にも用があると言っていたな。
「約束?そんなものをいつしたんだ?」
俺は怪訝そうにこいつを見る。
「大会前にしました。私が優勝したら、一つ言うことを聞いて下さい、と」
こいつはそう言ってくる。
「………おいおい。今回の優勝者はいないはずだったはずだぞ?」
「それは大会の都合上です。つまり、優勝者がいないことは優勝者が二人いることは同じだと、私は解釈しています」
「それはお前の屁理屈だろうが」
そんなことが通るわけがないだろうが、と俺がこいつの頬を抓ってやると、
「………なら、俺の言うことも一つ聞く、と言うことも適用されることになるが、それでもいいのか?」
彼はそんなことを言ってくる。
確かに、彼の言う通り、優勝者が二人と言うことはあいつの言うことを聞くのなら、彼の言うことを聞くと言うことも繋がる。
彼はどう考えても、黒龍さん側だ。なら、彼があいつに言うことは一つしかない。
「お前、それはやめておけ」
彼の願いはお前が宮廷騎士を辞めろ、と言うはずだ。そんなことになったら、黒龍さん退治は不可能になる。
「大丈夫です。私を信じて下さい。私はまだ貴方から離れることないです」
こいつは俺にそう囁き、
「構いません。貴方の願いを言ってください」
こいつがそう言うと、彼はニヤッと唇を歪ませる。
「お前から先に言うといい。俺の願いは後からでもいい」
彼はそんなことを言う。
「そうですか。なら、私の願いは貴方の仮面を外して下さい」
こいつがそんなことを言ってきたので、俺はこいつを見る。てっきり、俺は彼に仲間になってくれるように言うと思っていた。
彼の素顔を見ることに何の意味がある。
「………やはりそう来たか」
彼は別に抵抗を見せず、仮面を外す。だが、俺は彼の顔を見て、絶句してしまった。
「翡翠の騎士がお、王?」
翡翠の騎士だと思った青年は王にそっくりな顔をしていたのだ。
「………どう言うことなんだ?」
俺は青い鳥の方を見て、説明を促す。
もしこいつが戦っていた相手が王ならば、大変なことになる。
「彼はエイル三世陛下であり、同時に、“翡翠の騎士”と呼ばれる宮廷騎士です」
「じゃあ、あの王は………」
こいつが言ったとおり、彼が王であり、翡翠の騎士なのだったら、あの王は偽物なのか?
「あの王を偽物と言うのは語弊があります。王としての仕事をやっているのはあっちなのですから」
こいつはそう答えてくる。
「はっきり言えば、俺はあいつを守る為の影武者的ものだ。実質上の王はあいつだ」
翡翠の騎士はそう補足を付け加えてくれる。
「……どうして、そんなことをする必要があるんだよ?」
どうして、宮廷騎士である彼が表面上の王をする必要がある?
「それは現王を守るためなのではないかと思います。このシステムを作ったのも同じ理由だと思われます」
こいつの言葉に、俺は目を見開く。
それだとおかしくないか?黒龍さんや他の宮廷魔法使いはそのシステムで、先代の王を守っていた。本当に彼を守る為なら、先代の王を守る必要はない。まさか、先代の王をそのシステムで守っていたのは………。
「………このシステムは王家が作ったと錯覚させるため、か」
「そう思わせることが彼らの狙いだったと思います」
こいつがそう言うと、彼は否定をしないと言うことは肯定と捉えていいそうだ。
そしたら、このシステムを作った元凶は、俺達を錯覚させる為に仕向けた………。
「黒龍がそのシステムを作ったと見て、間違いはありません」
こいつが言っていることが正しいなら、鏡の中の支配者と赤犬さんや他の宮廷魔法使いは彼の手で踊らされたと言うことか?
