第八話片手の騎士と龍人族と獣人族の娘と・・・
カエデとネートは入学式に出会った。入学式の式典中に新入生同士の友好を深めるための
簡単なパーティーが行われた。カエデはただ一人の留学生という事もあり、すぐには周りに
なじめなかった。ネートは猫の獣人の中では人見知りする方だった。
その為、パーティー中は互いに浮いてしまっていた。
そんな中、自分と同じく一人でいたネートにカエデが声をかけた。
「主も一人で御座るか?」
最初は誰に声をかけているのか分からなかったが、周りに自分以外いないことに気づき
緊張しながらも返答するネート。
「はい・・・あなたもですか?」
返答に頷きながら、緊張している様子の相手に優しい声色で自己紹介を始めるカエデ。
「拙者、カエデ・クヨウと申す。東の国から来たので御座る。」
東の国というワードに驚きながらも、自己紹介を返すネート。
「ネート・ウェンディ・・・です。東の国・・・ということは留学して来たのですか・・・?」
ネートの疑問に頷き返すカエデ。
「そうなので御座るよ!その為ほかには知り合いも居らず少々パーティーに
馴染めなかったので御座るよ!そこに同じく一人でいたネート殿を見かけて声を掛けたので御座る!
もしかして迷惑で御座ったか?」
カエデの話を首を横に振り、返すネート。
「そんなことないです・・・。私、昔っから人と話すのが苦手で・・・。
でも、みんなが楽しそうな中で一人でいるのは寂しくもあったんです・・・。
ですから、カエデさんに声を掛けてもらえて嬉しかったです・・・。」
そんなネートを優しい瞳で見つめ返すカエデ。ネートもカエデを見つめ返すと勇気を出してこう言った。
「ネートと・・・呼び捨てで読んでくれませんか・・・?それと私と友達になったください・・・。」
そんなネートの言葉に一瞬驚きながらも、
「では、拙者の事もカエデと呼び捨てで読んでほしいで御座るネート!それで互いに友人で御座る!!」
と返すカエデ。カエデの返答に嬉しそうにネートも、
「はい・・・カエデ・・・これからよろしく・・・。」
「拙者の方こそよろしくで御座るよ!」
こうして友人になった二人はその後もお互いの事を色々話し合った。
入学式の後も科は違えど気の合った二人はよく一緒にいる姿が見られた。
一か月後。その日、カエデはネートに付き合い、格闘術の授業に出ていた。
授業終了後の会話である噂について話していた。
「騎士科で女性の胸を平然と揉む、破廉恥漢がいるらしいので御座る!!」
憤慨しながらしゃべるカエデにネートも返す。
「私も聞いたことある・・・。確か結構な実力者ていう話だよ・・?」
ネートの話に頷きながらも、やはり怒り心頭な様子で
「うむ!だがいかなる実力者とて、そのような行いは騎士の恥で御座る!
そこで今日の放課後、拙者が成敗しに行こうと思っているので御座る!!」
そう宣言するカエデ。そんなカエデを心配な様子のネートは
「あぶないよ・・・カエデ。やめた方が・・・。」
と言う。ネートに対しカエデは自信満々に答える。
「大丈夫で御座るよ!心配性で御座るな、ネートは!」
その様子に諦めたように、
「分かった・・・。でも心配だから一緒に行くね・・・?」
ネートは告げる。心配してくれるのを嬉しく思い、笑顔で頷くカエデ。
そして放課後。噂の男は訓練場にいると聞きちょうど良いと勇んでいくカエデと
やはり心配そうに後に続くネート。訓練場に着くと目の前から噂の男が飛んでくる。
そのままネートにぶつかりそうになってしまう。しかし、ぶつかる直前に気付いた男は
咄嗟に空中で向きを変える。だが向きを変えた方向にはカエデがいた。さすがの男も
空中で二度も方向展開できず、そのままカエデに衝突した。
あまりに突然の事に動きが止まってしまったネートに
「おい!!大丈夫か!!」
「大丈夫でしょうか?」
声を掛けながら走ってくる女騎士とエルフの少女。そんな声にはっとなったネートは
慌てて親友が男とぶつかり、そのまま倒れた方を見る。
そこには・・・・ぶつかった拍子に思いっきり口付けしている格好で寝転がっている二人がいた。
ちなみに男の両手はカエデの胸を包むように置かれていて、カエデは顔を真っ赤にして気絶していた。
その後、気が付いたカエデにネートは
「大丈夫・・・?」
と声を掛けた。そんなネートに頷き返しながらも、カエデはどこか上の空の様子で
男たちの方を見ていた。女騎士とエルフの少女は男を正座させて叱っていた。
叱り終えるとカエデたちの方を向き
「本当にすまなかった!」
「ごめんなさいね・・・本当にお怪我はない?」
と謝ってきた。その謝罪にネートは
「私は全然大丈夫です・・・。でも、カエデは・・・・。」
再び心配な様子でカエデに目を向ける。カエデはいつの間にか男の近くにいた。
そして、男を指差しこう言い放った。
「お主、拙者と勝負するで御座るよ!!」
男は勝負うんぬんには返答せずに、
「それよりも体は大丈夫なのか?」
と聞いてきた。カエデは即座に
「問題御座らん!とにかく勝負するで御座るよ!!」
と返す。それに対し男は、
「ぶつかった拍子にキスしちまったのは当然謝るけど、
いきなり勝負をふっかけなくてもいいんじゃねぇか?」
と返す。カエデは「キス」のところで思わず顔を赤らめたが尚も言い返す。
「キ、キスの件もそうだが、主は女性の胸を平然と揉む破廉恥漢で御座ろう?
