第四話片手の騎士と屑騎士と・・・
短めで次の流れへの単なる繋ぎの話です。
ギンロウは切れていた、目の前の相手に。しかし怒りに飲まれるなと親から教えられたギンロウは
冷静になるなため、自分が何故こんなに怒りを抱いているのかを改めて考えた。
エルスを見送った一同は、これからどうするのかを話し合っていた。
「しかしよろしいので御座るか、シキ殿?ギンロウ殿と二人っきりでは無くても?」
カエデの問にシキは答える。
「うん!それにわざわざ来てくれたものを追い返すのもね・・・せっかくだしみんなで何かしたいな。」
シキの意見にみんなが考え込む。そんな一同に何者かが声をかけて来た。
「おい!お前ら!」
その声に、皆振り向く。振り向いた瞬間シキ以外が露骨に嫌そうな顔をし、
聞こえなかった事にして無視しようとする。
「うおい!聞こえてるんだろ?」
このまま無視し続けても後々面倒だと感じた一同は、仕方なく彼の方を向く。
そこにいたのは公爵位を持つグレイブ家の一人息子であるギジル・グレイブとその取り巻きだった。
ギジル・グレイブ。公爵家に生まれ甘やかされて育った為、かなり我儘な性格となった。
入学当初もその性格から多くの問題行動を行い、生徒の大半から嫌われている。
彼の取り巻きたちも似たような貴族の子息たちが集まっているだけなので、
彼らの学園内での評判はギジルと同様に悪い。
そんなギジルや取り巻きがニヤニヤしながら一向、特に女性陣を見てくる。
その視線にムッとしギンロウがその視線を遮る様に、ギジルたちの前に立つ。
「何か用か?」
「お前にはないんだよ。用があるのは女どもの方だ!今から俺の部屋に行かないか?
そんな奴と居るより楽しませてやるぜ?」
ギジルの突然の誘いに一同は唖然としてしまう。
「いきなり何を言っているで御座るか?行くわけないで御座ろう!」
カエデの意見に女性陣全員が頷く。
「そう言うわけだ!それじゃあな!」
ギンロウが適当にギジルに別れの言葉を告げ、全員でその場を去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ちやがれ!ちっ、おい!」
ギジルが指で合図すると、取り巻きどもがギンロウたちを囲む。相変わらずいやらしい視線を
向けてくる彼らに、ギンロウの苛立ちは募る。
「一体なんだよ?今デート中なんだよ!これ以上邪魔するな!」
ギンロウの文句にギジルが返す。
「てめーの方が邪魔なんだよ!知ってんだぜ・・・お前、片腕を無くしたんだってな!
もうまともに剣も振れないやつが、いつまでも学園に居座ってんじゃねーよ!
そのくせ女とデートだと?単なる同情で付き合ってもらってんだろ?
貴様みたいなお先真っ暗な騎士失格野郎につき合わされて女どもが可哀そうだろ?」
ギジルがそんな発言をした瞬間、女性陣から強烈な怒気が発せられたのをギンロウは感じた。
「・・・あの方はいまなんとおっしゃったのかしら?」
ユフィは静かながらも思わず背筋が凍るような声を出す。それに続くカエデ、ネート、シキの声も
聞くものを身震いさせる様な声色だ。
「確か・・・騎士失格野郎で御座るか?自分で言って更に嫌な気分になったで御座るよ!」
「・・・うん・・・!」
「ほんっとにムカつく野郎だね・・・誰だか知らないけど!」
女性陣の迫力にギジルとその取り巻きたちは思わず後ずさる。
「な、なんだよお前ら・・・せ、折角、人が親切で言ってやってるのに・・・。
けっ!所詮その程度の女か。俺様の親切心が分からないなんて・・・屑と一緒にいるのは
結局馬鹿な女って事だな!」
ギジルがそんな言葉を言った瞬間、今度はギンロウから強烈な怒気が発せられた。
「な、何だよ文句あんのか?俺様は、次期グレイブ家の当主だぞ?