「………あの男はあいつを守る為なら、何でもする。そして、今、あの男はお前を危険と判断した。これから、あの男はお前を消そうとするだろう」
あの男本人が言っていたのだから間違ない、と彼は言ってくる。
「今になって、私を消そうとしますか。それは面白いです。なら、私も彼に真っ向から相手になります」
こいつは自信満々に言ってくる。
「私達の自由を勝ち取る時が来ました。彼の鼻の穴を開けて、見返します」
「………お前のその自信が何処から来るのか訊ねたいもんだ」
まあ、ここまで来たのだから、逃げるわけにもいかない。今、逃げてしまえば、自由になることはないから。
何より、そんなことになったら、俺はこいつの隣にいる資格など失ってしまうから。
「お前の意気込みは分かった。そろそろ、俺の言うことを聞いてもらってもいいか?」
彼はそんなことを言ってくる。確かに、あいつの言うことを聞いてもらったのだから、彼の言うことも聞かなければならない。
俺は表情を強張らせていると、
「別に、青い鳥に宮廷騎士を辞めろとは言わない」
彼はそんなことを言ってくる。
なら、どう言うことを願うつもりなのだろうか?
この後、続く彼の言葉は俺も流石のあいつも予想外だっただろう。
「俺にキスをさせてくれ」
「え?」
彼の言葉に俺はフリーズした。青い鳥が、翡翠の騎士に、キス?キスと言うのは唇と唇をあわせる奴か?どうして、そんなことを翡翠の騎士が青い鳥に強要する?
「………それはできません」
流石の青い鳥も頑固拒否する。
そりゃあ、そうだろ。青い鳥は結婚する相手としか関係を持たないと言っているのだから、キスも同じだろう。だが………、
「貴方は立場を分かっていますか?貴方は親愛の証ではなく、忠誠の証としてするつもりです」
「……え?」
どういうことだ、と俺は翡翠の騎士の方を見る。
親愛の証ではなく、忠誠の証と言うことは、彼はこいつの手の甲にキスをしようとしている?
「………よく分かったな」
「貴方みたいな堅物が女性の唇を奪うようなことをしないことは分かっています。貴方がキスしたいと言えば、手の甲にすることは容易に分かります」
貴方は何を考えているのですか、とこいつはそう言ってくる。
「逆に聞くが、お前は黒犬と二人であの男に勝てると思っているのか?」
鏡の中の支配者の協力を仰いだとは言え、あの男は戦わないのだろう、と、彼はそう反論してくる。
確かに、青い鳥が凄い人間とは言え、最強と言われる魔法使いである黒龍さんと主に戦うのはこいつではなく、同じ魔法使いである俺である。はっきり言って、彼と俺の実力差は埋められない。もし鏡の中の支配者が味方になってくれても、その差は縮まらない。
「どっちにしろ、お前は俺を味方に引き込むつもりだったのだろう?」
なら、俺がお前に忠誠を誓っても、何も害はないだろう、と言ってくる。
「最終的に、味方になって欲しいと思っていました。ですが、貴方の立場と言うものがあります。ですから、私は王が貴方と言うカードを使用できないようにだけでもしようと、貴方に仮面を外させました」
私は貴方の協力はいりません、とこいつは言う。それを聞くと、こいつは本当にそんな生き方をしていると思う。あっちから協力したいと言ったのに、相手のことを思い、それを拒む。それはあいつの悪いところではあるが、人徳であると思う。
とは言え、こいつは彼に願いを聞いて貰ったのだから、彼の願いを聞かなければならない。どうしたらいいものだろうか?
「………そう言えば、黒犬」
彼はこのままでは埒が明かないと思ったのか、俺の方を見る。
「俺の知り合いから聞いた話なのだが、男はある程度強引の方がいいらしい」
「………は?」
何を言っているんだ、と俺は眉を眉間に寄せると、一方、青い鳥も何を言っているのか分からないようで、唖然としながら、彼の言葉を聞いている。
「その知り合いからの話だと、二十歳も年下の少女の唇を奪ったことがあるらしい」
「………それはただの変態じゃないんですか!?」
もしくはロリコン趣味があるとしか言いようがない。何故か、青い鳥がこの手の話には食いつかない。いつもなら、ああ言う最低男をザッパリ切り捨てているのだが。
「確かに、彼はいわゆるキス魔で、気に入った奴なら、男でも躊躇わずにしてしまう、自他共認めるド変態だ。しかも、男を抱いたこともあるらしい」
「うげ」
俺には一生関わりにならなそうな話である。と言うか、気真面目な彼がそう言った知り合いがいることに驚きを覚えるわけだが。
「まあ、彼がそう言った行動に出ることは珍しいのだが、話を戻すと、少女はファーストキスだったらしく、少女はこう言ったそうだ。私はキスをした相手と結婚すると決めていた、と」
それを聞いた途端、何か似た言葉を聞いたことがあるような言葉だと思う。何処で聞いただろうか?