そんなやから拙者が成敗してくれる!!」
カエデの発言に驚きながらもニヤッと笑い男は
「まあ確かに俺は女性の胸は大好きだけどな!まあ勝負するのはいいけど・・・
俺が負ければ女性の胸を許可なく揉むのをやめればいいんだな!俺が勝ったら?」
と問うてくる。あまりに堂々とした態度に怒りが湧くが彼の問いには自信満々に返す。
「主のような奴に負けるつもりは御座らんが、もし負けた場合は拙者を好きにするといいで御座る!!」
そんな二人の会話を聞きながら女騎士は(どこかで見た会話だな。)と思っていた。
どうにか止めようとも思いエルフの少女を見たが、ニコニコ笑って成り行きを見守っているので
自分も成り行きを見守ることにした。そんな中、ネートは慌てていた。
なぜなら、カエデの現在の怒りは龍人の逆鱗によるものと知っていたからだ。
龍人には逆鱗と呼ばれる部位がある。そこの場所自体は個人によって違うが
その部位に自分の認めたもの以外が不用意に触れると、体の奥底から途轍もない怒りが湧いてくるのだ。
一般的に逆鱗状態とも呼ばれ、その状態のときは身体能力の上昇に加え、怒っていながらも
頭の中は冷静に行動できるという矛盾すら起こす。その為、カエデも怒っていながらも男と
ある程度の会話が出来ているのである。ちなみにカエデの逆鱗は唇である。
ネートは逆鱗の事、そしてその場所の事も聞いていたため、現在のカエデが冷静なようで
冷静でないことを理解していた。そのため、場合によっては相手を殺すまで行かなくても
大けがさせてしまうんじゃないかと心配だった。その事を対戦相手の男に伝えたが
「大丈夫!心配ねぇから!」
と笑顔で返された。その笑顔に思わずドキッとしてしまいそれ以上言葉が続かなかった。
そして、訓練場の中心で二人の試合が始まった。
勝負は一瞬で着いた。カエデは開始早々得意の突きを放った。相手は自分が突きを放った瞬間は
動いていなかった。この距離なら外すことはないと確信していた。
そして相手ののど元に突きが吸い込まれる・・・事はなかった。突きが当たったと思った瞬間、
男は目の前から消えていた。そして自分の真横に危機が迫っていると感じ、横を向いた瞬間には
のど元に相手の剣が置かれていた。カエデは自分の負けを悟った。
カエデの中にはもう怒りは湧いていなかった。負けた悔しさも当然あったが、それ以上に
相手の強さに圧倒されていた。そして、対戦前に言った約束を思い出した。
「せ、拙者の負けで御座る!拙者を主の好きにするで御座るよ・・・。」
思わず恥らいながら言ってしまう。そんな彼女に対し男は
「んじゃ!取り敢えず名前教えてくんねぇか?連れの女の子も。
それから、さっきはキスしちまって悪かったな!」
軽い感じで言うが謝るときは真剣だった。その言葉にカエデも
「その件はもう忘れてくれで御座るよ・・・そういえば自己紹介がまだで御座ったな!」
と返す。観戦していたネート、女騎士、エルフの少女も合わせてお互いの紹介をした。
「して、ギンロウ殿は拙者に何を望む!」
自己紹介も終わり約束を守ろうとするカエデにギンロウは
「んじゃ、胸を揉ませてくれ!」
と言いながらカエデの胸を揉む。そんな事態にも動揺はしないが顔を僅かに赤らめ
「ん・・・もちろん、拙者の胸でよければ、いくらでも揉んでくれて結構で御座る。」
と言い切るカエデ。しかし直ぐにエルスとユフィの突込みがギンロウに入る。
吹っ飛ぶギンロウを見てネートもカエデも、さっきギンロウが吹っ飛んで来たのはこれかと思った。
その後、三人と別れ寮に帰るカエデにネートは聞いた。
「いくら勝負前の約束とはいえ・・・胸を揉ますなんて・・・、本当に平気だったの・・・?」
ネートの疑問にカエデは腕を組み考え込む様子で答える。
「拙者もよく分からないので御座るが、勝負に負けた瞬間、この方になら何をされてもいいと
感じたので御座るよ!実際、胸を揉まれても不思議なことに嫌だと感じなかったので御座るよ!!」
カエデの様子にネートも「???」と疑問符を浮かべていた。
それからギンロウたちとカエデ、ネートはよく一緒にいることが多くなった。
ネートは最初のうちはギンロウを警戒していたが、ある事件の後からむしろギンロウによく
懐くようになったがそれはまた別の話。