お前らみたいな程度の低い連中が、逆らえばどうなると・・・。」
ギジルは最後まで喋ることはできなかった。明らかに目の前に居るギンロウの怒りが、
先ほどより強くなったのを感じたからだ。
「てめーがどこの誰だろうと関係ねーよ!俺の悪口ぐらいなら流してやっても良かったがな・・・
俺の女をその程度だとかなんだとか言いやがって!」
ギンロウの気迫にビビりながらもギジルは何とか言い返す。
「お、俺様が何を言おうが、お、お前程度が文句を言うなんておこがましいんだよ!
よ、よし!け、決闘だ!決闘を行うぞ!貴様みたいな片腕野郎!俺様の剣技で叩きのめしてやる!」
ビビったことを隠すために強気に決闘を申し込もうとするギジルに対し
ギンロウは少し考えたが、目の前のむかつく野郎をどうにか出来るチャンスなので快諾する。
「ああ!いいぜ、望むところだ!」
こうしてギンロウとギジルは決闘をすることなった。道端で闘うわけにもいかず、
場所を学園内の訓練所に場所を移した。
そして決闘が始まる。ギンロウは今一度、自分が何に対して怒っているのか考えた。
確かに奴の言ったことは許すことはできないが、あそこまで自分は普段
怒りをあらわにしただろうか?いや違う、俺の怒りを更に募らせたのはあいつらの視線だ。
人の女をジロジロいやらしい視線で見やがって。あいつらは俺の女だぞ!
そこまで考えると、不意に可笑しくなった。自分の独占欲の強さにだ。
改めて彼女たちに自分は惚れているんだなと感じた。そう思うと怒りは断然強くなった。
自分の女をジロジロ見た上に、その程度だの馬鹿だの言った奴をぶっ飛ばそうと決意する。
そして勝負は一瞬で着いた。
考え込んでいたギンロウが隙だらけに見えたギジルは、開始早々にギンロウの頭を目掛けて切り込んだ。しかし、ギンロウにあっさりと躱される。ギンロウは躱しながら剣を抜き、ギジルの剣を弾き飛ばす。
いつもの彼ならばその時点で、相手に剣を向け負けを認めさせるといった流れで
勝負を終わらせるのだが、今回は違った。剣を弾き飛ばされて呆然としているギジルの顔面を
魔法の義手で思いっきり殴った。ギジルは見えない何かに思いっきり殴られたと感じた時には、
自分が吹っ飛んでいるのを知った。そしてそのまま気絶した。
「あ!やりすぎたか?まあいいか・・・スッキリしたし!」
そんな風に言いながらギンロウはユフィ達の元へ歩いて行く。そんな彼の背中に向かって
ギジルに慌てて駆け寄っていた、取り巻きたちが罵声を浴びせる。
「待ちやがれこの野郎!お前、ギジル様をこんな目にあわせて唯で済むと思ってんのか?」
「そうだ、そうだ!ギジル様は公爵家の人間だぞ!貴様のような平民風情が唯で済むと思うなよ!」
そんな罵声を気にするでもないギンロウは無視して進んでいきユフィ達に声を掛ける。
「悪いな、こんな面倒につき合わせて!」
「構いませんわ!そもそもギンロウ様の所為では有りませんし・・・。」
「そうで御座る!ギンロウ殿が謝ることでは無いで御座るよ!」
「そうそう!それにあいつが吹っ飛ぶ姿は私もスッキリしたしね!」
ギンロウの謝罪をユフィとカエデ、シキが否定する。一方、ネートは
「私も気にしてませんけど・・・彼らがまた突っかかってこないか不安です・・・。」
とギジル達の報復を気にしている。その様子にギンロウはネートの頭を撫でる。
「わ・・・。な、なんですか・・・?」
「大丈夫だって!何があっても俺がお前らを守るから!」
ギンロウからそうはっきり告げられ安心した様子のネートを、皆が優しく見守る。
その後、気絶から目覚めたギジルはギンロウ達に報復しようとするが、
ある事態が起きたせいで失敗に終わる事となる。
次話は主人公と家族の話です。