第三話悩める王子(弟)と悩める姫君と・・・
久しぶりの投稿です。
姫君の登場と王子の紹介の話です。
セイクリッド王国の国王であるアルス、そしてその奥方での王妃カタリナには三人の子供がいる。長男で王位継承権第一位を持つユリウスは次期国王を確実視される程、高い能力と人望を持つ。その母親譲りの美形の顔立ちから国内外を問わず婚姻を要望する女性が後を絶たない。本人は王になる為の勉強が忙しいのを理由に全て断っている。次男であり末っ子の王位継承権第二位を持つアルフレドは学園グラントの一年生である。顔立ちは兄に似ているが幼さと甘さを残している。ある事件に巻き込まれ自分の不甲斐なさに現在落ち込んでいる。長女で第二子の王位継承権第三位を持つセシリアは昨年学園を卒業したばかりである。兄と同じく彼女も高い能力と人望を持ち、国民からの人気だけならば彼女の方が高いのではと言われている。そんな彼女には今、悩みがある。その相談をする為、自室にエルスを呼んだのだ。
エルスは慣れた足取りで城内を進んでいた。目的の部屋までは後少しだ。そこに前方から王子の一人であるアルフレドが歩いて来た。
「アル!」
エルスの呼びかけに気付いたアルフレド。
「エルス姉!なんでここに?」
「セシリアに呼ばれたんだ。」
「セシリア姉さんに?一体なんだろう・・・?」
「私も何も聞いてないんだ。それよりなんだか元気がなさそうだな。」
エルスの問にアルフレドはドキリとしてしまう。
「あ、うん・・・実はオリエンテーリングの時に僕の所為で、先輩に大怪我をさせてしまって・・・。先輩にはきにするなっていわれたけど・・・その怪我はその人の人生を変えるほどの怪我で・・・。」
アルフレドが話す先輩が誰の事かエルスにはすぐに分かった。彼女はなるべく優しい声色でアルフレドを元気付けようとする。
「アル、その先輩はお前の事を責めていたか?」
「いや・・・あの後、謝りに行ったんだけど逆に僕達に怪我がなかったか聞かれて・・・それで情けなくなって・・・。」
アルフレドはその時の様子を思い出し余計に落ち込んだ。それを見て今度は彼に喝を入れるため強めの口調で話す。
「アル!反省するのは大事な事だ。しかしその事ばかりに囚われて本当に大事な事を忘れるな!」
「大事なこと・・・?」
「ああ!お前が助けられた時、情けないと感じた以上に思ったことはなんだ!」
「自分が思ったこと・・・それは・・・ああ、そうだ!」
何かに気づいたアルフレドの様子に満足そうに頷くエルス。
「分かったみたいだな。」
「うん!僕はあの時、ボロボロになりながらも自分達を守ろうとする先輩を見てあんな風になりたいと思ったんだ!」
「そうだ。あの日の事はアルにとって挫折かもしれない。それでもお前は見たはずだ!ボロボロになりながら、それでも誰かを守ろうとする男の姿を。それを思い出したんならもう大丈夫だろ?」
「うん!結局僕は自分の事しか考えていなかった。先輩を傷つけた事を言い訳にして、自分の弱さを認められなかったんだ・・・。今度は先輩に謝りじゃなくお礼を言いに行くよ。そして彼みたいになれる様に一から頑張ってみるよ!」
アルフレドの決意に彼はもう大丈夫だとエルスは感じていた。その時、後ろから声を掛けられた。
「エルス!・・・とアルフレドも一緒だったのね。エルス来てくれて助かったわ。」
声をかけて来たのはセシリアだった。
「ちょうど良かったセシリア。今から部屋に行こうとしていたんだ。」
「そうだったの・・・アルフレドとのお話はもういいのかしら?」
セシリアの問にアルフレドが答える。
「うん、姉さん!それじゃあエルス姉、また!」
「ああ!がんばれよアル!」
