第二話帰ってきた者たちと迎える者たちと・・・
すいません。今回姫様は登場しません。主人公も登場しません。
この国の王であるエルク・セイクリッドはその日もいつも通りの執務を行っていた。
そんな中、連絡役の騎士が執務室のドアをノックする。
「執務中失礼します!」
「かまわん。どうした?」
「はい!旅人風の二人組が陛下への謁見を願い出ています。そのものたちは陛下の
サインが入った謁見許可書を持っていまして・・・。」
「分かった・・・そのものたちはどんな風貌だ?」
「は、はい!男女の剣士で、男性の方は黒髮に赤い目で長剣を背負っています。
女性の方は長い銀髪に黒い瞳で二本の剣を携えていました。」
「そうか、やはりあいつらか・・・やっと・・・いや、丁度いいタイミングで戻って来おって。」
「え?」
「いや、なんでもない・・・その者達を謁見の間へ案内してくれ!
それとアルスとカタリナも呼んでおいてくれ。」
「アルス様とカタリナ様もですか?」
「ああ!私も直ぐに向かうと伝えてくれ!」
「はっ!了解しました!」
連絡役の騎士は敬礼しその場を去る。エルクはそれを確認し謁見の間へ行く準備を始める。
「どうぞこちらへ!」
「は~い!ありがとね!」
騎士に案内され謁見の間へと入る二人組の剣士。そこにはすでにこの国の宰相である
アルス・アルセルクと、国王の奥方のカタリナ・セイクリッドの姿があった。
「お!久しぶりだね、アルスにカタリナ!」
そんな風に気楽に挨拶する女剣士に、謁見の間にいる騎士や大臣たちは一部の者を除き驚いていた。
当然である。この国の重要人物でもあるこの二人を呼び捨てで呼ぶなんて、この場にいる者たちには
考えられないことだからだ。だが予想に反し、その二人も親しい間柄のように挨拶を返す。
「本当に久しぶりだなシズネ!それからシンも!」
「お帰りなさいシズネ、シン!」
シズネと呼ばれた女剣士はカタリナに、シンと呼ばれた男の剣士はアルスに話しかける。
4人はまるで友人の様に話が弾んでいる。
「ずいぶん長い旅立ったな?」
「すまんな、こいつが色んな事に首を突っ込むもんで・・・。」
「しょうがないでしょ!楽しそうな事がたくさんあるんだもん!」
「シズネは相変わらずですわね!」
「そう言うカタリナもね!10年ぶりに会うのに全然変わってないじゃない・・・もしかして
エルフの血でも引いてるの?」
「そんなはずないでしょう!それこそあなたに言われたくないわ・・・昔と変わらない姿じゃない!」
そんな会話をしているとエルクも謁見の間にやって来る。その後ろにはこの国の騎士団の団長を
従えている。その騎士団長ガウルも軽い感じでシズネ達に挨拶する。
「おっす!嬢ちゃんに坊!」
「嬢ちゃんはやめてよね・・・。」
「坊はやめてくれ・・・。」
二人の文句を笑い飛ばすガウル。
「がっはっは!幾つになっても嬢ちゃんは嬢ちゃん、坊は坊だぜ!」
ガウルの言葉に諦めのため息をつく二人。ガウルとシズネ達が挨拶をするのを確認したのち、
エルクは周りに向かって告げる。
「済まぬが他の者は部屋を出てもらえないか?」
王の発言に騎士や大臣たちが驚く。
「し、しかし・・・護衛は・・・。」
護衛役の兵の言葉を、ガウルが遮る。
「この俺がいるんだ、何か問題があるか?」
「い、いえ・・・それなら何も・・・。」
護衛役の兵はスゴスゴト引き下がる。他の者達も何か言いたそうだったが、王の命令なので
引き下がった。そして部屋に残ったのは、王のエルク、その奥方であるカタリナ、宰相のアルスに、
シズネとシン、そして騎士団長ガウルの6人だけとなった。
「久しぶりだなシズネ、シン!よく帰って来てくれた!」
「こっちこそ久しぶりエルク!ちょっと予定より遅れちゃったね!」
「済まなかったなエルク!ほら、シズネ!あれを渡せ!」
「おっとそうだった・・・はい、これ、ちゃんと貰って来たよ!」
そう言って紙の束を渡すシズネ。それをエルクは受け取り確認する。
「うむ!・・・ふむ・・・確かに受け取った!」
エルクの様子に安堵するシズネとシン。
「よ〜し!これでお役目は済んだね!久しぶりにゆっくりしようかな?」
「そうだな・・・だがその前に・・・どうかしたのか?」
シズネとの会話を中断するシン。その理由はエルク達の様子がいつになく真剣だったからだ。
シンの問にエルクが口を開く。
「役目を全うした二人に済まないと思うが、頼みがある!」
「なんか嫌な予感・・・。」
「二人に新たな爵位を与えたい!」
「ちょっと待ってくれ!俺たちは一応お役目の為、侯爵級の爵位を授かっている!
