第二話片手の騎士と女騎士と・・・
第二話はエルスの話が中心となります。
エルス・アルセルク。
彼女の家アルセルク家は古くより公爵の爵位を国より与えられ、
国王だけでなく民衆からの信頼も厚い家系だ。
現在は彼女の父親、アルス・アルセルクがこの国の宰相を務めている。
ちなみに彼女の母親、エリーナは現国王エルク・セイクリッドの妹でもある。
幼いころからこの両親に、国のため民のため生きることを教わっていた彼女が
一番得意だった剣術で国や民を守る騎士を目指すのは当然だったのかもしれない。
なにより尊敬する父と母と国王が卒業した、グラントに入学することは、
彼女にとって幼い頃からの決定事項でもあった。
入学してすぐに彼女はその頭角をあらわす。模擬戦で上級生を次々破り、
単純な剣術の強さだけでも学園内で5番以内に確実に入っているといわれた。
そんな貴族の令嬢と平民出身のギンロウがなぜ気安い中なのか?
単純にギンロウが彼女と同様に学園内で5番以内の実力者であったということも
もちろんあった。
しかし、一番の理由はその出会いにあったといってもいい。
当時、エルスは次々と上級生を破っていく中で自分と同様に上級生との模擬戦に
勝利する二刀流の男子の新入生の話を聞いた。
彼に興味を持ったエルスは彼のクラスに行き、会って話をし
あわよくば次の模擬戦の相手をしてくれないかな?と考えていた。
彼女の期待はいい意味でも、悪い意味でも裏切られる。
彼のクラスに着き、近くにいた女生徒に話しかけた、
「ギンロウという生徒はいるか?」
「あのぉ~・・・、後ろに・・・。」
「えっ?!」
いきなり後ろから胸を揉みしだかれた。
目の前の女生徒は「またぁ~。」というようなあきれた表情だった。
どうやら真後ろで自分の胸を揉んでいる者が目的の男のようだ。
内心エルスは怒り狂っていたが、表情には出さず冷静に?彼の首を狙い
剣を振るった。そして・・・見事に躱された。
やっぱり内心は怒りに狂っていたが、いい意味での驚きもあった。
いともたやすく自分の後ろを取った気配を消す能力とスピード。
後ろを切りつけたとはいえ自分の剣をいともたやすく躱した彼の身体能力。
どちらも彼が噂だけじゃないことを感じさせた。
「貴様がギンロウか?」
確認のため問う。
「ああ、そうだ。あんたはエルス・・だっけ?怒ってないの?」
胸を揉んだことをまるで悪びれる様子もなく聞いてくる男
「怒ってはいる!しかしそれ以上に貴様に興味が湧いた。
次の模擬戦で私の相手をしてくれないか?嫌とは言わせんぞ!!」
少し考えた様子のギンロウだったがすぐに
「ああいいぞ!で、何が目的だ?」
ギンロウの問いにエルスは笑みを浮かべる。
「さすがに分かるか。そうだな・・・貴様の実力を見たいというのも当然ある。
しかし何より負けっぱなしというのが気に食わん!!
この勝負に私が勝てば貴様にはしっかりと謝ってもらおう!!」
「俺が勝ったら?」
「好きにしろ!!」
ギンロウの返答に強気に返すエルス。
「んじゃぁ、俺が勝ったらまた胸揉ませろよ?」
彼の軽口に呆れながら
「貴様はそればかりなのか?ふむ・・・それは好きなだけ、ということか?」
「違う違う!お前に隙が出来たと感じた時にさっきみたいに揉ませてもらうだけだ!!」
「???」
彼の言葉に思わず疑問符を浮かべたような顔をしてしまう。
「まっ!つまりただ揉むだけじゃつまんねぇ~だよな!
強い奴の隙をついて揉むのがいいんじゃないか!!」
自信満々に言う彼に、思わずエルスは笑みが出てしまう。
「馬鹿なのかすごい奴なのかわからん奴だな。まあ、その条件でいいだろう。」
対する彼女も自信満々だ。
こうしてエルスとギンロウの模擬戦が決まった。
模擬戦はまさしく激戦となった。力強くも素早いエルスの剣は
的確にギンロウの急所を狙う。対するギンロウも二刀を巧みに操り
エルスの剣を受け流す。何度も剣を交えるが決着は一向につかない。
結局2人の戦いは決着つかづで、引き分けで終わった。
「すまなっかった。」
突然謝ってくるギンロウに対して、驚くエルス。
「今回は引き分けだろ!貴様が謝る理由が無い。」
「けじめだよ!女が嫌がる真似して謝らないわけにはいかないだろ!」
そういうギンロウに対し呆れながらも
「だったら初めからするな!まったく、貴様というやつは。」
照れながら言う。そして、
「貴様に謝られた以上、こちらも貴様の条件を飲もう。
もし、私に隙があればいつでも胸を揉むといい!!」
そう言う彼女に思わず驚きながらも、笑みを浮かべ
「本当か!?んじゃぁ~さっそく・・・。」
おもむろに胸に手を伸ばすギンロウの手をエルスがしっかりつかむ。
「へっ・・・!?」
ニコニコ顔のエルスが静かに語る、
「貴様が私の隙をつければ、私自身に油断があったと納得し
しばらく胸を好きにすることを許す!しかし、貴様の手が
私の胸を触る前にその手を摑まえた場合・・・。」
「摑まえた場合・・・??」
「遠慮なく貴様を吹き飛ばす!!!」
直後、ギンロウは吹き飛ばされた。
エルスはスッキリした顔でその場を去っていった。
その後、何度も模擬戦で激戦を繰り広げながらも、胸を揉まれたり
吹き飛ばされたりしている2人の姿があった。
それから1年程たった後、ある事件によりギンロウは左腕を失ってしまう。
エルスにとってその事件は大きく心を揺さぶった。
ギンロウとの関係はあくまで、ライバルとしての者だと思っていた。
しかし、左手を失い、死んでしまうんじゃないかと思うほどの出血量と
青ざめ気を失っている彼の表情を見たときに、ある強い思いが生まれた。
ギンロウを失いたくない。彼女は強くそう願った。
ギンロウが助かったと知り、安堵の中で自分の気持ちに気付いた。
彼に恋していた自分に。騎士の道を共に歩むのは無理かもしれない。
でも、それでも、彼と一緒にいたいと思った。
「まったく!!あんな馬鹿に惚れるてしまうとはな。」
おもわず自分に対しそう愚痴る。しかし表情はスッキリしているようだ。
「意外とライバルが多いからな・・・。」
今度は頭に思い浮かべた何人かに対して愚痴る。
文句を呟きながらもあいつに会いに魔術科のクラスを目指すエルスの姿があった。
次話からは、更新のスピードが落ちると思います。