その場を離れるアルフレドを見送った後にエルスにセシリアが問いかける。
「アルフレドの迷いが晴れていたのはあなたのおかげかしら?」
「いいや・・・アル自身で答えを見つけたんだ。」
「そう・・・でもお礼を言っておくわ。ありがとう、エルス。」
そう真っ直ぐ言われ思わず照れてしまうエルス。
「と、とにかく今日呼び出したのはなんでだ?」
照れ隠しにそう質問するエルスを微笑ましく思いながらもセシリアは答えた。
「あなたに相談があるの!」
「相談?」
「詳しい事は私の部屋で話すわ。」
セシリアの自室に移動する二人。部屋ではセシリアの幼い頃からのメイドであり親友でもあるレイラが紅茶をいれながら待っていた。
「お帰りなさいませセシリア様。そして、いらっしゃいませエルス様。」
レイラの丁寧な挨拶に思わず苦笑するセシリア。
「エルスだけだからいつも通りで構わないわ、レイラ!」
セシリアにそう言われたレイラはコホンと咳をすると、改めて挨拶をする。
「では改めて・・・お帰りセシリア。エルスもいらっしゃい。さあ二人とも座って!」
二人が座るのを確認してレイラは二人に紅茶を入れる。レイラの紅茶を飲みエルスは顔を綻ばす。
「相変わらずレイラの紅茶は美味しいな!」
「ありがと。まあ昔からやってることだしね。」
レイラの言葉の通り、彼女は幼いころからセシリアのメイドとして仕事をしていた。昔は色々あったのだが今では良き友人としての関係を築き上げている。もちろんエルスの事もよく知っているでこんな風に気安い会話もできる。一応レイラも、普段はメイドと姫という関係から丁寧な言葉づかいで話すように心がけているが、むしろセシリアの方が砕けた言葉づかいを使うことを望んでいる。
「それで・・・相談とはなんだ?」
エルスのさっそくの問いにセシリアは困り顔でレイラを見る。主の助けを望む視線に対して「しかり相談に乗ってもらいなさい!」という意味合いを込めた視線を返す。その視線を受け今度はしっかりした顔つきになるとエルスに視線を向ける。
「エルスに頼みがあるの・・・。」
「頼み?まあセシリアの頼みならばなるべく引き受けたいが・・・その様子だとかなり頼みにくい内容みたいだな。」
「ええ!・・・その、ね・・・・武闘祭に私と出てほしいの!」
「なるほど、武闘祭か!それは確かに頼みにくい、な・・・はぁ?」
セシリアからの頼みに思わず疑問の声を上げてしまうエルス。
「ちょ、ちょっと待て・・・武闘祭って、あの武闘祭か?」
「そうよ!恐らくエルスが思っているであろう武闘祭のことよ!」
彼女たちが話す武闘祭とはその名の通り武を競い合う祭りであり、一年に一度この国で必ず行われる慣例行事だ。この国にある大きな闘技場で、参加した選手たちが互いの力と誇りをかけて闘うのである。この試合の選手たちは貴族がそれぞれの家ごとに分かれ決める。この祭りに参加するに相応しいと思った選手を7人指定し、その貴族の代表チームとして祭りに登録する。つまり負ければ推薦した貴族の名が傷つくのだ。当然貴族間で選手の奪い合いは例年凄まじい。選手にとっても名誉や賞金を得られるチャンスでもある。選手に選ばれるため貴族に名を売ろうと必死になる兵士や騎士が後を絶たない。当然かなりの実力者が参加して来るので、生半可な実力では直ぐに敗退してしまう。
「そんな祭りに一学生でしかない私に参加しろと言うのか?そもそも王族はこの祭りの主催者側だ。参加出来なくもないが、何処かの貴族の支持を得られなければいけないはずだ!」
エルスの疑問にセシリアは申し訳なさそうに答える。