「だから、男はこう答えたそうだ。なら、俺が………」
そう言った瞬間、青い鳥は彼の口を押さえ、
「………これ以上は子供の教育には悪いものです」
そんなことを言ってくる。青い鳥よ、止めるなら、もう少し前で止めるべきだと思うぞ。と言うか、お前も子供だろう。そんなことを思っていると、彼はニヤッと笑みを浮かべ、チュッと、音が聴こえてくる。その瞬間、こいつには珍しく、しまったと言った表情を浮かべる。
「本来は手の甲だが、掌で許そう。俺は出来る限りのことなら、お前に忠義を尽くそう」
どうやら、彼はそれをする為に、その話を俺に振ったらしい。
「………貴方は最低な人です」
「何とでも言え。俺は彼の元にいたことがあるのだから、少しくらい影響してもおかしくはない」
彼に影響されない人間の方が珍しいものだ、と彼は言ってくる。
「………もう好きにして下さい。どうなっても、私は知りません」
こいつはそう言って、そっぽを向く。こうなったこいつの機嫌はしばらく治らない。
「………そう言えば、貴方は王に手の甲にしたことがあるんですか?」
彼は一応、宮廷騎士なら、王に忠誠を誓っているはずである。俺は話題を変える為に、彼に話を振ると、彼は首を横に振り、
「………俺がそんなことをする必要はない」
そんなことがなくても、俺と王には目には見えない絆がある、と言ってくる。
「そもそも、俺はキスをしたことなど初めてだ。まあ、あの彼は例外だ。そう言えば、俺もあれがファーストキスだったな」
ファーストキスは女性が良かった、と彼は呟いてくる。本当に、翡翠の騎士の言う“彼”とは一体何者なのだろうか?
「………あの、貴方の知り合いって、一体何者なんですか?」
俺がそう尋ねた瞬間、頬に柔らかい触感を感じた。その時は何をされたのか分からなかったが、次の瞬間、青い髪が視界に入って来たので、その時、何をされたのか瞬時に理解した。
「あ、青い鳥、お前は何をした?」
俺は青い鳥を睨むと、
「頬にキスをしました」
青い鳥は悪びれた様子も見せずにそんなことを言ってくる。
「だから、どうして………」
俺の言葉はガタンと勢いよく扉が開いた音でかき消されてしまった。
その方向を見ると、何故か片手剣を手に持ったカニスと、何とも言えない表情をした断罪天使。その後ろにはニヤニヤと面白そうにその光景を眺めている鏡の中の支配者と赤犬さんがいた。
いつから、そこにいたのか知らないが、彼らは俺達の会話を聞いていたらしい。少なくとも、あいつは知っていて尚、放置していたのだろうと思うが……。
「………カニス、どうして、あんたが剣を持っているのか聞いてもいいか?」
俺は嫌な予感がして、彼に尋ねると、
「………それは自分に聞くといいと思う」
そんなことを言って、剣を一振りする。俺は確実に殺される。
「ここは病院です。そんな危ないものを振り回してはいけません」
彼の耳には俺の言葉など聞こえていることもなく、俺へと襲ってくる。俺は魔法陣を展開し、空間魔法で病院の外へと脱出する。その後、彼は窓から飛び降りて、俺を追いかけてくる。
窓からの脱出は風を操っただろうと思われるが、どうして、俺の周りにはこんなにもびっくり人間が多すぎるのだろうか?
そんなことを思いながら、俺は走る。
今日も青い鳥は不幸を巻き散らかしている。
だが、今はそれでもいいと思う。
青い鳥が俺の隣にいてくれることが幸せであると言うことを知っているから。
だから、俺は青い鳥と一緒にいる為に、闘い続けようと思う。
俺はふと王都にそびえ立つ城を見上げる。
俺達がこの城の支配者と戦う日はそう遠くない。
感想、誤字・脱字などがありましたら、よろしくお願いします。
次のシリーズ、宮廷魔法使い編完結である《青い鳥と偽りの王》をシリーズにUPしました。そちらも合わせて、お願いします。