第四話片手の騎士とエルフの姫君と・・・
ユフィーリア・フォレスティア。
彼女はユークリウッドの森に住む、エルフ族の長の娘である。
その為、幼い頃より姫様、姫君などと呼ばれてきた。
エルフの中でも魔力が強く、精霊との相性も良かった。
しかし、その事が彼女の存在をより特別なものにした。
学園に入るまで彼女には友人と呼べる人はいなかった。
学園に入学して暫くはエルフの中でも特別な人物という事と
あまりの美しさに声を掛けてくるものはおらず、皆、遠巻きから見るだけだった。
特に強い視線を受けたのが大きな胸だった。男子からの遠慮の無い視線は
彼女の心を疲弊させていった。
その日も1人で授業をうけ、放課後の喧騒なか廊下を歩いていた。
『ドン!!』という音と共に突然、真後ろを何かが通り過ぎ壁に激突した。
何かが飛んできた方角から女騎士が慌てて走ってきた。
「申し訳ない!怪我はありませんか?」
突然話しかけられ、驚きながらも返答するユフィ
「ええ!私は大丈夫です・・いったいなにが?」
言いながら飛んできた何かに目を向けるユフィ。
相手に怪我もない様子に安堵しながら女騎士もユフィが見ている何かの方に目を向けた。
壁に激突したのは人だった。それに気づき慌てて駆け寄ろうとするユフィを手で制止し、
「いい加減立ち上がれ!ギンロウ!」
と言い放つ。かなりの勢いで壁に激突した人に向かって言うセリフではないと思ったが
事態の分からない自分が、余計な横槍を入れないほうがいいと思い
黙って事態を見守るユフィ。
「いてててて!さすがに今のは効いたぞエルス!」
言いながらも立ち上がるギンロウと呼ばれた少年に、エルスと呼ばれた少女は
さらに叱るように言う。
「全て自業自得だろ?!ほら、彼女に謝れ!!」
突然自分に話を振られ驚くユフィ、そんな彼女に目を向けるギンロウ。
「え!えっと、私は大丈夫ですから・・・」
「突然驚かせて悪かったな。本当に怪我とか無い?」
頭を下げ、心配までしてくるギンロウにさらに恐縮してしまうユフィ。
そんな彼女の様子をじっと見つめたギンロウは、少し考える顔をするが
すぐにニヤッと笑みを浮かべると・・・目の前の胸を揉みに行った。
突然だった。訳が分からなかった。今、自分が何をされているのかユフィはすぐに
理解できなかった。そのぐらい混乱していた。
入学してから疲れ、ストレスが溜まっていたということもあるだろう、
あまりに突然の事態に正常な判断が出来なくなっていたというのもあるだろう、
心がグチャグチャになっている中、ようやく自分が何をされているかを理解した。
『胸を揉まれている!!!』
突然の事態にエルスは硬直してしまった。しかし、この時彼女は聞いた!
目の前のエルフ族の少女(恐らくユークリウッドの森の長の娘のはずだ!)から
『ブチっ!』と何かが切れる音が。そして、見た!驚いた顔が恐ろしいまでの
笑顔に変わり、彼女の手から眩い位の光が溢れ出るのを。
瞬間、ギンロウがいた場所が爆発し、煙を口から出しながら焦げた物体は
そのまま倒れた。
「本当に申し訳ありませんでした!!」
すでに復活しているギンロウに謝るユフィに対してエルスは
「こんな奴に謝る必要はありませんユフィーリア様。」
と、ギンロウを睨みながら言う。
「しかし・・。危うく殺してしまう所でした!!
いくら驚いたとはいえ、人に向かって打つ術ではありませんでした・・・。」
言いながら自分の言葉にまた落ち込むユフィに、当の本人は
「大丈夫、大丈夫!俺って頑丈だし、何より胸揉んだ俺の自業自得だ!!