「ごめんなさい・・・きちんと事情を話すわ。まず、貴族の支持については問題ないの。ノートンおじさま、つまりアルベルト公爵家のチームとして出場する事が決まっているから。それからエルスに参加をお願いする理由を話すには、まず私がこの闘いに参加しなければならない理由を話す必要があるわ!」
「セシリアが参加するのには何か理由があるのか?」
「ええ!実は今回の闘いで私の婚約者が決まってしまうかもしれないの!」
セシリアの言った一言にエルスは少しの間、固まってしまう。
「えっ?・・・・・・それはどうゆう事だ?優勝者がセシリアの婚約者になるとゆう事か?」
エルスの疑問にセシリアは首を横に振る。
「少し違うの。簡単に言うと、私のチームを倒したチーム・・・そのチームを支持した貴族が指定した者が私の婚約者になってしまうの!」
「なんだかややこしいな・・・指定した者とゆう事は、その貴族の息子を指定する事も出来るわけか。今回はチーム作りに力を入れる貴族も多そうだな。」
エルスが言った最後の一言に、セシリアは大きくため息をつく。
「も〜簡単に言わないで欲しいわ!私は本当に好きになった人以外との婚約なんてしたくないの!」
セシリアの文句に謝りながらも疑問をぶつけるエルス。
「なんでそんな事態になったんだ?」
「そ、それは・・・。」
答えあぐねるセシリアを見兼ねてレイラが答える。
「セシリアが今まで来たお見合いの話を、全て断ったからよ。しかも一度も相手に合わずにね。」
「セシリア・・・それはいくらなんでも酷すぎるぞ!あなたの気持ちも分からないでもないけど・・・一度も合わずに断るなんて・・・。」
エルスに責められたセシリアは若干気落ちしてしまう。
「エルスだって好きでもない相手とお見合いなんて嫌でしょう?でも流石に問題になったわ。その事で議会まで開かれたの・・・。」
「その議会の場で多くの大臣や貴族の方々に責められたセシリアはつい『私は私が認めた者で無ければ婚約しないわ!例えば私を倒せる様な人物ね!』なんて言ってしまうから・・・。まあ、流石にこの国の姫君を直接倒そうとするのは出来る出来ない以前にまずいわよね。そこで、武闘祭で決める形で議会で決定したの。」
レイラの説明に一応の納得をするエルスだったが、結局最初の疑問が解消されていないことに気づいた。
「事情は概ね理解した。しかし、なぜ私を、チームに誘うんだ?セシリアが誘えばもっと有力な選手たちがチームに入るだろ?」
「この話が纏まったのが一週間前なの。この時には既に有力な選手候補者たちはもう何処かのチームに所属していたわ。だからといって適当な者を選んでも勝てる可能性は低いでしょう?だから信頼しているあなたにお願いしようと思ったの。」
そうセシリアに言われ思わず顔がほころぶエルスだったが、ある事に気づいた。
「そう言われるのは嬉しんだが、他のメンバーは決まっているのか?」
「いないわ!」
堂々と宣言するセシリアに思わず頭を抱えるエルス。更にセシリアは続ける。
「だから、貴方に心当たりがいないか聞きたいの。もし有るならその人たちが選手として出場できるかどうかを聞いて欲しいの!本当はこんな事を頼むのは心苦しいのだけど、私にはもう時間が無くて・・・。」
セシリアの真剣な様子を見てエルスも覚悟を決める。
「ふ〜、分かったよ!他ならぬセシリアの頼みだしなんとか協力するよ。心当たりがない事もないしな!」
「ありがとうエルス!」
「ありがとうねエルス。」
エルスの言葉にセシリアもレイラも顔に笑顔を浮かべ礼を言った。
一方その頃、エルスを見送りシキたちとのデートを楽しんでいたはずのギンロウは、学園内の訓練所にいた。
次回はギンロウが少し戦います。
それと親との再開の話です。