新たなる爵位とはどうゆう事だ?」
「うむ!きちんと説明しよう。まず二人に与えたいのは公爵の爵位だ!二人も知っていると思うが
現在、公爵の爵位を与えてるのは三家だけだ!」
「ああ!そこに居るアルスが当主のアルセルク家。ノート・アルベルト氏が当主のアルベルト家。
そしてジャミル・グレイブが当主のグレイブ家だな!もしかしてそこから増やすと言う事か?」
「いや、それは出来ない!」
「まあそうだよな!現状で貴族が管理すべき土地は全て担当する貴族が決まっているはずだ!」
「そうだ!故に新たな貴族を増やせば新たな土地が必要となる。つまり他国へ侵略せねば
ならなくなる!極端な話だがな!」
「つまり・・・三家のうちの一つから爵位を取り上げると、そうゆう事か?」
「ああ!実はグレイブ家・・・彼らが収める土地の者からの陳情、苦情が近年、多くてな。
調べたところ問題も多いようだ。はじめは直接、ジャミルに注意をしていたんだが・・・
どうにも改善されない。このままほっとけばその土地の民の暮らしが脅かされる。
そこで彼から爵位を取り上げようと考えだんだが・・・。」
「代わりにその土地を収める者がいないか・・・王国の管理には出来ないのか?」
「不可能ではないが、正当な管理者がいないとまた問題になるだろう!誰か適当な者をとも考えたが、
理由もなしに選ぶとあとあとそれも問題になって来る!」
「そこにいる騎士団長殿は?功績も多々あるだろ?」
「それも考えたが・・・。」
エルクの話をガウルが継ぐ。
「俺はすでに伯爵の位と土地を授かっているからな!それに俺は軍部のトップだ!
それが必要以上の地位に着くのはまずいだろ?」
ガウルの意見に一応の納得を見せるシン。しかし疑問は晴れない。
「そこで俺たちに白羽の矢が立ったのか。しかし俺たちも大した事はしていないぞ。
ただ役目を果たして帰ってきただけだろ?」
「それが重要なんだ!お前たちがやったてくれた事は大変危険で難しいものだった。
それゆへ、他の者達もやりたがらなかった。それをお前たちはやり遂げた!
それだけでも十分な評価が出来る。その報酬として公爵の爵位とその土地を与えても、
何ら問題はない!どうだろう、引き受けてもらえないか?」
「う〜む・・・そう言われてもな・・・シズネ、どうする?」
「え、私?私に言われてもな・・・正直、話の途中からついていけてないし・・・
あなたはどうしたらいいと思う?」
「お前の好きにしたらいい!俺はお前の決定を全力で支援する!」
「・・・うん、分かったよ。エルク、一つだけ確認したいんだけど・・・私たちには土地や人を収めた経験が無いのは分かってるんでしょ!それはどうするつもり?」
「うむ!私たちの方でそうゆう仕事が得意なものを用意してお前たちのサポートをさせる。
そのものに一任をしても良いし、そのものから習いながら自分たちでやって見ても良い。
その辺は好きにするといい。」
「う〜ん・・・だったら引き受けてもいいかな?いいでしょ、あなた?」
「お前がそう決めたのなら反対はしない!しかしなぜこの時期なんだ。もうすぐアレもあるんだろ?
もう少し落ち着いてからでもいいんじゃないか?」
「慌ただしくて済まんな!ただなるべくアレの前に、今回の件を済ましてしまいたいんだ!」
「何か理由があるのか?」
「ああ!実は・・・。」
「ちょっと待ってくれないかな?」
エルクが話そうとした時、シズネが遮る。全員が疑問の視線をシズネに送る。
「話を中断して申し訳ないんだけど、その話は後じゃダメかな?」
「それは構わんが・・・何かあるのか?」
「うん!帰ってきてまだ息子に挨拶していないからね!報告しなきゃいけない事もあるから・・・。」
「そうですわね!帰ってきたのに家族で会うのが後回しなんていけない事だわ!あなた、
お話は後にしましょう!」
シズネの事情にカタリナも賛同する。さすがの国王も自分の奥さんには弱いのか、
「そうだな!話は後でも出来る!直ぐに会って来なさい!」
と直ぐに賛同する。その意見に笑みを浮かるシズネ。
「ありがとね!それじゃあまた後で!」
「すまんな!」
シズネは礼を、シンは謝罪をすると足早に去ってゆく。それを見届けた一同。
その中でアルスがエルクに対して疑問をぶつける。
「彼らの息子の腕の事は伝えてあるのか?」
「知っているはずだ・・・。」
「その原因もか?」
「ああ・・・だから今日、殴られる覚悟もしていた。しかし奴らはいつも通りだった。
そのせいで謝罪の言葉も言えなかった・・・。」
沈痛な様子のエルクに対して、カタリナは優し声色で声を掛ける。
「きっと彼らはその事を恨んではいないわ・・・だから私たちが気にしないように
普段通りの雰囲気で話したんだわ!でも今度あった時にはきちんと謝罪をしましょう!」
「うむ・・・そうだな、彼らと、彼らの息子であるギンロウ君にしっかりと謝罪しよう!
・・・我らの息子のせいで彼の腕を落とすこととなった事を!」
次回こそ姫様登場予定です。