それに、すっきりしたろ!?」
「なにいってんだ!」という顔のエルスを余所に、ユフィは確かに胸にあった
モヤモヤしたものが吹き飛んだのを感じた。
「そのためにわざとあんな事を?」
問うユフィにギンロウは首を横に振り
「いや!ただ揉みたかっただけ!!」
そんな自信満々なギンロウに思わず目が点になるユフィに
慌ててギンロウの頭を押さえつけるエルス
「え~とっ・・・??」
「本当に申し訳ありませんでした!ユフィーリア様!!」
そういうエルスの手を押しのけギンロウは
「そういや自己紹介がまだだったな!俺はギンロウ!騎士科の新入生だ!!」
と、改めて自分の名を告げる。
「ユフィーリア・フォレスティアです!魔術科の同じく新入生です!」
ユフィも優雅なお辞儀をしながら自分の名を告げる。
エルスはいまだにギンロウを睨んでいたが、ユフィにと同様に優雅にお辞儀をしながら
「エルス・アルセルクです!ギンロウと同じ騎士科の新入生です!」
と名乗った。
「ユフィーリアか・・・。」
「どうかしました?」
ギンロウの呟きに、自分の名に何かあるのかと思い聞いてしまうユフィ。
「いや!そうだな・・・ユフィって呼んでいいか?」
少し考えた後、そう聞くギンロウにエルスは終え荒げ
「ユフィーリア様に向かってそんな気安い呼称で呼ぼうとするな!!」
と怒る。疑問顔のギンロウがエルス問う
「ユフィって、そんなに偉いエルフなの?」
「だから・・・いや、もういい。ユフィーリア様はユークリウッドの森に住に一族の長の娘。
お前にもわかりやすく言うとエルフ族の姫君だ!」
呼称を訂正させようとするも無駄だと思い、諦めユフィの立場を説明するエルス。
そんな彼女に反論するユフィ
「私はそんな・・・あくまで一族の長の娘というだけです。姫なんて立場じゃありません!!
それをいったらエルス様も公爵家のご令嬢で陛下の姪にあたるじゃありませんか?!」
おもわず「いや・・・それは・・」と口を噤んでしまうエルス。
少し考え(確かに自分の立場だけで自分を語られるなんて嫌なものだな)と思った。
「申し訳なかったユフィ!」
「いえ!私こそ嫌味のように言ってしまっい、申し訳ありませんでしたエルス!」
エルスが自分を呼び捨てにしてくれたのが嬉しかったのかユフィはとてもニコニコ顔だ。
エルスも同様の顔だったが、にや~っとした顔のギンロウの視線に気づき慌てて目を逸らす。
「んじゃ!ユフィで決定な?!俺も気軽にギンロウと呼んでくれ?」
そういうギンロウに対し笑顔でユフィは
「分かりました、ギンロウ様!」
様を強調するユフィに思わず吹き出すエルス。ギンロウは問う
「やっぱりまだ怒ってる?」
「いいえ!まったく!」
ニコニコ笑顔だが、どこか凄みを感じさせる。
と、ユフィは笑みを柔らかくすると
「冗談ですよギンロウ様。でも、あんな事した責任はいずれ問っていただきます!」
後半のセリフは半ば照れているユフィに気づくこともなくギンロウは
「結局、様はとってくれないのか?」
と見当違いなことを呟いている。そんな彼をエルスは睨んでいたが
ギンロウが「どうした?」と聞いても「別に・・・」と目を逸らした。
この出会いをきっかけにユフィはギンロウ、エルスとよく話すようになった。
ギンロウのセクハラに怒るエルス、ニコニコしてその様子を見つめろユフィ。
そんな三人を放課後よく見かけられたという。
そして、ある事件によりギンロウの左腕が無くなってしまう。
その日からユフィは研究所に籠るようになった。全てはギンロウの左腕を取り戻すため。
ありとあらゆる文献をあさり、ようやく一つの可能性を見つけた。
だがそれは、今後の彼の人生を大きく狂わせるかもしれないものでもあった。
思い悩みながらも、そんな自分が少しおかしくもあった。
一年前のギンロウ達に出会う前の自分はこんなことに悩む自分を想像できただろうか?
きっと今の自分を見たら、過去の自分は驚いてるだろう。
なにより今の自分ですら正直驚いているのだ。たった一人の男性のためにここまでできる自分。
好きという自覚は確かにあった。出会いは良いとは言えなかったがそれでも興味を抱いた。
そこから好きに変ったのはいつだったのだろうか?きっといつの間にかが正解だろう。
自分の気持ちを見直すと少々照れくさかったけど、彼をこんなに好きな自分に気付けた。
先ほど連絡があった。もうすぐ彼が来る。彼がどんな選択をしようとも自分の最大限の力で
彼を支えようともう一度心に誓った。
前回のエルスも同様ですが今回の話はあくまでギンロウとの出会い
を描いたものです。ギンロウを決定的に好きになったのは
また別の話です。そういう話も何れは書きたいです。
次の更新は土曜日を目標にしております。